好調『派遣占い師アタル』 女性主人公へ“親視線”を投影して変わった遊川和彦脚本へ期待
衝撃を超える衝撃を生み出さなければいけない使命感にとらわれた?
もはや伝説ともなっている朝ドラ『純と愛』では、「他者の本当の心が見える」能力を持つ男性・愛と、行く先々に不幸が訪れるヒロイン・純を描いた。夏菜演じる純は、まるで貧乏神のように、周り中を不幸にしていく。そして、その原因には、自分の夢ばかり追いかけ、ホテル経営に失敗した挙句、家族をだまして自宅でもあるホテルを売却、認知症の妻から逃げ、最終的に海に落ちて死亡した「毒親」の父の存在があった。しかも、そうした辛い経験の末にヒロインがたどり着いたのは「夫が植物状態のまま」という救いようのない絶望だったのだ。
また、『〇〇妻』(日本テレビ系)では、柴咲コウ演じるヒロインは一見理想的な良妻ながら、実は「3年契約の妻」として登場する。「結婚による母の豹変や、父の暴力」「実は子どもを殺めてしまった過去があること」などの秘密が徐々に明らかになっていったが、ハッピーエンドに向かいつつあるなか、唐突に「不良グループに絡まれ、頭を打って命を落とす」という衝撃的な結末を迎えた。
視聴者が遊川ドラマに対して「最後まで油断できない」と感じてしまったのは、この2作によって、なんとも後味の悪い心の傷に似たものを抱えてしまったからだろう。
「毒親」からの自立、物語を包み込む「母性」「父性」へ
インタビューで遊川氏自身が「最初はこんな主人公は成立しないと思って書いていたのに、最終回になったら可愛くてたまらない」「過保護になってしまう親の気持ちがわかった」と語っているように、物語を包み込む「母性」あるいは「父性」のような視点が加わったことで、主人公がこれまでの呪縛から解放されたように見えるのだ。
『ハケン占い師アタル』においても、アタルがなんでも見通してしまう「眼力」をサングラスで封印し、能力を隠して生きることになった原因には、おそらく母親の存在があると推測される。そのアタルの母親らしき謎の女(若村麻由美)は、毎回冒頭でカウンセラーのようにカメラに向かって語り掛けるという意味深な演出をしている。
「毒親」との因縁から解放され、母性&父性を作品に投影し始めたように見える遊川ドラマ。前作に続いて、これまでの“壮絶な過去を持つ女性主人公”の系譜から離れた新機軸となるのか。今後の展開に大いに注目したい。
(文/田幸和歌子)