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長寿シリーズ『浅見光彦』、局と役者の垣根を越える優良コンテンツのワケ
偉大なるマンネリ、“お約束”で得られる視聴者からの絶対的な信頼感
浅見光彦はフリーのルポライター。長身かつ甘いマスクの33歳で、愛車は白いトヨタ・ソアラ。持ち前の好奇心から、雑誌記事の取材先で発生した事件に首をツッコむ“探偵ごっこ”を趣味としており、それが原因で地元警察に連行されるのが序盤の“お約束”になっている。その後の展開としては、(1)「警察庁の刑事局長である兄に迷惑をかけてはいけない」と何も語ろうとしない光彦。(2)そんな光彦に、地元警官たちが高圧的な取り調べ。(3)刑事局長の兄・陽一郎から電話で身元が判明。(4)慌ててゴマをすり始める警官たち…までがお決まり。この一連の流れがコミカルに描かれるのが特徴だ。
「また忘れてはいけないのが毎度登場するマドンナの存在。母から結婚を望まれ、姪や甥からも“結婚しないの?”と悪意なきツッコミを受ける光彦ですが、事件のたびにマドンナとの恋模様が。ですが最終的にマドンナが光彦に颯爽と別れを告げるのもお決まりとなっています。いわゆる探偵版“結婚できない男”。視聴者はこれら“待ってました!”の展開にいつもワクワク。だからこそ、“裏切られない”作品として局や演じる役者をまたいで長年にわたり愛されているのです」(衣輪氏)
類を見ない汎用性! 俳優が前面に出るのではなく、シリーズの顔はあくまでも“浅見光彦”
一方で実写『浅見光彦』シリーズの顔は、“浅見光彦”その人だ。作品ありきで、設定の“33歳”の年齢に合わせた若手〜中堅の役者が光彦を好演。大御所レベルの“2時間サスペンスの帝王”に頼らずともなり立ってしまうのが特徴で、光彦を演じることで主演級役者へ開花していくのもよく見られる光景だ。
「これは浅見光彦が名家の次男坊で、自身を“甘ったれた人生を歩んだ”と揶揄するキャラクター性と無関係ではありません。スター級が演じるとその強いイメージが、光彦そのものの魅力を消してしまう恐れもあります。ちなみに故・内田康夫さんによれば、光彦が飛行機嫌いなのは内田さんご自身が飛行機を苦手としているからだそう。また作品中には内田さんが通っていた北区の和菓子屋さんがよく登場しますが、内田さんの息吹そのものが感じられるキャラクターゆえ浅見光彦は魅力的であり、俳優や局の作風に頼らない汎用性の高い作品となったのです」(衣輪氏)
「そして、その“キャラの稀有さ”を表すあるエピソードもある」と衣輪氏は続ける。「浅見光彦は北区西ヶ原に居住する設定。北区区役所でその浅見光彦の“住民票”が発行されているのは有名な噂ですが、これが真実なのか直接、同所広報に問い合わせたところ、本当に登録、発行・販売されているとのこと。架空の人物のため“本物”ではないが、第一庁舎の1階、もしくは郵送で購入ができるそうです。浅見光彦は、役者、局だけでなく、“フィクション”と“現実”の垣根すら超える稀なキャラクターなのです」(同氏)
2時間ドラマを担ってきた“撮影所システム”が機能 変わらぬクオリティ
“撮影所システム”とは、日本では1930年代に確立されたシステムで、監督以下のスタッフがすべてその映画会社と専属契約していて、なおかつ監督ごとにスタッフが固定、俳優も専属だったシステム。1970年頃から映画会社各社が自社の撮影所を貸スタジオにしたことから純然たるシステムは今や残っていないが、作品ごとの監督や俳優、スタッフの固定などがこれら一部の作品で今も引き継がれていると言えるだろう。
「かつて2時間サスペンスを担ってきた、これらいわばポスト“撮影所システム“。2時間ドラマの衰退に伴って解体された部分もありますが、長年続くシリーズものではこのシステムの残り香が存分に発揮されています。局主導に寄らず、勝手知ったる制作会社の社員たちが受け継いできたからこそ、どこの局でもどの役者でもそのお決まりのクオリティが保てているのではないでしょうか」(衣輪氏)。
1995年から放送され、第1作〜第14作までを榎木孝明が、その後の第15作〜今作を中村が、それぞれ主演したフジテレビの『浅見光彦』シリーズ。本日の放送をもって中村は卒業するが、その中村が「この先、原作はまだまだたくさんあります」とコメントする通り、原作は150作近くも揃っている。現代風にアレンジできることも考えれば、長寿シリーズとして今後も続いていくに違いない。“永遠の33歳”浅見光彦は、今もどこかで好奇心たっぷりに事件を解決しているはずだ。
(文・西島享)