• ORICON MUSIC(オリコンミュージック)
  • ドラマ&映画(by オリコンニュース)
  • アニメ&ゲーム(by オリコンニュース)
  • eltha(エルザ by オリコンニュース)
ORICON NEWS

NHKの“口パク”落語番組が話題 文字通りの“見る落語”に挑戦

 昨年の3月と7月にパイロット版が放送され、10月からレギュラー化された『超入門!落語THE MOVIE』(NHK総合 毎週水曜日22時50分〜)が話題を呼んでいる。同番組は、落語家の口演に合わせて、役者たちが“口パク”“アテブリ”で演技をすることで、「長い」「単調」「難しい」と言われがちな落語を「初心者でも面白くわかりやすい“見る落語”」にした試み。視聴者からは「落語なんて映像化してどうするかと思ったけど、めちゃくちゃ面白い」「俳優のリップシンクのレベルが凄かった」などと絶賛の声が上がっている。ともすればリスクも伴うNHKの斬新すぎる“落語番組”の手法とはいったいどんなものなのだろうか。

噺家のセリフと役者の口の動きがピッタリ合うことで生まれる独特な“面白さ”

  • 『超入門!落語THE MOVIE』で番組の案内役を担当している濱田岳 (C)ORICON NewS inc.

    『超入門!落語THE MOVIE』で番組の案内役を担当している濱田岳 (C)ORICON NewS inc.

 番組の案内役は俳優の濱田岳で、濱田と落語のアテブリに出演する役者が、現代を舞台に演目の前振り的な演技をしたのち、実際のアテブリに入っていくという流れだ。本編のアテブリは、噺家が高座で話しているままに落語をし、そのセリフに合わせて役者が口パクしつつ演技をしていくというもので、噺家が「パッカパッカ」と馬の走る音を口でマネれば、それに合わせ役者も馬に乗って疾走するという再現フィルム的なノリ。

 古典落語の演目はほとんどが江戸時代に作られただけに、再現される映像は時代劇風の見慣れたものだが、出演する役者たちがバラエティに富んでおり、当たり前だがひとりの噺家が声色・しぐさを変えて何役も演じる中、口パク・アテブリで違う役者が次々と入れ替わる世界は何とも不思議でシュールな感覚だ。

 実際、レギュラー放送第1回目の「お見立て」では、妖艶な花魁を前田敦子が演じると思いきや、前田の口から発せられるセリフは噺家のものなので、声色を変えているとは言えオネエの花魁が喋っているような感じになる。「転失気」(てんしき)では鈴木福が小坊主役を演じているが、声はやはりおじさんなので、こちらも「笑える」などとネットで評判になった。噺家のセリフと役者の口の動きがピッタリと合っているがゆえの独特の“面白さ”があるのだ。

 この口パク・アテブリは、最近のアメリカでは“リップシンクバトル”と言われアン・ハサウェイがマイリー・サイラスの歌を振り付きで大熱唱(口パク)するという、セレブたちの口パクバトル番組が人気を得ている。日本で言えば、はるな愛の松浦亜弥や渡辺直美のビヨンセのモノマネなどを、渡辺謙や米倉涼子ら大スターが大真面目にやっているようなもの。この『超入門!落語THE MOVIE』も、アメリカのリップシンクブームを“逆輸入”したような側面があるのかもしれない。

落語が広く知られるきっかけとなり、新たな笑いの1ジャンルとして確立する可能性も

 確かに『超入門!落語THE MOVIE』は、最近のNHK Eテレのような“冒険的”な企画とも言えるが、古典芸能をネタにした教養番組の要素もあり、実際この番組を観ていると映像があるぶんだけ落語の内容がよくわかるし、またこれをひとりで何役も演じて、お客さんの“想像力”に訴え、映像を彷彿とさせている噺家の技量とはやはり凄いものだなと思わせる。また、定番の「目黒のさんま」などでは古典落語ながら、お腹を空かせた殿さまが「この近くにマック(マクドナルド)はないのか!」と怒るなど、意外と“最新バージョン”にマイナーチェンジしている部分もあり、落語の面白さや奥深さに多くの視聴者が感心しているのではないだろうか。

 これまでも宮藤官九郎脚本の落語を主題としたドラマ『タイガー&ドラゴン』(TBS系)や、昨年の桂歌丸の勇退前後の『笑点』(日本テレビ系)の高視聴率など、何度か一般層と落語との距離が近づいた瞬間に、“落語人気復活か!?”と盛り上がった。今回の『超入門!落語THE MOVIE』で本当の意味での“落語リバイバル”がはじまる可能性も十分ある。

 熱心な正統派の落語ファンからは、“本来の落語の味が損なわれる”との批判の声もありそうだが、落語初心者にとってはわかりやすく、落語が広く知られるきっかけともなり、新たなファンとして寄席に足を運ぶという相乗効果も生まれるかもしれない。また“落語通”にしても、落語の新たな楽しみ方として面白がる向きもあるだろうし、落語家と同じく芸人枠の塚地武雅、サンドウィッチマン、オードリーといった芸人たちが多く出演しているが、意外なほどすんなりと溶け込んでいるところを見ても、“新たなお笑い”の1ジャンルとして落語が再認識されることもあり得るだろう。

 ゆくゆくは、今は亡き名人たちによる伝説の名演が、超人気俳優によってアテブリで演じられる……といった贅沢な展開も期待できるかもしれない。
タグ

あなたにおすすめの記事

 を検索