『腐女子、うっかり〜』、苦心の末に辿り着いたパーソナリティーに寄り添う表現
小説が映像として立ち上がったとき、豊かになる方法を模索
三浦 ありがとうございます。僕の母がテレビドラマ好きだったことから、家にドラマのシナリオ集があるような家で育ち、僕自身も10代の頃、テレビドラマをよく観て育ったので、自分が書いたドラマのシナリオがこのような評価をしていただけたことはとてもうれしいです。ただ、受賞することができたのは、やはり浅原ナオトさんの原作小説の持つ力がものすごく大きかったからだと思っているので、自分の力ではないという気持ちが大きいです。
――連続ドラマを全話執筆するのは初めてと聞きました。脚本を書かれることになった経緯を教えてください。
三浦 僕はいつも、主宰する劇団・ロロを中心に、演劇作品の脚本、演出を多く手掛けているのですが、ロロにおいては、男性同士の恋愛が普通の男女の恋愛と同じように出てくるなど、レッテルに縛られない関係性をずっと描いてきました。その作品や、僕が演劇部の高校生たちのために執筆している「いつ高シリーズ」(※三浦氏が全国の高校演劇部のために提供する、著作権フリーの60分の演劇脚本のこと)をNHKのディレクターさんが観てくれて、今回のお話をいただきました。スケジュール的に難しいかなと思ったのですが、渡された原作を読んでみたらすごく感動したので、これなら自分で書いてみたいと思いました。
三浦 自分がオリジナルで脚本を作るとき、ここまでストレートにLGBTを扱った作品は書けないと思うので、今回すごく勉強になりました。やっぱり、当事者にしか言えない言葉というものが存在すると思うんです。今回は浅原さんが書いた言葉があるから、それを通して自分は書けたと思っているので、そういう経験はなかなかできないと感謝しています。
――原作を脚本化するにあたり、どのようなことにこだわられましたか?
三浦 基本的には原作に忠実に、ゲイである主人公の高校生・(安藤)純くんに余計なキャラクターを足したり、カットを足したりということはやるべきではないと考えました。ただ、ヒロインの三浦(紗枝)さんなど、純くん以外の登場人物については、どんなふうに立たせることで青春群像劇というイメージを強くできるかを考えてオリジナルで膨らませていきました。小説は純くんの一人称でずっと語られていますが、ドラマだったら純くんがいない時間も描けます。僕はドラマの会話の楽しさが好きなので、小説にはないシーンでどういう会話を描くか。小説が映像として立ち上がったとき、豊かになる方法を考えながら書いていきました。
当事者である方々を傷つけることがないよう、常に悩みながら描いた
三浦 原作者の浅原さんは、ゲイの純くんと同じ当事者ですが、僕は非当事者なので自分が描くことでその世界を壊したくないという気持ちが強く、その難しさは最終話まで感じていました。これはヒロインである腐女子の三浦さんについても同じ。僕もBL漫画を読みはしますが、熱狂的なファンではありません。どうやったら当事者である方々を傷つけることなく物語を紡いでいけるか。常に悩みながら、セリフ1つひとつを丁寧に描いていたように思います。
三浦 高校時代は多くの人が経験する青春期なので、そういう部分で普遍性を作っていけたら良いなと思いながら書きつつも、一方で、純くんの葛藤を自分の10代の頃と近いかなと考えたり、わかったことにして書いたりしてはいけないと考えていました。
―― 一番印象に残っているシーンはどこですか?
三浦 三浦さんが全校生徒の前で、自分が腐女子であることを“告白”する第7話のシーンです。原作を読んだ時に一番感動したし、10代の頃、青春ドラマが大好きだった僕が観てきた学園ドラマでも、体育館で演説をかますというのはドラマ的な名場面として印象に残っているので、これはきっといいシーンになると思い、あのシーンをエピローグの8話へとつなげるクライマックスになるよう作りました。
――金子さんと藤野さんの演技はいかがでしたか?
三浦 ちょうど撮影現場に見学に行ったとき、第7話の演説のシーンを撮影中だったんです。演説をかましている藤野(涼子)さんはもちろんステキだし、演説を聞いている金子(大地)くんの受けの表情の中には、いろいろな複雑な思いがあるなと思い、すごく印象に残っています。
高校演劇の審査員などを担当、若者たちとの交流は「すごく刺激的」
三浦 「いつ高シリーズ」は、高校演劇の審査員をやらせてもらう機会が増えたことをきっかけに始めました。僕自身10代の頃に観た青春ドラマから数々の影響を受けて、こうして今、作品を作っているので、10代の子たちに対して、自分もそういうものを作りたいという気持ちが結びついて始めた企画でした。高校生と交流する機会が増えて、すごく刺激をもらっています。
――主宰されている劇団・ロロは今年10周年を迎えます。今後の展望についてお聞かせください。
三浦 僕は、この時代に作れる新しい共同体の可能性があるという思いから、血のつながりを越えた人たちが家族的なつながりを持つ“疑似家族”をモチーフにこれまでたくさんの作品を手掛けてきました。大学の頃に作った劇団が誰1人辞めることなく10年目を迎えられた今、考え方が違っても誰かと共にいる場所があるというのはやはりすごく豊かなことだと感じているので、今後もそういう問題提起を持ちながら、理想の実践の場であるロロを基本に、作品を作っていきたいと考えています。また一方で、映像作品の脚本という部分にも挑戦していきたいです。
文/河上いつ子
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https://www.oricon.co.jp/confidence/special/53425/
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