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そのまんまの“西川貴教”を起用し話題 朝ドラとアーティストの共犯関係とは
作り込みはせず西川貴教のまま自然に馴染む
また、「セリフがないところでも伝わる演技がいい」「表情だけで心情を読ませる演技がいい」「正直こんなに演技に対して絶賛することになると思わなかった」と演技の面でも高い評価を得ている。これまでも舞台を中心に俳優としても活躍してきた西川だが、テレビドラマへの出演は『おくさまは18歳』(2011年3月/フジテレビTWO)以来の約8年ぶり。多くの視聴者にとって西川といえばT.M.Revolution(=アーティスト)だっただけに、本作は俳優・西川貴教の印象を強烈に残したことは間違いない。
1996年にT.M.Revolutionとしての活動を開始した西川は、6thシングル「WHITE BREATH」(1997年10月発売)で週間アルバムランキング初の1位を獲得。同年『第48回NHK紅白歌合戦』に初出場を果たす。以降、アーティストとして第一線で活躍する一方で、起業家としての顔も持つほか、バラエティ番組での「オモシロ兄さん」的なポジション、さらにはNHK Eテレ『天才テレビくんYOU』でマーヴェラス西川として筋肉ムキムキの姿を披露し、子どもたちの人気者となった。アーティストを軸にマルチな活躍を続けてきた西川だが、『スカーレット』への出演は俳優としての存在感をより広い層にアピールする機会となったはずだ。
アーティスト俳優を受け入れる地盤を確立した近年の朝ドラ
そのアーティスト起用の流れを作った作品といえば、星野源が出演した『ゲゲゲの女房』(2010年)だろう。その後は『おひさま』(2011年)に金子ノブアキとピエール瀧、『カーネーション』(2011年)に黒猫チェルシーの渡辺大知、『あまちゃん』(2013年)にピエール瀧、『まれ』(2015年)に黒猫チェルシー・渡辺大知、『とと姉ちゃん』(2016年)にピエール、浜野謙太とアーティストの起用が相次いでいる。
さらに『ひよっこ』(2017年)には峯田和伸、シシド・カフカ、ザ・コレクターズの古市コータロー、ロックバンド・2(ツー)の古舘佑太郎が出演。『まんぷく』(2018年)には、浜野のほか、MONKEY MAJIKのメイナード・プラントとブレイズ・プラント兄弟、岡崎体育、ゲスの極み乙女。のほないこか(さとうほなみ名義)と複数のアーティストが出演している。なお、2020年放送の『エール』にも森山直太朗の出演がすでに発表されている。
アーティストにはビジュアルだけでなく、自身の内面がにじみ出る表現や生き方から、専業俳優とは異なる存在感があることは、誰もが認めるところだろう。時として演技力よりも存在感に重心が行くこともあるが、アーティストが放つ独特な表現力は物語に面白みや深みを与えてくれる。長らく保守的なキャスティングだった朝ドラだが、そうしたアーティストの個性を活かした配役が、近年の朝ドラの人気を牽引しているのは事実だ。
アーティストの持つ存在感と役どころの的確なマッチングで功を奏す朝ドラ
また、『まれ』で渡辺が演じたヒロインの同級生・二木高志は、シャイでほとんど言葉を発しないものの、音楽が大好きという役どころ。東京に旅立ちつ前に初めて仲間の前で持ち歌を披露するシーンは多くの視聴者の胸を打った。さらに『まんぷく』で進駐軍役で出演したプラント兄弟は、日本語と英語をミックスして話す役どころを違和感なく演じている。
アーティストがドラマに出演することは新たなファンの獲得や露出拡大につながるチャンスである一方で、自身が確立してきたアーティスト像を損なうリスクもある。しかしさすが歴史ある枠のキャスティング力というべきか、アーティストの持つ存在感と役どころの的確なマッチングが功を奏している。西川もまた、俳優としての側面を知らなかった層から好意的に受け入れられているのは、ジョージ富士川というキャラクターと本人が絶妙にマッチしていたからだろう。
昨年の大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺 』では星野、峯田、浜野、渡辺、ピエール(降板)といった、朝ドラ出演歴のあるアーティストが出揃ったことも目を引いた。今後、アーティスト俳優の朝ドラ→大河ドラマの流れも定着化するかもしれない。前述のアーティストたちのように、『スカーレット』でたしかな爪痕を残した西川にも、俳優としての活躍を期待したいところ。もともと舞台俳優としても活躍してきただけに、素のイメージを生かした役どころに止まらない芝居もぜひ見てみたいものだ。
(文/児玉澄子)