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『下町ロケット』でも存在感 落語家・立川談春の俳優としての“凄み”
師匠・談志も絶賛 現在の落語界のエース的存在
そんな談春の数少ないドラマ出演に『ルーズヴェルト・ゲーム』があり、主人公の唐沢寿明が社長を務める青島製作所のライバル会社、イツワ電器の社長というヒール役を演じ、そのあくどい顔つきや嫌味な話し方、腹にイチモツ持つ悪いヤツっぷりは、同じような役柄で同作品に出演していた香川照之と比べても遜色がないほどだった。
『下町ロケット』では、阿部寛が社長の佃製作所に、メインバンクから出向してきた経理部長・殿村直弘役を演じている。実直で温厚な経理のオジサンといった感じで、血気盛んな若手社員たちや、開発・技術職と営業職との仲を取り持つ、いわば“大番頭”的な役まわり。数字にうるさいことも言うが、ときには「リスクのないところにビジネスはありますか!」と一喝する熱い部分も見せる人物。特に阿部が、会社を売却して辞任すると言ったときに、「あなたは夢に愛されている。だから逃げちゃいけないんだ!」と涙ながらに止めるシーンは迫真の演技で、ネットでも「目頭が熱くなった」「人の心を揺さぶる力があった」と反響を呼んだ。阿部も完全披露試写会で、このシーンに対して「現場でも大泣きしました」「何回観てもあのシーンでは感極まるものがあって…」と発言しているほどだ。また、『ルーズヴェルト』とも内容の設定が似ていることから、談春の役柄が180度違うことも話題になり、談春の演じ分けが一層引き立つことにもなったようだ。
古典落語で鍛えた演技力はヘタな俳優を軽く凌駕する
実際、談春のドラマ出演は、『黒い十人の黒木瞳III 「黒いカウンターの女」』(2013年6月30日、NHK BSプレミアム)のほか、連ドラでは2作のみ。『ルーズヴェルト』で本格的な演技力を開示しただけに、ドラマへの出演依頼も殺到していると思われるが、以後1年半ドラマ出演はなく、今作が満を持しての出演となった。昨年からスタートした30周年記念落語会ツアーで全国を回っていたということもあるだろうが、本人が本業の落語の世界を何よりも大切にし、メディア露出を厳選しているのだと思われる。そうした姿勢にも、落語家としての確固たる矜持がうかがわれる。30周年記念落語会ツアーも、今年の8月に無事終了。独演会のチケットはすべて完売だったという。12月28日には、自身の半自叙伝『赤めだか』が、TBSで年末スペシャルドラマとして映像化される。配役も談春役に二宮和也、師匠の談志役をビートたけしが演じるという豪華ぶり。
今、絶好調の『下町ロケット』によって、自身の知名度は落語ファンのみならず、一般のお茶の間まで全国区に知れ渡ることだろう。ますます勢いに乗ってきた立川談春だが、「怒られるより、ほめられるほうが怖い」と本人が言うように、今後もいたずらにメディアに出まくることなく、本業の落語に一層専念・精進していきながら、ここぞという作品で我々を楽しませてくれるだろう。
(文:五目舎)