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ORICON NEWS
過去の名曲を“再利用”する背景は? 制作担当者が明かすCMソングの変化
CM発の爆発的ヒットは減少? 一方で目立つ楽曲の“再利用”
ここ数年もCMをきっかけに話題になる楽曲は多く、ホンダ『ヴェゼル』に起用されたSuchmos「STAY TUNE」はその一例だ。またSHISHAMOやWANIMA、竹原ピストルらはCMソングとなったことで認知度を上げ、2017年の『NHK紅白歌合戦』に出演を果たしている。だが今、そんな新しいCMソングをよそに注目を集めているのが、過去にも別のCMやドラマ等で聴きおぼえのある既存曲の“再利用”だ。
誰もが知るドラマ・映画主題歌も再利用、大滝詠一のあの曲は何度目か?
そして、とくに多く“再利用”された楽曲のひとつが、故・大滝詠一さんの「君は天然色」。現在サントリー『金麦〈糖質75%オフ〉』CMソングとしてオンエアされているが、これまでにキリン『生茶』(2004年)、アサヒビール『アサヒSlat』(2010年)など飲料系を中心に通算5本のCMに起用されている。大滝さんの名盤『A LONG VACATION』(1981年)に収録された「君は天然色」は、CMソングとしても時代を超えて支持されているのだ。
CM制作者が明かす、既存曲を使用するメリットとは?
「CMソングタイアップには、新曲を使用する場合と、既存曲を使用する場合の2パターンがあります。新曲は楽曲使用料、放送使用料が安かったり免除もあったりで、使用する側としてはありがたいけど、その分、歌を聴かせたいとかサビを使いたいとか、条件も多い。一方、既存曲は、選び方によってはターゲット世代を狙い撃ちできたり、そもそもの曲の魅力で新しい人を取り込めたり、訴求力も上がります。お金はかかるけど」(黒須氏)。
そんなCMソングだが、“使いやすさ”でいえば、「短くて印象的なフレーズがある曲」だという(黒須氏)。同CMで使用された「君は天然色」も、この条件を満たしている。CMのターゲット層に合っていたことに加えて、これまでのCMとは違った使い方をしたことも功を奏したという。
「『金麦〈糖質75%オフ〉』は30‐40代くらいがターゲットなので、明るく軽快で、その世代にハマる曲が良かったんです。「君は天然色」は、歌や歌詞も良いのですが、とくにイントロが素晴らしく、すぐに“あの曲ね!”と伝わる。15秒が勝負のCMにおいて、あの予兆的なイントロをうまく活用することで、ナレーションとも被らず、これまでの使われ方とは異なる新鮮な印象を残せたのかも」(黒須氏)
最近の“再利用”の増加ぶりを見ると、既存曲は使用料が安いのかと思えば、一概にそうとは言えないそうだ。「発売から時間が経っているからといって安いとは限らないですし、問い合わせてみなければわかりません」と黒須氏。「既存曲となると、ついクライアント上層部の方の趣味嗜好に左右される可能性はあるのですが、あくまで商品のターゲットありきです。ただ、新たに楽曲を作るより既存曲のほうが安心感もあり、クライアントに納得してもらいやすい傾向はあります」。
アーティスト側にもメリットが、古い曲が再び注目を集めるきっかけに
このように、既存曲の“再利用”は、CM商品のイメージアップだけではなく、アーティストにとってもチャンス。もちろん視聴者にとっても、懐かしさに浸ることができ、若い世代は時代を超えた名曲に出会うことができるとあって、それぞれに良い相乗効果を生み出している。
だが一方で、このような“再利用”が目立つということは、テレビにおいて中年層以降をターゲットとしたCM、商品が多いということでもある。それは間接的に、テレビで情報を得る若者が減っている、ということかもしれない。そんな状況も含めて、過去の名曲を活用する“再利用”は、今後も増えることになるだろう。新しい曲、過去の曲、どちらであっても、CMから生まれるヒットに期待したい。
(文:森朋之)