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【コミケ97】「宇崎ちゃん献血ポスター」炎上は勘違いが発端? その問題点を弁護士と運営に聞いた
「宇崎ちゃんポスター」が法律違反だというのは“勘違い”
同人活動への逆風の中、企業色の強い『企業ブース』に対しては慎重な意見もあったが、中田氏は「お試しでやってみましょう」と関係者を説得。『企業ブース』開催こぎつけたのだという。そうまでして『企業ブース』にこだわった理由とは。
「コミケの理念はアマチュアリズムですが、“文化”として醸成していくためにコンテンツの地位を高める必要がありました。その方策のひとつとして、企業というプロ集団と一緒にイベントを行うことによって、コミケをバプリックなモノに引き上げたかったのです」(中田氏)
C51では6社だった企業ブースの出展数も、今では百数十もの企業が出展するまでに拡大。ここで販売される限定品などは来場者にとってお宝となっている。一般ブースと同様に来場者を集める企業ブースは、コミケをパブリックなモノに育てるターニングポイントのひとつとなった。そして、中田氏が次に取り組んだのが『献血応援イベント』だった。
「当時、赤十字血液センターも“少しでも血液を集めたい”と活動をしていました。そこで、コミケでも何か協力できないかと考え、数十万人の人が集まるコミケで献血で行列をつくれないかと考えました」と、献血応援イベントのあらましを説明する中田氏。そして、「宇崎ちゃんポスター問題」で取りざたされている、法律が定める『自発的な無償供血』に違反しているのでは?という意見に対して「それは“勘違い”です」と語った。
献血応援イベントで赤十字血液センターは献血バスとスタッフを出す。コミケは場所を貸す。そして、ポスターやグッズは各企業が寄付したもの。つまり、ここに関わる全ての人が手弁当による無償の活動であり、「献血に対しての返礼、売血、報酬だ」と批判するのはそもそも“勘違い”なのだという。だが、今回の騒動をキッカケに日本の献血事業が直面している問題を知って欲しいと中田氏は話した。
赤十字によれば、関東における輸血の大半をコミケで集めた血液でまかなっている
赤十字によれば日本の献血者の97% 強がリピーターで、2.5%が初回献血者。しかし、献血応援イベントの取り組みによってイベントの初回献血者数 が47%に上昇したという。この数字は、本イベントがいかに“献血”と“アニメ・漫画ファン”を繋いだかの証左となっている。実際、年末年始は帰省ラッシュ・Uターンラッシュで事故が増えるため大量の輸血用血液が必要になるのだが、「赤十字によれば、関東近郊おける輸血の大半をコミケで集めた血液でまかなっている」と中田氏は教えてくれた。
では、今回のポスター騒動に関して、本来語られるべき「血液不足」という視点が抜けていることに不満はないか?と中田氏に聞くと、「まずは議論の俎上に載せられることが重要」と語尾に力を込めた。
「8年間行ってきた『献血応援イベント』という社会活動がようやく認知され始めたわけです。私は“知られていないということは存在しないも同じ”だと思っています。我々はコンテンツを使って献血に興味を持ったか方の“背中を押す”のが役割ですが、その活動を広く知ってもらうための議論なら大歓迎です」
それはまさに、“同人活動の場所を提供する”というコミケの存在意義と同じ。中田氏は「今後もこうした活動を続けていきたい」と前を見据えた。
好き嫌いで過熱した「宇崎ちゃんポスター問題」、議論すべき問題は他にもある
――宇崎ちゃんの献血啓発ポスターについて、「環境型セクハラだ」との意見がありました。
舟橋和宏環境型セクハラとは、男女雇用機会均等法11条に定められている「職場において行われる性的な言動により当該労働者の就業環境が害されること」がこれにあたります。そして、この規定を受けて、厚生労働省では指針を示しており、そこでは「労働者が抗議をしているにもかかわらず、事務所内にヌードポスターを掲示しているため、当該労働者が苦痛に感じて業務に専念できない」ことが一例として挙げられています。そういった点から、ヌードポスターを職場内に掲示するというのは、環境型セクハラと判断される可能性があります(この場合、この状況を放置したポスター設置者や会社が損害賠償請求を受けるなどの可能性がある)。ちなみに、環境型セクハラは、上記のように労働関係があることを前提として定義されているものです。しかしながら、セクシャルハラスメントの問題は、職場内に限った話ではありません。職場外でのセクハラについて、一義的な定義はありませんが、ざっくりいうと、性的な言動があり、一般的な人から考えて受任することができず支障が生じるといったことが必要になると考えられます。
――では、宇崎ちゃんのポスターは上記に該当しますか?
舟橋和宏結論から言えば、環境型セクハラということはできないでしょう。イラスト自体は漫画の表紙に使われたものと同じであり、特に単行本が販売された当時に問題となったという話も聞きません。また、指針にあるようなヌードなどでもありません。そういった点から、環境型セクハラ、その他セクハラにもまず当たることはないと考えられます。
――ではなぜ、SNS上では弁護士によっても判断が分かれるようなことが書かれているのでしょうか。
舟橋和宏率直に言って、弁護士的には環境型セクハラという判断はなかなかできないと考えられます。環境型セクハラという意見以外に、一部では女性差別撤廃条約に反するといった意見もありました。しかし、そもそも漫画のイラストが掲示されることで性区別をしたりするものでもありませんし、女性を蔑視するものでもないでしょう。こういったイラストが嫌いと述べられていた方もいますし、実のところ見解の対立というよりも、そういったイラストが“好きか嫌いか”で分かれているだけのようにも感じます。
――本件に関して、舟橋さんの個人的な感想があれば教えてください。
舟橋和宏こういったイラストに関する批判は、三重県志摩市の“海女萌えキャラクター”碧志摩メグ、東京メトロのイメージキャラクター駅乃みちかのコラボ企画などたびたびおこなわれています。そのたびに、「とんでもないイラストだ」などという意見が出ますが、正直、そこまで激烈な意見を出すまでの問題と言えるのか疑問に思います。
――ポスター批判に対する反論としては「表現の自由を守れ」という意見もありました。
舟橋和宏表現の自由と言われますが、表現が外部に出て他人も触れる以上、絶対的に制約がないということはありえず、何らかの批判などが出るということは致し方ありません。そして、環境型セクハラなどに抵触するようなものであれば、結果的に制約を受けていくということもあるでしょう。しかし、ある表現物について様々な角度から議論を行うなど、議論を先に進めていくようなものであればまだしも、単に「けしからん」と言うことだけになってしまえば、その主張はよくないクレームになってしまいます。そうなってしまうと議論も進まず、真に改善されていくべきセクシャルハラスメントなどが埋没してしまう恐れもあるのではないでしょうか。
舟橋氏は、「好き」「嫌い」の感情による議論によって、真に改善されるべき問題が埋没する可能性を危惧。献血者数の減少問題や、他に議論するべき本質的なセクハラ問題…いま一度本質に立ち返って、議論するべき話題を考える必要があるのではないだろうか。
<プロフィール>
■舟橋和宏弁護士
レイ法律事務所所属。アニメ・映像コンテンツの権利保護に力を入れており、知的財産保護(特に、著作権・商標権保護)に精力的に取り組むほか、『子どもの人権と少年法に関する特別委員会』に所属し、いじめ予防授業等にも取り組んでいる。自他ともに認めるアニメオタク。大塚明夫氏が演じるイスカンダルが好きすぎてガチャにいくらつぎ込んだかは考えないようにしている。