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(更新: ORICON NEWS

「笑っていいとも!」は僕にとっての学校でした、フジテレビ・木月洋介氏

――木月さんにとって、『笑っていいいとも!』はどんな番組でしたか?
 もうまさに「学校」ですよね。「いいとも」はディレクターという役割の人は各曜日にたった1人だけで、1回の生放送を全部隅から隅まで作るんですよ。1日に3つのコーナーをやって、視聴率が悪かったらコーナーを放送後3日間とかのスパンで入れ替える。「予定不調和」の連続の中で、ディレクターやADは日々成長できました。出演している「演者」さんにとっても、すごく大切な場所だったと思います。生放送でお客さんを目の前に喋って、若手の方々は経験値もすごく上がりますよね。あとは、今までテレビに出ていなかった人があの番組から出てきました。スターもたくさん生まれましたよね。僕が担当している番組『久保みねヒャダこじらせナイト』に出ている『久保ミツロウ』さんが初めてテレビに出てくれたのは『笑っていいとも!』でした。今考えても、本当に大きい番組。あのシステムがなくなったのは、僕らにとっての「学校」を失った感じですよね。

――「いいとも」からたくさんのスターが生まれた中で、今、お話に出た『久保みねヒャダこじらせナイト』はトークイベントも開催し、多くのファンがいますね。
 そうですね。僕自身もMCの3人から学ぶことが多くて、そのアイデアをこっそり他の番組で生かしたりもしています。もともとこの番組は5年間、深夜のレギュラー番組として放送していたんですが、去年秋の改編のタイミングで終了しました。ただ、番組のファンもたくさんいたので何かの形で続けたかった。だから「久保みねヒャダトークイベント」として、月1回「イベント」という形で継続させてもらいました。ただトークイベントをするだけではなく、「ビジネス」として成立させる。イベントを「黒字化」にする事が、僕の中で「絶対」でした。ビジネスとして成立すれば、「終わる」ことはない。「改編のタイミング」も基本的に関係ありません。あと予想外に功を奏したのが、イベントなので今までは放送で言えなかったことがなんでも言えるんです。何よりもあの番組は、MCの三人がのびのびと喋ることが一番大事なんですよね。そういう意味では番組の面白さが進化しました。半年間トークイベントを実施し、また今年の4月から地上波でレギュラー放送されることになりました。一度終わった番組が半年でまた復活するという、異例の展開です。

――地上波での放送に復活して、影響はありました?
 かなりありました。放送がなかった期間のトークライブは、既存のお客さんが多くて新しい方は少なかった。でも地上波の放送が始まると深夜番組で視聴率が1%ほどなのにも関わらず、1500席のチケットはすぐに完売。新しいお客さんもかなり増えました。視聴率1%だと関東地区で数十万人が見ていると言われますから当然かもしれません。イベントを通じて「地上波」の影響力をとても感じましたね。視聴率が1%だと「テレビ局」としてのメリットは少ないかもしれませんが、イベントをベースに考えると「大きな価値」があります。『テレビの力』を感じましたし、新しいビジネスモデルとしての可能性も感じました。

――「テレビ」という面で考えた時、木月さんは「視聴率」を気にしますか?
 もちろん気にしますよ。特にゴールデンの番組は気にします。この時間帯は視聴率を取らないと意味がないと思っています。色々な番組を担当していますが、企画や番組内容を考えた時に、ゴールデンに合っている内容なのか、深夜でやるほうが良いのかをまず考えます。何百万人がおもしろいと思うだろう企画はゴールデンで試しますし、そうじゃないだろうものは、深夜帯や配信で試すようにします。ゴールデンだけじゃなく出し所が色々増えたおかげで、色んな事に挑戦できる。作り手にとっては、すごくありがたい環境になったと思います。

――フジテレビの視聴率が下がったと言われている中で、ご自身が思うことはありますか?
 僕自身もそうですが、若い人がどんどん育っていかなければならないと思っています。20代や30代のディレクターが経験値を積んで、ゴールデンの総合演出をやったり、新しい番組を作っていく。今は「新しいもの」を作らないと話にならない。会社はチャンスをくれるし、挑戦することを歓迎してくれます。先日始まった新番組『99人の壁』は入社3年目の社員が企画した番組です。若手が提案してきた企画に対して、僕がアドバイスをしてブラッシュアップしていく。チーフプロデューサーとして、そういった役割を担うことも最近は多くなってきましたね。

