お寿司の脇役”バラン”をアートに昇華、「築地玉寿司」社内コンクールがすごすぎる

 大正13年創業の『築地玉寿司』で40年間続けられている社内コンクールでは、“葉欄切り”の技術が競われている。“葉欄”とは、お寿司の脇に飾られている笹に見立てたアレで、味移りや彩りを添える役割を果たしている。その葉欄だけを使った作品コンクールのクオリティは年々上がっており、いつもは脇役の葉欄が見事に主役級のアートに仕上がっている。作品の題材は動物や風景、人物やアニメのキャラクターなど、ふだん見かける笹の形とはかけ離れた複雑で繊細なものばかりだ。

緑一色だからこそ高度な技術が求められる繊細なアートだから面白い

 昨年の最優秀賞は躍動感あふれるドラゴンが印象的なアニメ『蒼天の拳』の主人公・霞拳志郎を描いた作品。これまでガンダムなどの作品でも入賞を果たしてきた作者、職人歴24年の久保田宏さんに話を聞いた。

――今回の題材はどのように選ばれたのでしょうか。
【久保田宏さん】これまで8回ほどコンクールに出品していたのですが、いつも2位、3位で悔しかったので、“今回こそは最優秀賞をとりたい”という思いで、自分の魂が入るものを題材にしようと、大好きなアニメを題材にしました。

――ドラゴンのうろこ部分はとても細かいですね。
【久保田宏さん】一番工夫した所です。荒々しさ・インパクトを意識しつつ、かなり集中して臨みました。

――制作時間はかなりかかりそうですね。
【久保田宏さん】3〜4ヵ月、自宅で妻と協力して仕上げました。仕事が終わって深夜0時〜2時頃に作業していました。

――材料は何を使っているのですか。
【久保田宏さん】コンクールでは本当の笹ではなく、人造のビニール製のものを使います。作業は包丁一本で、切れないように仕上げていきます。

――コンクールで磨いた技術が実際の店舗で活かされることはありますか。
【久保田宏さん】こういったアートのような葉欄を店舗で提供することはありませんが、丁寧さ・慎重さ・集中力は活かされてると感じます。また、コンクール作品を作るときに全体のバランスを考えるので、盛り付けの時に色合いや切り方を“デザイン”として考える創作技術も磨かれたと思います。

――葉欄切りならではの魅力は何か感じていらっしゃいますか。
【久保田宏さん】シンプルさが好きです。緑一色だからこそ繊細さが目立つので、高い技術が求められるという難しさも熱中した理由かもしれません。

アートの力を通じて、“寿司文化の継承”へもつなげていきたい

 これまで築地玉寿司の社内コンクールでは、40年間で1000以上の葉欄アートが出品されている。その技術が直接店舗で活用されたり、入賞作品が店舗に飾られてたりしていないとのことだが、これほどまでに社内コンクールに力を入れる理由を築地玉寿司の秘書広報室・太田佳子さんに聞いた。

――なぜ葉欄切りの社内コンクールが行われているのでしょうか。
【太田佳子さん】“葉欄切り(笹切り)”というのは、寿司職人の基本的な技術です。新入社員はこの技術をいち早く学び、習得していきます。弊社のコンクールで出品される作品は、いわゆる“アート”であり実用性のないものですが、職人ならではの技術力と個性を表現する場として、年に1度開催されています。

――コンクールの参加条件はあるのでしょうか。
【太田佳子さん】参加は弊社の全スタッフが対象で、エントリー条件は特にありません。ここ数年はパートの女性陣も出品し、かなり上位の賞を獲るなど活躍が目立ってきています。最優秀賞に輝いた人もいます。

――見事な作品の数々、社内コンクールの場だけで披露されるのはもったいないですね。
【太田佳子さん】以前は店舗によっては壁に飾り、お客様が購入されるというケースもあったようですが、現在は、店舗空間の統一性を図るため本社が買い取って保管していますので、店内に飾ったりすることもなくなりました。

――審査のポイントはどのような点なのでしょうか。
【太田佳子さん】審査はコンクール見学者・参加者を含め、来場者の投票で行います。これまで多くの最優秀作品を見てきましたが、一言で言うと本当に“芸術品”です。評価のポイントは、細い線をいかに途中で切らずに繋げて切っていくか。線が滑らかで細かく、繊細であればあるほど高評価です。どんなテーマでどんな題材を選ぶかも重要で、作品としてのインパクトが大きいほど、投票率は上がります。

――社内コンクールをどのような場にしていきたいですか。
【太田佳子さん】詳細は未定ですが、今年も10月16日に「社内すし技術コンクール」を予定しています。この機に「寿司文化の継承」という後世に伝える大切な使命を意識させつつ、なぜ技術力向上が必要なのかを考え、コンクール出場経験を自分たちの成長の糧にしてもらいたいと思います。

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