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東出昌大、月9で開眼 “声“を生かした演出の妙

  • 月9『コンフィデンスマンJP』に出演する東出昌大(写真:古謝知幸/PEACE MONKEY) (C)oricon ME inc.

    月9『コンフィデンスマンJP』に出演する東出昌大(写真:古謝知幸/PEACE MONKEY) (C)oricon ME inc.

 女優で妻の杏とともに好感度は高いものの、演技は「棒演技」とネット上で揶揄されてしまうこともある東出昌大。起伏なく一本調子に聞こえてしまう声により、役者として少々損をしている印象はこれまであった。だが、『コンフィデンスマンJP』(フジテレビ系)では、東出演じる「ボクちゃん」の単純で、騙されてばかりで、ちょっと残念な役にその“声”が最大限に生かされている。また、過去にも怪演と言われて実力を見せていた作品は、その特徴的な声だからこそ味が生まれていた。恵まれた容姿の一方で、役者として弱点とされてきた声質を逆手にとった演出に称賛の声があがっている。

朝ドラにも2期連続出演 出演作多数も“棒読み”演技のレッテル

 モデルを経て映画『桐島、部活やめるってよ』(2012年公開)で鮮烈なデビューを飾った東出。演じたのは、野球部員で、部活にあまり顔を出さない菊池宏樹役。クラスの中心グループに所属し、目立つ女子と付き合いつつも、常にどこか虚無感を抱え、親友・桐島が部活を突然やめたことにショックを受ける。その目立つ容姿の「一軍」感の陰に見え隠れする、孤独な内面は強い印象を残した。この役が評価され、東出は、『毎日映画コンクール・スポニチグランプリ』新人賞や『日本アカデミー賞』新人俳優賞を受賞してもいる。

 翌13年には、NHK連続テレビ小説2本に立て続けに出演。『あまちゃん』では北三陸駅の駅長・大吉(杉本哲太)の青年時代としてピンポイント出演し、次の『ごちそうさん』ではヒロイン・め以子(杏)の相手役に大抜擢された。演じたのは、「通天閣」とあだ名される長身で、ガチガチ理系の帝大生・西門悠太郎。め以子とは何かと衝突しながらも恋に落ちるが、口下手な性格ゆえに素っ気ない返答になるもどかしさは、キャラクターにも、東出の声の調子にもよく似合っていた。

 だが、朝ドラで相手役を演じたことによる注目度・認知度の高まりから、耳の痛い指摘も聞こえてくるようになる。それは、東出の“声”だ。役者にとって声は非常に重要なもので、実は外見が普通であっても、表情の変化に乏しくとも、棒読みでも、深みのある声だと深いことを言うキャラクターに見えたり、魅力のある役者に見えたりしがちだ。その点、高低差に乏しく起伏なく、湿り気なく、奥行きのない声の場合、損をすることも多くある。

『コンフィデンスマンJP』で生きた“声” 役柄・演出のマッチに「かわいい」

 だが、そんな東出が今までになかった「愛されキャラ」を演じたことで風向きが変わりつつある。『コンフィデンスマンJP』でも、スタート当初は「声が残念」という意見がネット上で散見された。しかし、回を重ねるごとに、東出演じるボクちゃんというキャラクターが生き生きと輝いてくる。SNSでも、「だんだんボクちゃんが可愛く見えてくる」「ボクちゃんの不憫さを愛でるドラマ」などの高評価が続出。いまやボクちゃんの魅力が作品全体を牽引しているほどにも見える。

 長身でどう見ても目立つルックスなのに、素直で単純で、惚れっぽく、優しく、騙されてばかりで、朴訥としていて子どもみたいでなんだか“残念可愛い”人。肝心の「騙し」に関しては一生懸命だが、たどたどしく、いつも“戦力外”。そのため、ひたすら手間のかかる小道具準備などをさせられたり、自分だけが真実を知らずに利用されていたり、長澤まさみ演じるダー子の掌の上で転がされ、オモチャにされている。

 メインメンバーの中で唯一、真っすぐで純朴で、でもちょっとズレていて、不憫可愛い性格が、一本調子でたまに上ずる声と絶妙にマッチしている。雰囲気のある声の役者が演じたら、裏がありそうに見えたり、含蓄が出たりしかねない。このキャラの愛らしさにこの声は必須だと言えるだろう。

計算の名演技! 非日常の世界に“ハマる”キャラクター性

 だが、今回のキャラクター人気はたまたまハマったわけではない。良くも悪くも声に特徴があるだけで、もともと目の演技や表情については高く評価されることも多かった。今も語り草になっているのは、『あなたのことはそれほど』(TBS系)で見せた狂気である。妻の不倫を知り嫉妬に狂うも、妻を愛で縛り続けようとする「笑っているのに笑っていない、悲しく、恐ろしい笑顔」には絶賛の声が続出した。その目の演技については、かつてインタビューにおいて、次のように語っている。

「あの視線、何かで練習したということもないんですが(笑)。原作の中にある表情を再現した部分も多々ありますが、もしかしたら無意識に、僕の中にある黒い部分、怖い部分が瞬間的に出ていたんだと思います」(ORICON NEWS)

 また、映画『散歩する侵略者』も強烈だ。地球を征服するためにやってきた侵略者・真治(松田龍平)たちは、人間から「家族」「自分と他人」「仕事」など、「概念」を奪っていく。最終的に手にいれようとした概念は「愛」。それを問うべく真治が教会を訪ねると、東出演じる牧師はたくさんの“言葉”を駆使し、流ちょうに語る。だが、“言葉”では本当の愛の意味は伝わらない。真っすぐに見開かれた濁りのない善良な目には、いくら愛について語っても語りつくせない“言葉”という存在の薄っぺらさが象徴されているように見えた。

 さらにスピンオフ作品『予兆 散歩する侵略者』では、概念を容赦なくひょうひょうと奪っていく侵略者役を怪演。高身長で体を揺らさずヌッと歩く動きと、感情のない目、無機質な声のトーンは宇宙人的で、異様な恐ろしさを醸し出していた。非日常の世界にすんなりハマるキャラクターを作り出すうえでも、「声」は一役買っているように思う。

 他にも、東出は映画『聖の青春』で天才棋士・羽生善治役に挑戦。本人が憑依したかのような仕草、クセ、佇まいなどの再現度の高さを見せた。これは実際に本人と会い、食事中にも所作を観察、メモをとるなど、研究を重ねた賜物である。村山聖役の松山ケンイチは、この熱演ぶりを対局シーンで正面から受け止め、「東出くんの小手先だけじゃない演技が、僕の心にも火をつけた」と語っている。

 突出した高身長とルックスの良さ、個性的でアンバランスさのある声など、持って生まれた素材を生かしつつ、芝居に対する並々ならぬ熱量を抱き続ける東出。2012年に亡くなった名俳優、故・大滝秀治さんも若い時に「お前の声は壊れたハーモニカのようだ」と言われコンプレックスを感じていた話は有名だが、その味のある声こそアイデンティティであり、声以外の所作も名俳優の所以だった。

 現に、コンスタントに出演作が続くだけあり、東出ならではの役作りが評価され、それを生かした演出がされている証拠だろう。不利とも言える声を逆手に取った名俳優のように、今後も“声”だけに縛られない活躍を見せてくれるのではないだろうか。
(文/田幸和歌子)

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