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市場参入から丸4年…楽天モバイルの現在地 “競争と共生”で成される「携帯市場の民主化」への道とは? 鈴木CEOに聞く
OTT企業で通信インフラ事業に打って出たのは世界初の挑戦
【鈴木CEO】2017年に携帯キャリア事業に参入するという話を聞いたとき、私はシスコシステムズにいました。通信機器を提供する側の人間だったのですが、当時すごくビックリしたのを覚えています。通信事業はいわゆる社会インフラ事業ですが、基本的に新規参入はほとんどない。それは2つの要因があります。1つは社会インフラ事業において規制が非常に多いこと。2つ目は、初期投資がものすごくかかるということ。楽天のように、どんどん新しいことを開拓していくような企業には、いささかマッチしないのでは?と、“外側”にいた際の視点では思えたので、驚きは隠せなかったです。
――先ほど鈴木さんも仰っていましたが、携帯市場に新規参入はありえないというのが定説となっていました。だからこそ、夢物語のように聞こえたし、懐疑的な目で見ざるを得なかった。ましてや、前職で通信機器を提供していたのであれば、尚更“ことの重大さ”を実感しますよね?
【鈴木CEO】そうですね。機器の提供側からすると、本当に驚いた。同時に挑戦をする企業なんだなと感じたことを覚えていますね。それまでにも楽天が挑戦し続けてきたことは知っていましたが、携帯市場にまで挑戦するのかと衝撃を受けました。
――参入障壁は相当なものだったと思いますし、過去に例の無いことだった?
【鈴木CEO】コンテンツやサービスを提供する企業のことをOTT(オーバーザトップ)と言って、GoogleやAmazon、Metaなどが代表的です。楽天もOTTのうちの1つですが、そこから通信インフラ事業に打って出る企業は、世界中を見渡しても1社もなかった。つまり、世界で初めての挑戦だったと思います。通信インフラ事業がコンテンツやサービス事業に拡大していくのはよくあるのですが、その逆は想像も出来なかった。
無謀と言われようが最後までやり遂げる“完遂力”「挑戦の火を消してしまったら日本が終わってしまう」
【鈴木CEO】とにかく決めたら最後までやるという“完遂力”ですね。初志貫徹というか、決めたら必ず完遂するまでやる。「決めたことは最後までやろう」みたいなことは皆が言うんですけど、そのレベルが段違いでした。それとスピード感。楽天グループは従業員数が約3万人というレベルで、たくさんの事業が存在しています。何か新しいことをしようとすると、どうしても時間かかってしまうはずなのに、この規模の組織でこれだけのスピード感を持っている企業は見たことがなかった。
――それは鈴木さんが今まで歴任されてきた企業と比べても?
【鈴木CEO】全く違います。「今日決めたことは今日からやる」イメージですね。一般的な企業は、決めたことの計画書を承認してもらい半年くらいかけてやるとか、1年かけてやるというのが普通ですから。
――その決断の速さと、最後までやり遂げる完遂力があったからこその携帯市場への参入だったんですね。
【鈴木CEO】その通りです。楽天が携帯キャリア事業に打って出たときに、周りからは「無謀な挑戦だ」などと言われました。でも、過去30年、なぜ日本がダメになってしまったのかを考えると、“無謀な挑戦”をする人がいなかったからだと思うんです。挑戦する人が本当にいなくなったら、もう日本は終わりだと思います。このまま世界の中でジリ貧になっていくしかない。
――国民性もありますが、無謀な挑戦をどうしても切り捨ててしまう傾向があります。
【鈴木CEO】この30年間、アメリカと日本でどこに一番大きく差がついたのかというと、アメリカはGAFAMに代表されるような新しい企業がどんどん出てきて成長を牽引したことに尽きます。日本でもそのような“挑戦する企業”が無くなってしまったら、本当の意味で終わりを迎えてしまう。だからこそ、この挑戦の火を消してはいけない。
――楽天グループの携帯キャリア事業への参入は、「挑戦の火」を消さないという所信表明でもある。
【鈴木CEO】そもそも大企業がイノベーションを起こすのは難しい。大企業のビジネスモデルは、基本的には現状容認型なんです。今日やっているビジネスが明日もつつがなく行われることを前提に最適化されている。逆に言えば、「今を守る」というDNAが構築されていることで、イノベーションを起こすことが極めて難しい状況に陥ってしまう。一方、楽天グループがなすべきことは、前進することであり、「今を守る」ことでは無い。