中島哲也監督が語る今ホラーを撮る理由「気持ち悪さも含めてエンタテインメント」
ホラー映画を作ったという感覚はない
中島哲也「原作小説『ぼぎわんが、来る』(澤村伊智氏)を映画にしたいと思った理由は、登場人物がおもしろかったことに尽きます。この人たちを実写にしたらどうなるんだろう? と興味が沸きました。作品を選ぶときに、これまでと別のジャンルを撮りたいというような気持ちはなくて、だから今回はホラー映画を作ったんだという感覚は、正直自分にはあまりないんですよね。ただただ描きたいのはキャラクター。「人間」のおもしろさなんです。だって怖さって人それぞれでしょう? 僕はホラー映画を観ても、あまり怖いとは思わない。だからほとんど観ていない。記憶に残っているものとしては『シャイニング』や『エクソシスト』くらいですね。どちらも心理描写やドラマが怖かった。この映画の原作に出てくる人物は皆おもしろくて、彼らの物語を残らず描こうとしたら、脚本が280ページくらいになってしまったんです。そのまま撮ると4時間を超える映画になってしまうので、削りながら凝縮していきました」
そんな本作には、岡田准一、妻夫木聡、松たか子、黒木華、小松菜奈と、主役級キャストが集結。これまでにも中島作品に出演している俳優を含めて、豪華配役を実現している。
中島哲也「配役は、「この役をこの人が演じたらおもしろい」と僕が思う、理想的なキャスティングが実現できたのではないかと思います。彼らのお芝居を気楽に楽しんでもらえたら嬉しいですね。それと、映画の終盤には大がかりなお祓いのシーンがあるので、観終わった人に「ああ、おもしろいライブを観たな」くらいに思ってもらえたらいいと思います。映像と音の気持ちよさ、あるいは、気持ち悪さも含めてエンタテインメントとして感じていただけたらいいなと」
岡田准一の“虚ろさ”を引き出し、妻夫木聡の“軽さ”と掛け合わせた
中島哲也「原作を読んで、(主人公の)野崎だけはよくわからない人物だなと思っていたんですよ。人にも仕事にも一応責任感のある、いわゆる「良い人」。それ以外は良くわからなかった。彼のドラマを膨らませるために、脚本では「良い人」の部分を削って、虚ろでつかみどころのない人物に書き換えました。岡田さんは、芯が強い正義側の人物を演じることが多いですよね。彼が野崎を演じたらどうなるのか見てみたいと思いました。きっと岡田さんのなかにも野崎のような部分があるのではないか。彼がそれをどう表現するのか、見てみたかった。実際、撮影が進むにつれて、彼がどんどん役柄をつかんでいく過程を見られて、とてもおもしろかったです。人柄も誠実だし、役への取り組みも真摯で、良い俳優だなぁと思いましたね」
一方、小松菜奈は、彼女のデビュー作『渇き。』で才能を見出している。
中島哲也「『渇き。』から5年、彼女がすごく変わっていたので驚きました。『渇き。』のときは女優業を続けていくべきか迷っていたようでしたが、今回の撮影でご一緒して、女優として生きていくという覚悟のようなものを感じました。それはもう、ヒシヒシと」
松たか子も、衝撃作として話題になった『告白』で一緒している。
中島哲也「松さんのキャスティングは、『告白』のときと同じように、この役を演じることができる人は松さんしかいないと最初に思ってしまったんです。日本最強の霊媒師としてのカリスマ性はもちろん、神道独特の所作や着物の着こなしなど、いろいろ難しいこの役柄を、リアリティを持って演じられるのは松さんしか考えられなかった。出演してくれて本当に良かったです」
そして、妻夫木聡の俳優としての印象について聞いてみた。
中島哲也「妻夫木さんは、軽い。ものすごくキャリアがあるのに、良い意味で貫録がない。普通出しちゃうもんなんですよ、貫録って。彼はとても軽やかに、人間の弱い面を表現する。それがすごく上手い。もしかしたら僕の映画では軽く手を抜いているのかもしれませんけど(笑)。でも、僕にはその軽やかさが嬉しいんです。同年代の岡田さんとは役へのアプローチも全然違うんですけど、2人の相性がすごく良いと思いましたね。とっても良いんですよ、掛け合いが。2人が一緒に芝居をしているシーンは撮影していて、とてもおもしろかった」
それぞれのカラーを持つ、実力派と呼ばれる豪華俳優陣。中島哲也演出によるアンサンブルで、これまでとは異なる顔をのぞかせている。ストーリー性や映像演出に加えて、俳優たちの演技にも注目したい。
『来る』
監督・脚本:中島哲也
原作:澤村伊智『ぼぎわんが、来る』(角川ホラー文庫)
出演:岡田准一 黒木華 小松菜奈/松たか子/妻夫木聡
青木崇高 柴田理恵 太賀 志田愛珠 蜷川みほ 伊集院光 石田えり
12月7日全国公開 (C)2018「来る」製作委員会
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