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中二病監督・福田雄一、『今日から俺は』に見る幼児退行“ダダこね演技”のインパクト

  • ヒットメーカー・福田雄一監督

    ヒットメーカー・福田雄一監督

 1988年から1997年まで「少年サンデー」(小学館)で連載されたヤンキー漫画の実写化『今日から俺は!!』(日本テレビ系)が話題を呼んでいる。3月にドラマ化が発表されて以来、「三橋と伊藤ちゃんの奇抜な髪どうする?」「あのギャグは再現不可能」と、SNSを中心に始まる前から非難轟々だった。ところが、蓋を開ければ視聴率・満足度ともに今秋ドラマのダークホースとして好調をキープ。SNSでのツイート数も多く、小学生にまでも人気が浸透しているという。そんな本ドラマの監督を務めるのはドラマ『勇者ヨシヒコシリーズ』、映画『銀魂』などで実績を重ねるヒットメーカー・福田雄一監督。俳優の“バカ演”を引き出す福田監督の手腕とは?

アニメ・漫画の実写化は“炎上必至” でも収益的には安全パイな鉄板コンテンツ

 これまで、アニメ・漫画原作の実写化企画が立ち上がる度に、原作ファンを中心に「実写化やめて問題」が話題となってきた。その際、ファンの間で“黒歴史”としてあげられるのがハリウッド映画『DRAGONBALL EVOLUTION』。原作者の鳥山明氏が「別次元の『新ドラゴンボール』として鑑賞するのが正解かもしれません」と異例のコメントを発表したことも。昨今も、『進撃の巨人』『ジョジョの奇妙な冒険』『鋼の錬金術師』など人気作品の実写化が発表される度に賛否が分かれた。

 炎上すると分かっていながら、なぜコミック原作が人気なのか? それは、作品の認知度が高く、コアファンの根強い支持があるため視聴率や興行成績など収益面で安全パイであること。そのほか、ビジュアルイメージが決まっているため、上層部への稟議がオリジナル作品よりも通りやすく、出版社と連携した大規模展開をできる点も大きな要因だろう。

 事実、原作に忠実なキャスティングと演出で評価された『DEATH NOTE』『るろうに剣心』などはヒットを記録。福田監督も、映画『銀魂』『HK 変態仮面』『斉木楠雄のΨ難』、ドラマ『勇者ヨシヒコシリーズ』、『アオイホノオ』などで高い評価を獲得。有名作品に福田流の“笑い”を織り込んで、女性ファンや子どもなど一般層の獲得にも成功している。

 こうした点から、実写化成功を分ける要素として、コアファンを“満足”させる原作の忠実再現と、一般層を取り込む“笑い”が重要だと分かる。

ツッパリを美化せずギャグとして笑いに昇華「子どもはわからない位のものがいい」

 そんな福田監督が手がける『今日から俺は!!』は、「テーマが古い」などと発表当初は批判されたものの、今や「古さ=新鮮」という逆転現象を起こしている。視聴率は日曜22時30分開始ながら、25日放送の7話で自己最高の10.6%(関東地区/ビデオリサーチ調べ)を達成。秋ドラマの中で右肩上がりを続ける視聴率と満足度、その背景から見えるのは“偶然”ではない“狙い”の福田演出があった。

 本ドラマは、過去のヤンキーマンガのように、ツッパリを「カッコイイ」ものと美化せず、ギャグとして笑いに昇華。いわゆるイジリの笑いで見るものにカタルシスを感じさせている。また、昭和のツッパリ純情ヤンキー設定は、現代のデジタルネイティブ世代の子どもたちには目新しく、親世代には青春を懐古させる懐かしさの両輪で支持されている。

 実際、SNSでは「親子で『今日から俺は!!』観てるから(主題歌の)『男の勲章』を息子がまるっと歌えるのが不思議な感じ」「『今日から俺は!!』流行ってきたなぁ〜。息子の小学校でも話題になりだしたらしく興味もって見始めた!親子で話し合うのうれしい!」など、ファミリー層で楽しんでいる傾向が見てとれる。

 この点、過去の『勇者ヨシヒコシリーズ』、『銀魂』での成功例を踏襲しているようだ。ORICON NEWSのインタビューで福田監督は「家族と会話が生まれるドラマを」と述べ、福田監督流ヒットの法則を解説。「若い子たちが『なんじゃこりゃ』となって、いかに会話を生み出すかが大事。むしろ“分からない”くらいのものの方がいいんですよね。『勇者ヨシヒコ』が小学生にウケたのはそういうことだと思うんです」と分析。また、「笑えるだけだとダメなんですよね。笑えて格好いいものが作りたい、というのは完全に中二病(笑)」と、自身の作家性の根源に“中二病”の心があることを認めている。

連続ヒットはクセだらけの“福田演出”が国民的に認知された証拠

 福田監督のいう「なんじゃこりゃ」を生み出す源泉は、SNSでも「もはや奇行」と褒められる過剰なお笑い演出。今作でも、俳優陣がまるで“幼児退行”したかのような振り切った演技を見せている。幼児が母親に“ダダをこねる”ようなバカ演は、昨今のドラマでは見られない福田演出の妙だ。

 映画『銀魂』の神楽役で“鼻ホジ”を見せ話題をさらった橋本環奈は、今作ではキレると怖い早川京子役で大乱闘を演じたかと思えば、伊藤真司(伊藤健太郎)との大仰なラブラブシーンぶりで二面性を披露。ほかにも、著名俳優による変顔や白目などは、もはや通常運転。主人公・三橋を演じる賀来賢人は、福田組の常連だけに変顔だらけのぶっ飛び演技を毎回披露。7話では「うんこ」を連発する謎の歌まで軽快に歌い上げた。

 さらに同作には“福田組アベンジャーズ”の如く小栗旬、島崎遥香、堤真一、浜辺美波、柳楽優弥、山崎賢人、山田孝之らがゲスト出演。こうした俳優陣が福田監督のムチャブリ演出をノリノリで演じているのも人気の理由だろう。本ドラマでムロツヨシは『3年B組金八先生』(TBS系)の金八先生をモチーフとした椋木先生を熱演。6話では同ドラマの登校場面を完コピし、SNSでは「ムロさんの金八先生完コピOPが素晴らし過ぎて困る」など絶賛の声が多数見られた。

一方で、黄金パターンは模倣され“経年劣化”していく懸念も

 とは言え、福田監督流の演出が「クドイ」と一部で炎上している点もある。また、連続ヒットの“黄金パターン”ができつつあるため、自己模倣のマンネリに陥いる可能性もある。当然、他の作品に演出面で模倣されることも増えるだろう。そうなればエンタメとして消費され、福田演出の黄金パターンが経年劣化することも考えられる。だからこそ、賀来や橋本など新たな人材を福田組に迎え入れ、新たなエッセンスと刺激を注入することで“福田ワールド”の新陳代謝を図っているのではないだろうか。

 今後、ドラマ版『聖☆おにいさん』、映画版『ヲタクに恋は難しい』の監督も決まるなど、漫画・アニメ実写化の第一人者としても支持される福田監督。世代を超えたファンを獲得しつつ、一体感を強める福田組アベンジャーズとともに、どんな“新手法”を生み出すのか期待したい。

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