――番組を作るうえで大切にしていることはありますか?
 やっぱり「フリ」が大事だと思っています。27時間テレビの小道具の話もそうですが、あれはまさに「フリ」の回収ですよね。「結末」を睨んだ上で、「フリ」をどう作っていくのか。「フリ」の作り方によって笑ってもらうものにも、泣いてもらうものにもなる。まさにコントの作り方なんですよね。それを『ピカルの定理』のときに飛鳥さん(片岡飛鳥氏:ex:めちゃイケ総監督)に習いました。方程式というよりは、何が一番のピークで、何を一番伝えたいのか。それに対してどういう「フリ」を作っていくのか。これを細かく教えてもらってから『いいとも!』でのコーナーの組み立て方など自分の番組の作り方が全部変わりましたね。VTRがメインの番組も「フリ」を直します。「フリ」が十分でない時や長すぎる時もあるので細かく直します。『ピカルの定理』が終わった時「コント」がなぜゴールデンで通用しにくいのかなって考えたんです。もちろん予算的な理由もありますが、視聴率を取りづらいのが主な理由です。なんで視聴率が取りづらいのかなと考えた結果、『フリ』を変えてみては?と思ったんです。詳しく言うと視聴率を取るためにはコント番組に「番組を見る理由」をちゃんと提示する「フリ」を作ってあげることが必要なのでは?と思ったんですね。かといって純粋に「今から面白い事やるから見て下さい」という「フリ」から番組を始めるとハードルを無駄にあげることになり「笑い」には繋がりにくい。でも「このあとスカッとしますよ」というくらいの「フリ」だったら、「番組を見る理由」もちゃんとあり、かつ笑いやすくもなるのでは?という。この考え方で「スカッとジャパン」を作ったら、おかげさまでゴールデンで通用する視聴率になったんです。「このあとコントします」よりも「このあとスカッとします」の方が笑いやすくなるといったことです。芸人さんだと「コント」のイメージが強いので主に「俳優」さんに出演してもらっているのも、投稿体験談に基づき再現ドラマ化しているのも、そういった部分を意識しているのはありますね。

――今、エンタメ業界が大きく変わってきています。その中で感じることはありますか?
 僕らの世代は「上の世代」を見て育ってきました。エンタメの事、テレビの事を色々教えてもらった。でもここ10年で大きく時代が変わって、ネット番組や配信番組も増え、YouTuberもたくさん出てきました。このまま逃げ切る上の世代の方もいるかもしれませんが、僕らはそうはいかない。これは困ったぞという状況です(笑)。でも、僕自身はすごく前向きで楽しんでいます。新しい形をどんどん作っていきたい。そういう意味で『久保みねヒャダこじらせナイト』という番組はいろんな可能性を感じますし、いろんなことを教えてくれます。先ほども話しましたが、一度終わった番組が「トークイベント」という形で継続し、また地上波に復活した。たった視聴率1%の地上波放送のおかげでイベントチケットが完売し、新しいお客さんが一気に増え「地上波テレビ」の影響力を感じました。『今夜はナゾトレ』の人気コーナーを書籍化した『東大ナゾトレ』は85万部の売り上げを記録し、親御さんがたくさん買ってくれた。『スカッとジャパン』の体験談の応募数も10万通を超えました。配信やネット番組もたくさんありますが、まだまだ「地上波」の影響力は大きいと思います。だからこそ、それぞれが連動しながら相乗効果を生み出すことが大切ですよね。
――最後に、木月さんの原動力を教えてください。
 自分が感じた小さな「面白い事やモノ」が世の中に広がって、たくさんの人に「面白い」と言ってもらえる。それは1つの原動力ですね。『久保みねヒャダ』の皆さんの素晴らしさも、世の中の人に知ってもらえた。僕が企画して立ち上げた『スカッとジャパン』でも「イヤミ課長」などの新しいキャラクターが誕生し『木下ほうか』さんの魅力も多くの方に伝わりました。僕はありがたいことに、ゴールデンの番組も深夜の番組も担当しているので、色んな側面を見ることが出来て、色んな挑戦が出来ます。ただ番組を作るだけではなく「ビジネス」としても成立させる。そういった新しい形を模索しながら、これからも「面白い事」をどんどん生み出していきたいですね。「テレビ」にはまだ大きな価値があると、僕は信じています。

フジテレビ・木月洋介氏(C)MusicVoice

フジテレビ・木月洋介氏(C)MusicVoice

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 今年の3月、フジテレビを代表するバラエティ番組『めちゃ×2イケてるッ!』と『とんねるずのみなさんのおかげでした』が終了した。長年続いた「歴史的番組」が終了した時、大きな「寂しさ」と共に、長年、ゴールデンタイムを楽しませてくれた事への「感謝の気持ち」でいっぱいになった。フジテレビの番組が大好きだった少年がやがて、フジテレビに入社し「制作側」の立場になって番組の終わりを見届けた。だからこそ、他の誰よりも「終わる」ことに対する様々な感情を抱えていたんだと思う。「新しい形」「若手の成長」この2つを何度も言葉にしながら、自身が担当する番組の魅力を話すときは、本当に楽しそうだった。番組の終わりは新しい番組の「誕生の瞬間」でもあり、フジテレビからまた新しい「歴史的番組」が生まれるのは、そんなに遠くない未来かもしれない。

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