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池上彰が力説するエンタメの必要性「エンタメのない世界は人間としての“緩慢な死”」

 新型コロナウイルスの蔓延により、苦境に立たされているエンタメ界。舞台やイベントの中止、新ドラマ放送スタート日の延期など厳しい状況が続いており、エンタメ・スポーツ業界合わせての損失は3300億円にもなるという。この現状について、池上彰氏はどのように捉えているのか。ORICON NEWSでは池上氏に対するメール取材を実施し、エンタメの意義について解説してもらった。また、こんな時期だからこそ「働く」ことをどう考えるか、率直に聞いてみた。

「私たちの生命維持にエンタメは必要不可欠。非常事態だからこそ、生き残っていける対策が必要」

 コロナショックが人々の日常、各業界を襲っている。チケット大手「ぴあ」の試算によれば、新型コロナによるイベントの中止や延期で生じた損失額は市場の2割にあたる1750憶円。5月中までイベントの中止が続いた場合は、市場の4割にあたる3300億円が失われるとしている。損失額は、すでに東日本大震災の後を超えているという。

 エンタメ界のマネタイズ面で重要な役割を果たしてきたアイドル業界も大打撃。AKB48が確立した「会いに行ける」のモデルそのものが崩壊。ライブ・イベントが続々と中止・延期となるなか、当然、箱であるライブハウスも煽りを。北海道のライブの聖地「COLONY」も4月末日を持って閉店を発表し、Twitterでトレンド入りするほどの騒ぎとなった。

 SNSでは多くの芸能人・アーティストが政府へ補填の訴えを行っているが、いまだ正式な具体策は発表されていない。これに池上彰氏は「非常事態だからこそ、エンタメ業界の人たちが生き残っていけるような対策が必要なのです」とエンタメ業界の人々が生き残るための政策の必要性を述べた。

「ドイツの緊急経済対策では、フリーランスのアーティストへの救済策が際立っています。モニカ・グリュッタース文化相は『アーティストは今、生命維持に必要不可欠な存在』と断言しました。私たちの生命維持にエンタメは必要不可欠。非常事態でも、いま非常事態だからこそ、エンタメ業界の人たちが生き残っていけるような対策が必要なのです」(池上氏/以下同)

 「エンタメは必要不可欠」と述べた池上氏は、その“意義”をどのように捉えているのか。

「笑ったり、泣いたり、怒ったり。人間には様々な感情がありますよね。そうした感情がのびのびと発露できる環境を用意してくれるのが、エンタメです。笑いは免疫力を高めるという研究結果もある通り、エンタメがなくなると、人間は感情の発露ができなくなり、鬱々としていきます。それは、人間としての“緩慢な死”ではないでしょうか。人間が人間らしくいられるために、エンタメは必要なのです」

有事のときこそ、エンタメの力が試される

 自粛ムードが漂うなかで、一躍注目されているのがインターネットを利用した発信だ。星野源は自身のインスタグラムで新曲「うちで踊ろう」を公開。ピコ太郎はYouTubeで「PPAP-2020-」を発表。ほかV6の岡田准一は公式YouTubeチャンネルで、自宅で出来る体操を紹介。川口春奈の自宅でヨガを行う動画も100万回以上再生されるなどして、それぞれが反響を集めている。

 ロケやスタジオ収録の中止が相次いでいる、テレビにおいても熱量の高い番組が。『緊急生放送!!FNS音楽特別番組 春は必ず来る』(フジテレビ系)、『CDTV ライブ! ライブ!』(TBS系)など、“こんな状況だからこそ頑張ろう”とのメッセージを込めた音楽特番が各局で組まれ、アーティストが熱のこもったパフォーマンスを披露。『史上空前!!笑いの祭典 ザ・ドリームマッチ2020』(TBS系)では、芸人たちが番組のために作った渾身のネタを披露。「番組からもアーティストからも熱意が伝わる」「久しぶりに笑えて、コロナ疲れが吹っ飛んだ」など、放送のたびにSNSは盛り上がり、多くの人にささやかな楽しみをもたらした。

 有事だからこそエンタメが力を持つ。池上氏は東日本大震災時を振り返り、こう述べた。「東日本大震災のとき、自粛ムードのテレビのCM界で、多くの人が『上を向いて歩こう』をリレー形式で流しました。あれには涙が出ました。有事のときこそエンタメの底力が試されます」

 コロナ禍において様々な発信があったなかで、池上氏も海外のある動画で元気をもらえたという。イギリスに住む6人家族のマシュー一家がアップした動画で、ミュージカルの「レ・ミゼラブル」の名曲「ワン・デイ・モア」を替え歌にしたパフォーマンスだ。外出禁止のフラストレーションをリリックに載せたもので、母親は「オンラインショップで買い物をしようと思ったら、9月まで在庫がありませんでした」と歌唱。子どもたちも「何マイルも離れたおじいちゃんおばあちゃんと話をしたかったんだけど、彼らはスカイプが出来ない…ハートブレイク…」と面白おかしく悲哀を表現するという内容だ。

「これには本当に勇気をもらいました。やはりエンタメは必要なのだと。けっして“不要不急”ではありません。たしかに“不急”の場合はあるでしょうが、“不要”ではありません。絶対に“必要”なのです」

新型コロナをきっかけに見つめ直される「働く意義」とは?

 このコロナ禍で、仕事を失った人、たとえ逃げ出したくても働かなければならない人、さまざまな困難を抱えた人々がいる。だからこそ「働くこと」とはなにか、改めて考えた人も多いのかもしれない。

 池上氏は書籍『なぜ僕らは働くのか』(Gakken)の監修を担当、発売している。働くことの意味や仕事の見つけ方について、子ども向けに分かりやすく説かれた内容となっているが、「(大人の方が読んで)もっと早くに欲しかった」「働くことだけではなく生きていくことへの道しるべになる本だと感じた」「親として子に伝えたいけど、伝えきれない部分を助けてくれる」という反響も。

 この反響について池上氏は「実は大人も、ふだん“働く”ことに無意識です。この本を読んで、“働くこと”の意味を再認識してくれたのではないでしょうか。仕事に行き詰まったりしたときに、この本を読むことで、大人も元気をもらえる。そんな内容になっていると思います」と分析する。

 本書では子どもに向けて「自分の好きなこと、得意なことから仕事を見つけよう」と伝えているが、様々な環境や背景を抱える大人にとっては、必ずしもそのように選択できる人ばかりではない。編集部から「現状のなかで、懸命に働く人々に伝えたいことは?」と質問したところ、「働くこと」への考え方を明示してくれた。「働いて給料がもらえるのは、どこかで喜んでお金を払ってくれる人がいるからです。つまり、あなたの仕事は誰かを”喜ばせている”のです。人として素晴らしいことではありませんか」。

 今度も「民主主義のインフラ」づくりのために、ニュースの解説を続けていきたいと話す池上氏。「民主主義とは、社会を構成する人々が、それぞれ自分の頭で判断できる社会です。でも、そのためには十分な判断材料がなければなりません。十分な判断材料があってこそ、人々は最善の判断が可能になります。政治でも経済でも国際問題でも、各人が判断できる質の高い情報が供給されること。それが民主主義のインフラにおける到達点だと思います」と前を見る。

 読書もエンタメも“不要不急”の“不急”ではないかもしれない。だが有事で心がすさみやすい今だからこそ、それらで心を温め、思考をクリアにしていくことも必要だと強く説きたい。

(文/衣輪晋一)
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