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朝ドラ原点の王道感が漂う『まれ』、『あまちゃん』との共通点と相違点

NHKの朝の連続テレビ小説『まれ』が順調な滑り出しを見せ、朝らしいさわやかさとそのヒロイン像などは、国民的ドラマとなった『あまちゃん』との共通点も言われ始めている。しかし、朝ドラ原点の王道に回帰した『まれ』は、『あまちゃん』とは異なる点も多い。ヒロインとともに作品を比較してみる。

◆続けて観ると似た雰囲気を感じる2作

 NHKの朝ドラ『まれ』が順調な滑り出しを見せている。第1週の平均視聴率は20.6%。前作『マッサン』(21.3%)や前々作『花子とアン』(21.6%)には及ばなかったが、ヒロインの土屋太鳳が子役を継いで本格的に登場した2週目は21.0%に上がった。

 主題歌が流れるオープニング映像では、体育大でダンスを専攻する土屋が海辺で天女のように踊るシーンがあり、本編でも高校生役の彼女が自転車を飛ばして登校していたり、朝らしいさわやかさに溢れている。

 NHKBSプレミアムでも毎朝7:30から放送されていて、その前の7:15からは、2年前の同枠で国民的ヒットとなった『あまちゃん』を再放送中。本放送終了後には“あまロス”なる言葉も生まれただけに歓喜するファンも多く、ツイッターでは実況や感想が相次ぎ投稿されて“♯あまちゃん”が再びトレンド入りした。
 この2作を続けて観ると似た雰囲気を感じる。まず、どちらも現代劇。視聴者の年齢層が高い朝ドラでは時代もののほうがウケが良いとされ、『あまちゃん』後の3作も明治・大正から戦後までが舞台だっただけに、朝ドラで女子高生の制服姿は新鮮。また、ともに“地方と東京”がテーマのひとつになっている。『あまちゃん』では、能年玲奈が演じた主人公・天野アキが東京から母の故郷の岩手を訪れて愛着を持ち、そこで暮らすことに。一方、親友になった足立ユイ(橋本愛)は東京でアイドルになることを夢見ていた。やがてアキもアイドルを目指して上京する。

 『まれ』はまだ序盤だが、土屋が演じる主人公・津村希も、東京から石川の能登に移り住んで溶け込んでいる。逆に、同級生の蔵本一子(清水富美加)は東京に強い憧れを抱いていて。希もパティシエの夢を追い、能登を出る展開になるようだ。

 何より大きい共通点は、能年も土屋も若手女優によるオーディションからヒロインに選ばれたこと。『ごちそうさん』の杏や『花子とアン』の吉高由里子は主演級の実績があり、直接オファーを受けていた。男性が主人公の『マッサン』でヒロインのシャーロット・ケイト・フォックスはオーディションだったが、初の外国人で年齢も29歳と少し状況が違う。土屋は『花子とアン』の花子の妹役など朝ドラには三度目の出演だが、『まれ』では2020人が参加のオーディションでヒロインの座を勝ち取った。

 ただ、これは『あまちゃん』と『まれ』の共通点というより、もともと朝ドラの定番だった。『純ちゃんの応援歌』(1988年)の山口智子、『ひまわり』(1996年)の松嶋菜々子、『あすか』(1999年)の竹内結子、『てるてる家族』(2003年)の石原さとみなどが新人時代に朝ドラで初めて大役を務め、その後の飛躍に繋げている。朝ドラは“新人女優の登竜門”と呼ばれていた。

◆ストーリーとシンクロするヒロイン・能年玲奈と土屋太鳳

 だが、2010年代になると、キャリアのある女優がオーディションなしでヒロインにキャスティングされることが増えた。その大きな要因は視聴率低下へのテコ入れ。朝ドラは80年代までは常に平均35%以上の視聴率を記録し、40%越えも珍しくなかった。最高は『おしん』(1983年)で実に52.6%。出勤前に“時計代わり”としてチャンネルを合わす層もいるが、毎回が国民的ドラマだったのだ。

 それが90年代半ばからは20%台、2000年代には10%台に落ち込む。テレビ番組全体に同様の傾向があり、一概に凋落とは言えないが、2009年には前期の『つばさ』、後期の『ウェルかめ』ともに13%台と並みのドラマの水準に。歯止め策として、新人より名前のある女優の投入が図られ、松下奈緒主演の『ゲゲゲの女房』(2010年)が18.6%と上向いたことで拍車をかけた。井上真央の『おひさま』(2011年)、尾野真千子の『カーネーション』(2011年)、堀北真希の『梅ちゃん先生』(2012年)も結果を残した。

