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広末涼子インタビュー『楽しいことばかりじゃないからポジティブが大事』

日本中が涙した、故・安武千恵さんの同名エッセイを映画化した『はなちゃんのみそ汁』。結婚、妊娠、出産という人生の転機を、がんと闘いながら乗り越えていったヒロイン・千恵を演じた、女優の広末涼子。母親として3人の子どもを育てる広末に、本作の魅力について話を聞いた。

<動画インタビュー> 涙が止まらなかった初めての経験…

矛盾しているのかもしれないけれど…

――笑いの効いた本作の脚本を読まれた感想から、教えてください。『ペコロスの母に会いに行く』(2013年)の脚本を手がけ、本作で監督デビューを果たした阿久根知昭監督がお書きになったそうですね?
広末実は出演が決まってから、撮影がはじまるまでの間に、少なくとも4、5回は(脚本を)手直ししてくださったんです。第1稿からはずいぶん内容もテイストも変わりました。千恵さんの原作も然り、ドキュメンタリーやドラマもあったので、(ストーリーの)結末をご存知の方も多いと思うのですが、だからこそ、リアリティや闘病記とはまた違った、映画でしかできない『はなちゃんのみそ汁』の世界を作れないか? とスタッフのみなさんが熟考してくださいました。がんと向き合うという意味では、矛盾しているのかもしれませんが、私は映画には夢があってほしいと思っているので、もっと明るい方がいいのではないかと思ったんです。最終的にとても笑って泣ける脚本が出来上って、すごく素敵なスタートラインに立たせていただきました。

――広末さんの明るさが、前向きな千恵さんときれいに重なった、心の元気なヒロインですが、演じる上ではどんなことを心がけていましたか?
広末原作を読ませていただいて、彼女の言葉や生き方に共感する部分がたくさんありました。とくに、笑いや笑顔を大切にしているところや、病気というネガティブに捉えがちなことでも、前向きなところがとても好きです。セリフに「私はツイていた」というすごく印象的な言葉があるのですが、そういう捉え方ができる。限られた時間のなかで、家に閉じこもってしまうのではなく、ちゃんと外とつながっていこうとする。ブログを始めたり、娘にお料理を教えたり、ポジティブに新しいことを始めていこう、発信していこうという力のようなものに、とてもリンクする部分があったので、今回はそこまで役作りということを意識せず、役に向き合えました。監督にも、そのまま素直に、正直に演じてもらえたらと言われていました。

――妊娠が判明してから、出産を決心するまでの千恵の葛藤については、どのように捉えましたか?
広末千恵さん自身も書かれていたことですが、乳がんという病気を患っている女性が結婚できる確率、ましてや妊娠、出産というのはもっと確率が下がるし、夫婦であってもうまくいかなくなることが多かったりと、女性として人生が蝕まれてしまう、難しくなってしまうというお話をたくさん聞きました。(千恵さんも)妊娠自体が難しくて、あり得ないと思っていたと思うんです。旦那さんは喜びましたが、夫婦間で温度差もあり、抗がん剤治療ができなくなること、ホルモンバランスが崩れて再発しやすくなることや自分の余命が短くなることも全部知った上で産むという選択をしたとき、出産前だったとしても、彼女は残される子どもの気持ちを考えたと思うんです。女性としてつらい決断をしなくてはならないときに、もっと先を見越した考え方で、お父さんが「死ぬ気で産め」って言ってくれたんだと思うんですよね。子どもって実際生きる力になるし、何よりも原動力になる。ストーリーのなかで、彼女自身もそれを実感していく。そうやって人生が豊かになってゆくのを感じていけたことは、なかなか誰でもできることではないから、つらくて大変だった反面、「ツイていた」という彼女の言葉に、つながるのではないかと思います。

今まで経験したことがないくらい泣いた

――実際に演じてみて、千恵の強さの源は、はなちゃんの存在だと感じましたか?
広末やっぱり、守るべきものがあるという強さだと思いました。母親は、自分よりも優先すべきものがあるからこそ笑顔でいられますし、それが優しさであり強さなんだと感じながら、毎日演じていました。本当は泣きたい気持ちでいっぱいで、いろいろな想いを抱えていたと思いますが、それを笑顔に変えて向き合えるというのは、母親の、女性の強さなのではないでしょうか。

――とくに印象に残っているシーンはありますか?
広末本当にたくさんありますが、クライマックスのコンサートシーンは、セリフも、千恵を包み込むみなさんが返してくださるお芝居も素晴らしくて、自分のなかでずっと感動が止まりませんでした。千恵さんの旦那さんの安武(信吾)さんも、はなちゃんも来てくれて、すごく感動的でした。

