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破棄されるのが通例だった建築模型、見直される価値とその役割

 新国立競技場の竣工式がメディアで広く取り上げられ、その機能性や構造美にも一般からの注目が集まった。そうした建築物の設計者の思考プロセスを伝える重要な資料となり、完成度の高い芸術作品としても評価されるのが「建築模型」だ。建築模型は、建物や周辺環境はもちろん、人物や植木、家具などが配置されるものもあり、精巧に作られたその世界観はまるでミニチュアやドールハウスを眺めるようなワクワク感があり、奥深い魅力がある。

日本を代表する著名な建築家のほか、幻の建築模型も集約

 東京・天王洲アイルにある国内唯一の建築模型に特化した「建築倉庫ミュージアム」。その模型保管倉庫には、新国立競技場を設計した隈研吾氏によるさまざまな建造物のほか、国立屋内総合競技場(代々木体育館)や長野市オリンピック記念アリーナ、世界的なブランドショップといった有名な建物から、個人宅のものまで200点以上の建築模型がズラリ。隈氏のほか、坂茂氏といった日本を代表する著名な建築家による作品も展示されている。

 さらにここには、実際には建つことのなかった建物の建築模型も。たとえば2020年東京オリンピック・パラリンピックの新国立競技場のコンペに出品されたものの、採用にならなかった2つの案の建築模型が展示されていたこともある。そうした“幻の建物”のなかでも、ミュージアムを案内してくれた副館長であり一級建築士の近藤以久恵氏が紹介してくれたのが、国立新美術館や豊田スタジアムなどを手がけた黒川紀章氏の別荘にゲストハウスを増築するプロジェクトの建築模型だ。黒川氏より依頼を受け、増築の設計をしたのは、建築家の横河健氏。模型をみると中庭にジャグジーが据えられており、横河氏によると、黒川氏はこのジャグジーで建築家たちと建築談義をすることを思い描いていたとのこと。そんな黒川氏の思いを知ることができる貴重な資料になる。
 建築倉庫ミュージアムにはこうした単体の建物のほかにも、ミュージアムのある天王洲エリア全体を立体で表現した建物模型も展示されている。湾岸エリアだけに建物群はもちろん、周辺の海の中まで表現された大規模な模型は圧巻のひと言。巨大な建築物や都市全体を“鳥の視点”で眺めることができるのも、建物模型の魅力の1つだ。

日本で乏しかったアーカイブ意識、欧米では思考プロセスを次世代に継承する貴重な資料

 このように鑑賞する楽しさにもあふれた建物模型だが、本来の目的は設計者がこれから建てる建物や空間をシミュレーションするため、あるいはクライアントに完成イメージを視覚的に説明するために作られるもの。それだけに役割を終えると、捨てられてしまうものも多いという。

「一番の理由は物理的なスペースの問題ですね。あるいはアーカイブするという意識が日本の建築業界のなかに乏しかったのかもしれません。欧米では、建築家の思考プロセスを次世代に継承する貴重な資料として保存されてきたのですが。そのため、海外に流出している日本人建築家の建築模型が多数あります」(近藤氏)
 世界的に評価される日本人建築家は多い。建築界のノーベル賞といわれるプリツカー賞の受賞者も日本から多数輩出しており、2019年も磯崎新氏が受賞している。

 このように成熟した建築文化を誇りながらもその貴重な資料のひとつである建築模型が人知れず捨てられてしまうのは大きな文化的損失だ。かといって、建築家個人が保管するには負担が大きい。そうした危機感と、日本の建築文化を世界に発信する目的で2016年にオープンしたのが建築倉庫ミュージアムだ。その最大の特徴は鑑賞の楽しさと、模型にとっての最適な保存環境を両立していること。運営する倉庫会社の最大手・寺田倉庫は、ワインや美術品といった繊細なモノを保管してきたノウハウを建築模型にも存分に活かしている。

提供元: コンフィデンス

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