 確かにこうした女優には安定感があるが、反面、新人女優ならではの初々しさはない。『てるてる家族』でデビューしたばかりの石原さとみをヒロインに選んだ若泉久朗チーフプロデューサー(当時)は「朝ドラはドラマであると同時にヒロインのドキュメンタリー」と語っていた。月曜から土曜まで放送がある朝ドラの撮影はハードだが、密度も濃い。そのなかで、定番の夢を追う物語を演じながら新人女優が成長していくのを、半年に渡って見守る楽しみもあると。

 そうした朝ドラ本来の醍醐味が、『あまちゃん』の能年には多分に感じられた。「じぇじぇじぇ」が流行語大賞になるなど国民的ブームを起こしたが、平均視聴率は20.6%と次の『ごちそうさん』からの3本より下回っている(『あまちゃん』が朝ドラ回帰の流れを作ったとも言えるが)。それでも、このドラマを取り巻く熱が尋常でなかったのは、従来の朝ドラ視聴者層でない人たちを強く惹きつけたからに他ならない。宮藤官九郎の巧みな脚本や80年代カルチャーの引用など多くのヒット要因はありつつ、柱は単純に天野アキ=能年玲奈の奮闘を見る楽しみだった。

 『まれ』にも同じく、原点の王道感が漂う。希=土屋から毎朝目が離せない。希はパティシエになる夢に向かって進んでいく。そんな希を演じながら、土屋太鳳は女優という夢の階段を駆け上がって行く。ストーリーとヒロインのシンクロ。では、『まれ』も『あまちゃん』のような国民的ヒットになるだろうか?

◆真ん中の直球勝負で広く届きそうな勢い

 『あまちゃん』を再放送で改めて観ても、能年のヴィジュアル力の高さは際立っている。愛くるしい顔でつぶらな瞳を輝かせながら「おら」と方言で話す姿は、それだけで十分に魅力的。そんな彼女が笑ったりヘコんだりするたびに胸がキュンとした。ドキュメント的な観点で言えば、彼女がまっすぐ役に取り組む意欲もほとばしっていて。それがおそらく本人も意識していないきらめきを生み、多くの視聴者を魅了した。
 ドラマ全体では、軸は朝ドラの王道で行きつつ、他のテレビ番組や流行のパロディなど小ネタを随所に織り込んだのは、朝ドラらしからぬ仕掛け。NHKらしくもないだけに思わずクスッとさせて、人気の広がりに繋がった。

 『まれ』の方は王道のど真ん中。正面から“夢”をテーマとしたうえで、希の青春をストレートに描いている。土屋は能年のように一瞬で目を引くタイプではないが、女優力が並はずれている。そこは業界ではすでに高く評価されてきた。
 10歳のとき、角川映画とソニーミュージックが主催した「ミス・フェニックス」オーディションで特別賞となりデビュー。ドラマ『鈴木先生』(テレビ東京)で、大人びて聖女のような雰囲気まで漂わす女子生徒を演じて注目を浴びた。『花子とアン』では、姉の花子の幼なじみに想いを寄せ、彼が好きなのは姉と知りながら告白して、母の胸で泣く場面などが涙を誘った。

 ちなみに、実力派の脇役として引っ張りダコの滝藤賢一が『情熱大陸』(TBS系)に出演した際、“すごい俳優”として森山未來や山田孝之らの名前を出した後、「若手では?」と聞かれて挙げたのが土屋太鳳だった。「リアルな方でもガッツリ芝居でも行ける」として。

 『まれ』でも、さっそく10話に感動的なシーンがあった。希は山っ気の強さで自己破産した父親を見て夢を嫌っていたが、親友の一子が周りから一斉に反対されながら「どうしても東京に行きたい!」と譲らないのを聴くうちに、「夢は嫌いやけど一子は応援する。こんなに強い気持ちだったら捨てたら絶対後悔する」と毅然と言い放った。自分自身にも言い聞かせるように。彼女の演技には観る者の心を揺さぶる力があった。

 土屋は「希は不器用なところが私と同じ」と話していた。役幅の広い彼女が不器用とも思えないが、本人は「私には女優としての基礎も技術もないので、時代背景を調べたり作品のテーマを考えて、自分なりに役作りをしてきました」と謙虚だ。この繰り返しが彼女を女優として成長させてきたのは間違いない。その成長がさらに加速するのを『まれ』ではリアルタイムで見られそうだ。

 『まれ』が『あまちゃん』のような国民的ヒットになるには、引っ掛かりのある“ネタ”が足りないかもしれない。だが、ど真ん中の直球勝負だけで広く届きそうな勢いも、土屋太鳳のハツラツとしたヒロインぶりに感じる。
(文:斉藤貴志)

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