板尾創路&西田シャトナー、『関西演劇祭』を演劇界の“出会いの場”へ「逸材を発掘したい」
間口を広げた、観客との距離が近い演劇祭
そんな現状に対して、クリエイター、劇団、観客の出会いの場にしたい、という趣旨の『関西演劇祭』が開催される運びとなった。フェスティバル・ディレクターとして参画する板尾は、「いま東京で活躍している演出家や役者のなかでも、関西の劇団出身の人は多く、『西にはいい人材が多い』というイメージがあったんです。でも、関西の演劇界はいま元気がないということだったので、もう一度注目してみたらおもしろいんじゃないかなと。この演劇祭が出会いの場となり、仕事が広がっていってほしい」と賛同した理由を述べる。
佐々木蔵之介らが在籍していた劇団「惑星ピスタチオ」の劇作家・演出家として活躍していた西田は、「この演劇祭がおもしろいと思ったのは、板尾さんや映画監督の行定勲さんらが審査員として参加していること。いわゆるガチガチの演劇が好きな人たちだけの演劇祭ではなく、間口を広げていろいろな人に観てもらいたいという思いが伝わります。そんななか、自分は関西で演劇が盛り上がっていた時期に、少しだけがんばっていた人間として、声をかけてもらったのかなと思うんです」。
そんな2人が先頭に立ってPRを務める本演劇祭の大きな特徴として挙げられるのが、観客との距離が近いことという。板尾は「1公演で2つの劇団の演目が上演される今回は、上演後にその2劇団が一緒に壇上でティーチインを行うんです。そうなると、お互いの演出家や役者同士が意見をぶつけあうこともあるかもしれません。会場がヒリつくこともあるでしょうけど(笑)、それがこの演劇祭ならではの見どころになる。また、ワークショップも開催するので、観客もクリエイターも役者もみんなが楽しめる、まさにお祭りのような盛り上がりになると思います」。自らも祭りを楽しみにしていると目を輝かせる。
劇団の個性が現れる45分の公演
「プロデューサーは、常に人材を探しています。僕自身も映画監督をやっていますが、作品を撮り続けている監督やプロデューサーにとって、良い脚本家や役者は常に囲っておきたいという思いがある。東京の人たちは、なかなか大阪まで演劇を観るために足を運ぶ機会も少ないだろうし、コンパクトな日程で1日に何組もの劇団の公演が観られる機会は、貴重だと思います」(板尾)
本公演における1劇団45分という持ち時間について、西田は「作・演出をやっている人間からすると、ちょうどいい時間だと思います。もちろん2時間の作品に比べると、45分で到達できる深さには限界がありますが、稽古時間という見方をすれば、作品に込められる練習量は増えるわけです。しっかり構成すれば、それぞれの劇団の個性が現れる完成度の高いおもしろい作品に仕上げられると思います」と利点を挙げる。
最終日には表彰式が行われ、審査員特別賞、脚本賞、演出賞、ベストアクター賞、ベストアクトレス賞、観客賞が用意されている。しかし、板尾、西田ともに、あくまでコンペティションという意味合いではなく“出会い”と“楽しむ”という祭の要素を強調する。
「演劇は、祭りのなかの催しとして始まったものであり、楽しむことが本質。楽しい祭りとして広がっていくことに期待しています。その演劇の根源を豊かに楽しんでいける演劇祭になれば」(西田)
関西の小劇場界の逸材を引っ張り上げる
板尾、西田ともに、関西出身だが、現在は東京を拠点として活動している。それだけに、地元の活性化は、自らの若かりし頃を思い出し、力が入るようだ。
「僕は大阪を離れて25年ぐらい経ちます。昔は芝居を打ちやすい小劇場もたくさんあったのですが、いまはそういう場所がなくなってきてしまった。でも逸材はいるという確信があるので、この演劇祭でそれを証明できたらと思っています」(板尾)
「関西の小劇場で演劇をはじめたのですが、劇団が解散して数年後に大阪を離れて15年経っているので、いまの関西の劇団がどんな芝居を作っているのか、なにが変わって、なにが変わっていないのか、すごく興味深い。まずはそんなところを楽しみたいと思っています」(西田)
(文/磯部正和)