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“フィクション”だからこそ伝わる、『3年A組』に見る“熱血教師ドラマ”の存在意義
若手の登竜門が“戦隊モノ”に移行、覇権を失った“学園ドラマ”
だが“教師と生徒がぶつかり合う”といったアツい構図の学園ドラマを最後に見たのはいつの頃だったか…。『GTO』(AKIRA版・フジテレビ系)、『ハンマーセッション!』(日本テレビ系)など教師が問題を解決するドラマはあったものの最近はめっぽう数を減らしていた。
過去を振り返ると、「すべての学園ドラマのフォーマット」と言われる『3年B組金八先生』(TBS系)、『ごくせん』(日テレ系)、『GTO』(反町隆史版・フジ系)、『ROOKIES』(TBS系)などのタイトルが。『金八』では上戸彩、風間俊介、濱田岳、中尾明慶、平愛梨ら数多くの俳優を輩出。『ごくせん』では松本潤、小栗旬、亀梨和也、赤西仁、速水もこみち、小池徹平、三浦春馬、三浦翔平らイケメン俳優に“箔”を。だが教師による行き過ぎた指導が問題とされる昨今、先生が生徒を殴るなんて描写は即問題になってしまうし、生徒と本気でぶつかり合う“熱血教師像”にリアリティはほぼゼロ。現代では若手俳優の登竜門としての立ち位置は、戦隊モノの作品の比重が大きくなっている。
『3年A組』のSNSやネット動画も話題、シリアスなドラマ本筋の“救い”に
例えば公式インスタ。今期ドラマ中一番のフォロワー数(44万人)を誇り、第一話放送前、生徒役の俳優全員が一人ずつ「見てね〜」と告知する動画や、ドラマ内でも披露されている朝礼ダンスを生徒たちが躍るダンス動画が話題に。人気女優・今田美桜は役名でのインスタを開設ており、激しく痛々しいドラマの本筋とは別軸で、ほのぼのとした日常を過ごす生徒や先生たちの写真をアップ。さらに日本テレビYouTube公式チャンネル「テレビバ」では、生徒たちが出演するショートムービーを公開。ドラマのエンディングで流れる日常の学校風景写真にリンクする “青春像”が映し出されている。
「ただチーフプロデューサーの西憲彦氏に直撃したところ、本作の場合は“朝礼ダンス”がSNSで拡散・“踊ってみた動画”の流行は自然発生的だと語っており、狙ったわけではない様子」と話すのはメディア研究家の衣輪晋一氏。「また『本作において意味のないシーンや事柄などない』とも話しており、エンディングに映し出される写真など、生徒のほのぼのとしたネットコンテンツの姿も含めて一つの世界観と示唆していました」
「また実際に撮影現場に潜入すると、モブシーンとも思える画面ちょい映りの場面でもスタッフが生徒一人ひとりに、各々が何を知っていて何を知らないか、彼らの人格を丁寧に肉付けして回る光景も。これによりテレビ本編含め、SNSや動画サイトなど媒体の役割を生かして売出し中の若手俳優の魅力を発揮できる場をしっかりと提供しており、またドラマには立体感も。サイドストーリーとしての機能も果たし、シリアスでトリッキーな展開を見せるドラマの“救い”という副作用も生んでいます」(衣輪氏)
現代の生徒たちが、“愛ある熱血教師”を望んでいるがゆえの人気なのか?
とはいえ、現代の学生たちはどういう教師像を望んでいるのか。生徒に真正面からぶつかり合う“熱血教師”を本当に切望しているのだろうか?
先週放送された『3年A組』第8話の視聴率は12.0%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。翌日の学校や仕事を控える日曜22時30分からの放送としては十分な数字である。SNSではドラマで繰り広げられる教師と生徒の対話に「現実でやったらパワハラ暴力と言われるんだろうけど、フィクションでありドラマだからこそ伝えられる大切なこと」という感想も出ている。一方では同作の強烈な“フィクション”という枠組の中だからこそ、過去のものとなったと感じられた“熱血教師像”が許されている、人々の心に深く浸透しているという現状もありそうだ。
教師が暴力をふるうように生徒たちが仕向け、その様子を隠し撮りした動画がSNSで拡散され大問題になる事件も起きている昨今。「人として大切なことは? どんな大人になってほしいか? その“熱意”を伝えづらくなっている現状で、熱血系の学園ドラマは“教育”としての役割をも担い得る」と衣輪氏。熱血学園ドラマは今の時代でも、時流に合わせて存在していく意義があるはずだ。
(文/中野ナガ)