破棄されるのが通例だった建築模型、見直される価値とその役割
日本を代表する著名な建築家のほか、幻の建築模型も集約
さらにここには、実際には建つことのなかった建物の建築模型も。たとえば2020年東京オリンピック・パラリンピックの新国立競技場のコンペに出品されたものの、採用にならなかった2つの案の建築模型が展示されていたこともある。そうした“幻の建物”のなかでも、ミュージアムを案内してくれた副館長であり一級建築士の近藤以久恵氏が紹介してくれたのが、国立新美術館や豊田スタジアムなどを手がけた黒川紀章氏の別荘にゲストハウスを増築するプロジェクトの建築模型だ。黒川氏より依頼を受け、増築の設計をしたのは、建築家の横河健氏。模型をみると中庭にジャグジーが据えられており、横河氏によると、黒川氏はこのジャグジーで建築家たちと建築談義をすることを思い描いていたとのこと。そんな黒川氏の思いを知ることができる貴重な資料になる。
日本で乏しかったアーカイブ意識、欧米では思考プロセスを次世代に継承する貴重な資料
「一番の理由は物理的なスペースの問題ですね。あるいはアーカイブするという意識が日本の建築業界のなかに乏しかったのかもしれません。欧米では、建築家の思考プロセスを次世代に継承する貴重な資料として保存されてきたのですが。そのため、海外に流出している日本人建築家の建築模型が多数あります」(近藤氏)
このように成熟した建築文化を誇りながらもその貴重な資料のひとつである建築模型が人知れず捨てられてしまうのは大きな文化的損失だ。かといって、建築家個人が保管するには負担が大きい。そうした危機感と、日本の建築文化を世界に発信する目的で2016年にオープンしたのが建築倉庫ミュージアムだ。その最大の特徴は鑑賞の楽しさと、模型にとっての最適な保存環境を両立していること。運営する倉庫会社の最大手・寺田倉庫は、ワインや美術品といった繊細なモノを保管してきたノウハウを建築模型にも存分に活かしている。