――安武さんのブログには、撮影後、広末さんが「千恵さんがステージに来てくれていましたね」と語りかけてくれた、と記されていましたが?
広末そんなことを言っていました!? ちょっと泣きそうなんですけど……。あのステージに立っていたときは、自分が千恵さんのような、千恵さんが自分のような……、演じている感覚がなくて、演じさせてもらった感じだったんです。役作りをしようとか、切り替えようという感覚がなかったので、千恵さんを近くに感じたのかもしれませんね。……出来上がったこの映画を観たときに、今まで経験したことがないくらい泣いてしまったんです。現場でとても我慢していたので、ここでは泣いてもいいんだと思ったら、涙が止まらなくなってすごく泣いてしまいました。お客さんがどこで泣いて、どこで笑うんだろうと考える余裕もないくらい、まったく客観視できなくて。自分では評価できないくらい、感情移入してしまった初めての経験でした。

女優という仕事を続ける自分の使命

――長いキャリアのなかで、初体験だったのですか!?
広末いつもはもうちょっと客観的に物語を捉えられているつもりなのですが、今回はそういう余裕がありませんでした。現場でも、自分で計算してお芝居に抑揚をつける必要のないくらい、毎シーンが愛しくて、大切なシーンの連続だったので、そのままナチュラルにいようと心がけていたんです。ただ“泣かないぞ!”ということを決めていただけで。女優としての計算のお芝居がなかったような気がします。

――今夏、第三子の出産を発表されたとき「幸せと笑顔の連鎖を生み出すことのできるような女優さんになれるよう、決意を新たに努力してゆきたい」とコメントされていましたが、いま女優さんとして、どんなことを表現したいと思っていますか?
広末小さい頃からずっと、楽しいことや明るいこと方が好きでした(笑)。ネガティブよりポジティブが大事だと思っています。自分が笑顔でいれば、人を笑わせられなくても、周りが笑ってくれるんだと気づいたときがあって、そこから笑っていようと思うようになりました(笑)。きっと年を取ればとるほど、楽しいことばかりではないと知っていきますし、それは自分の人生や経験だけじゃなくて、視野が広がるからこそ、いろいろな人の悲しみも背負うようになると思うんです。だからこそ、常に楽しいことに目を向けて、夢(を持つこと)の大切さや、(夢は)願えば叶う、努力は報われるということをメッセージとして伝えていきたいという気持ちは(前よりも)強くなっていると思います。

――いま、広末さんにとって、演じることは楽しいことですか?
広末はい! ……楽しい? どうでしょうか。楽しいことばかりではありませんが、毎日が試験のような気がします(笑)。でも自分にカセを作ることや、ハードルがあることは、自分自身の成長にもつながりますし、女優というお仕事を続けさせてもらっている自分の使命でもあると思うので、精一杯がんばっていきたいと思います。
(文:石村加奈/撮り下ろし写真:逢坂 聡)

はなちゃんのみそ汁

  恋人との何不自由ない幸せを夢見ていた千恵はある日、乳がんを宣告される。見えない不安に怯える千恵(広末涼子)に信吾(滝藤賢一)は優しく寄り添いプロポーズをする――こうしてふたりは晴れて夫婦となった。抗がん剤治療の影響で卵巣機能が低下、出産をあきらめていた千恵だが、あるとき妊娠していることが分かる。産むか産まないか――産むということはがんの再発リスクが高まり、自らの命が危険にさらされるということだった。
 周りの支えで命を懸けて産むことを決意し、はなを無事出産。しかしながら、家族3人、幸せな日々は長くは続かず、千恵を再び病魔が襲い、残り少ない命を覚悟。私がいなくなってもはなが暮らしていけるようにと、千恵は鰹節を削って作るところから始めるみそ汁など、料理や家事の大切さを教えはじめる。彼女たちのおいしくてあったかい、かけがえのない日々が続いていく。

監督・脚本:阿久根知昭
出演:広末涼子 滝藤賢一 一青窈 紺野まひる 原田貴和子 春風ひとみ 遼河はるひ 赤松えみな(子役) 平泉成 木村理恵 北見敏之 高畑淳子 鶴見辰吾/赤井英和/古谷一行
12月19日(土)より、テアトル新宿&福岡先行公開、2016年1月9日(土)より全国拡大公開
(C)2015「はなちゃんのみそ汁」フィルムパートナーズ
【公式サイト】(外部サイト)

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