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ORICON NEWS
東出昌大、月9で開眼 “声“を生かした演出の妙
朝ドラにも2期連続出演 出演作多数も“棒読み”演技のレッテル
翌13年には、NHK連続テレビ小説2本に立て続けに出演。『あまちゃん』では北三陸駅の駅長・大吉(杉本哲太)の青年時代としてピンポイント出演し、次の『ごちそうさん』ではヒロイン・め以子(杏)の相手役に大抜擢された。演じたのは、「通天閣」とあだ名される長身で、ガチガチ理系の帝大生・西門悠太郎。め以子とは何かと衝突しながらも恋に落ちるが、口下手な性格ゆえに素っ気ない返答になるもどかしさは、キャラクターにも、東出の声の調子にもよく似合っていた。
だが、朝ドラで相手役を演じたことによる注目度・認知度の高まりから、耳の痛い指摘も聞こえてくるようになる。それは、東出の“声”だ。役者にとって声は非常に重要なもので、実は外見が普通であっても、表情の変化に乏しくとも、棒読みでも、深みのある声だと深いことを言うキャラクターに見えたり、魅力のある役者に見えたりしがちだ。その点、高低差に乏しく起伏なく、湿り気なく、奥行きのない声の場合、損をすることも多くある。
『コンフィデンスマンJP』で生きた“声” 役柄・演出のマッチに「かわいい」
長身でどう見ても目立つルックスなのに、素直で単純で、惚れっぽく、優しく、騙されてばかりで、朴訥としていて子どもみたいでなんだか“残念可愛い”人。肝心の「騙し」に関しては一生懸命だが、たどたどしく、いつも“戦力外”。そのため、ひたすら手間のかかる小道具準備などをさせられたり、自分だけが真実を知らずに利用されていたり、長澤まさみ演じるダー子の掌の上で転がされ、オモチャにされている。
メインメンバーの中で唯一、真っすぐで純朴で、でもちょっとズレていて、不憫可愛い性格が、一本調子でたまに上ずる声と絶妙にマッチしている。雰囲気のある声の役者が演じたら、裏がありそうに見えたり、含蓄が出たりしかねない。このキャラの愛らしさにこの声は必須だと言えるだろう。
計算の名演技! 非日常の世界に“ハマる”キャラクター性
「あの視線、何かで練習したということもないんですが(笑)。原作の中にある表情を再現した部分も多々ありますが、もしかしたら無意識に、僕の中にある黒い部分、怖い部分が瞬間的に出ていたんだと思います」(ORICON NEWS)
また、映画『散歩する侵略者』も強烈だ。地球を征服するためにやってきた侵略者・真治(松田龍平)たちは、人間から「家族」「自分と他人」「仕事」など、「概念」を奪っていく。最終的に手にいれようとした概念は「愛」。それを問うべく真治が教会を訪ねると、東出演じる牧師はたくさんの“言葉”を駆使し、流ちょうに語る。だが、“言葉”では本当の愛の意味は伝わらない。真っすぐに見開かれた濁りのない善良な目には、いくら愛について語っても語りつくせない“言葉”という存在の薄っぺらさが象徴されているように見えた。
さらにスピンオフ作品『予兆 散歩する侵略者』では、概念を容赦なくひょうひょうと奪っていく侵略者役を怪演。高身長で体を揺らさずヌッと歩く動きと、感情のない目、無機質な声のトーンは宇宙人的で、異様な恐ろしさを醸し出していた。非日常の世界にすんなりハマるキャラクターを作り出すうえでも、「声」は一役買っているように思う。
他にも、東出は映画『聖の青春』で天才棋士・羽生善治役に挑戦。本人が憑依したかのような仕草、クセ、佇まいなどの再現度の高さを見せた。これは実際に本人と会い、食事中にも所作を観察、メモをとるなど、研究を重ねた賜物である。村山聖役の松山ケンイチは、この熱演ぶりを対局シーンで正面から受け止め、「東出くんの小手先だけじゃない演技が、僕の心にも火をつけた」と語っている。
突出した高身長とルックスの良さ、個性的でアンバランスさのある声など、持って生まれた素材を生かしつつ、芝居に対する並々ならぬ熱量を抱き続ける東出。2012年に亡くなった名俳優、故・大滝秀治さんも若い時に「お前の声は壊れたハーモニカのようだ」と言われコンプレックスを感じていた話は有名だが、その味のある声こそアイデンティティであり、声以外の所作も名俳優の所以だった。
現に、コンスタントに出演作が続くだけあり、東出ならではの役作りが評価され、それを生かした演出がされている証拠だろう。不利とも言える声を逆手に取った名俳優のように、今後も“声”だけに縛られない活躍を見せてくれるのではないだろうか。
(文/田幸和歌子)