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『犬神家の一族』スケキヨ、役者冥利に尽きる強烈な“別格キャラ”
絶えない映像化『犬神家の一族』、遺産相続争いミステリの最高峰作品
『犬神家の一族』の物語の中心となるのは財閥である犬神家の創始者・犬神佐兵衛が残した財産を巡る親族たちの骨肉の争いだ。76年公開の石坂浩二版では先述のスケキヨの白いゴムマスク姿や、湖から足をV字型に突き出した死に様のほか、生首にすげかえられた菊畑の人形、天窓からのぞく死体の顔など名シーンがオンパレード。人気アニメ『ルパン三世』の主題歌や劇伴でも有名な大野雄二による音楽も秀逸かつ有名で、70年代から80年代にかけてブームになる角川映画の成功のきっかけとなった作品といえる(同作は角川映画の初作品でもある)。
故・市川崑監督の演出も冴え渡っており、座敷で不気味に輝く金色のふすまなどの特徴的な光と影の演出を始め、「よし、わかった!」と手を打つ故・加藤武さん演じる警察署長のキャラクターも人気に。原作では“目の悪い人には普通の顔に見えるほどのマスク”であるスケキヨのマスクは、真っ白なゴムマスクに。ヘソから下が湖から突き出しているスケキヨの死体は両足だけに、と多くのアレンジがほどこされ、現在の金田一耕助シリーズの映像イメージのプロトタイプとして今も君臨している。
白マスクと湖上に伸びる足…トラウマ級の恐怖だからこそ笑える?? 多くのパロディが派生
「あまりに強いインパクトだったせいか、当時のプールでは子供たちがスケキヨの死に様を真似して足だけを逆さに水面に突き出さして遊び、プールに『犬神家禁止』という注意書きも見られたほど」と話すのはメディア研究家の衣輪晋一氏。「パロディ作品も多く、『日清カップヌードル』のCMでは、湖上に突き出した両足の上にそれぞれやかんが載せられた演出があったほか、『リーガルハイ』(フジテレビ系)では、水面から突き出した足はもちろん、小池栄子がスケキヨの白マスクばりの顔パックを。設定も同作のパロディで作られており、設定だけで見ると『トリック』(テレビ朝日系)の新作スペシャル3もそうでした。またアニメ『クレヨンしんちゃん』(テレ朝系)のスペシャルでも『トレジャーハンターみさえ 酢乙女家の一族』で同作品をパロっています」(同氏)
このほかスケキヨマスクがパーティグッズとして、また湖上の逆さの両足がフィギュアとして売られているなどしている。どれだけスケキヨのインパクトが強く、同作とともに今も愛されているか、ここからも見て取れるだろう。
役者人生に箔 スケキヨ役がもたらす主役を喰う存在感
「スケキヨを演じる外見の大前提は端正な顔立ちであること。これは原作にもある設定で、その顔が醜くただれているギャップが人間の、そして戦争の悲哀も生んでいます。次に大切なのは演技力。顔が白ゴムマスクで覆われているため、表情で芝居を魅せることができず、目の動き、仕草、雰囲気の芝居での勝負になってくる。また物語をミスリードさせる役割も担っているため、非常に繊細な表現も必要。主役の金田一耕助役をのぞけば、最もキーとなる役柄のため、演技が上手いことは必要不可欠です。また飛び道具的なキャラクターでもあるため視聴者の印象にも残りやすい。爪痕を残しやすいという意味でも、役者冥利に尽きる役柄。“あのスケキヨを演じた”ということでの箔もつく」(衣輪氏)
以上を見ると賀来賢人は現在、ドラマ『今日から俺は!!』(日本テレビ系)で主演の三橋も好演しており、ほぼその条件を満たしているように思える。主人公ではないものの、物語を動かす存在であり、さらに見た目のインパクトで観た人にとって忘れられない登場人物となるスケキヨ。年月が流れ、様々な名優が演じ、ますますハードルが高くなっているこの役を賀来賢人はイメージ通りに演じてくれるのか、はたまたいい意味で期待を裏切った新たなスケキヨを誕生させてくれるのか。歴史ある作品にどんな爪痕を残すか期待したい。
(文/西島亨)