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(更新: ORICON NEWS

仕事着がカジュアル化する一方で業界が“オーダースーツ”に熱視線、「印象を含めて作り込む」新たな戦略で活路

 高度経済成長期にビジネスパーソンの間に定着し、さまざまな変遷を辿ってきたスーツ。“給料の1ヵ月分”と言われていた時代から、価格破壊が起こり、働く人々の制服に。さらにはビジネスウェアが自由化され、「着なければいけないスーツ」から「選択するスーツ」へと、その立ち位置自体が変わってきている。スーツをまとう価値観が多様化する今、売り場にも変化が見られる。リーディングカンパニーである青山商事では、これまでのスーツの変遷と現状をどのようにとらえているのか。商品本部長の山本龍典さん、営業部の小野一樹さんに話を聞いた。

格式高さ際立つ60年代、ファッション性にこだわる80〜90年代、機能性の2000年代

 高度成長期だった1960年代、当時は「スーツを着て働く」ことが人々にとってのステータスであり、一説によると「1着の価格は給料の1ヵ月分」と言われるほどスーツは高価なものだったという。

「それまで百貨店や駅前の商店街が主な買い場でした。小売店は、アパレルメーカーから商品を仕入れ、販売、シーズンオフになると商品を返すという商売形態が主流でした。アパレルメーカーは、デザインや品質など、取扱いブランドの価値向上のため、しのぎを削っていた時代です。価格の設定権も小売ではなくアパレルメーカーにありました。当時のスーツは“給料1ヵ月分”と言われていて、月賦じゃないと買えなかったと聞いています」(山本さん)

 高級であり、格式の高さに重きが置かれるスーツの価値を上げるために切磋琢磨していた業界にとって、センセーショナルだったのが“スーツの価格破壊”だ。スーツの販売店がこれまで都市部や駅前を中心としていた中で、売り場が限られ、郊外や地方ではなかなか手に入らなかったスーツを日本でどのように広めるか。後アメリカのような車社会になることを見越し、1964年に創業した同社が先手を打った。「土地の安い郊外に大型店を構えてスーツを販売するスタイルを取り、流通面でも問屋さんを省きながらコストダウンを図りました。地方や郊外でもお客様が気軽にスーツを買える仕組みを作り、売り場から流通まで様変わりしたのは、当時革命的だったと思います」(山本さん)
 
 それから時代が下り、1980〜90年代バブル期の頃は、スーツのバリエーションが増え、ファッション性が重視される時代に。

「1980年代GIORGIO ARMANIがスーツにおいて革命をおこします。従来の堅苦しい印象から、柔らかくエレガントでモダンなスーツが生まれました。その洗練されたアプローチは、多くの他のデザイナーやブランドにも影響を与え、その後ソフトスーツが一世を風靡しました。さらに、カラースーツやダブル、三つボタンなどが人気になるなど、人々がスーツのファッション性に敏感になった時代です。『襟の幅を5mm大きくしよう』『ボタンの位置を5mmあげよう』とか、毎シーズン形を変えていました」(山本さん)

 2000年頃からは、新しい流れとして「タイトスーツ」や「イタリアンクラシック」が登場。「DIOR HOMMEやDOLCE&GABBANAのシャープ&タイトスーツが、モードスーツの火付け役となり、それまでのゆったりしたスーツからタイトなスーツへと極端に変わりました。また、それまでの伝統的なブリティッシュスーツに対し、『イタリアンクラシック』がブームになりました。ブリティッシュスーツは、わりとしっかりした生地でしたがイタリアンクラシックは、柔らかい生地で仕立てるソフトメイキングで、布地を身に纏う感覚のスーツとして人気となりました」(山本さん)

 さらに「機能性」を重視したスーツの量産時代に入ったのも2000年代。

「同じ生地のパンツを2本つけた『2パンツスーツ』や、ズボンの折り目をスッキリさせる『形態安定プリーツ』、表生地や裏地の通気性を良くし、軽さにもこだわった『清涼スーツ』、ウォッシャブルスーツや表地にストレッチ機能や撥水機能を付加するなど、機能性や快適性、イージーケアー性にこだわりながらも、お買い求めしやすい価格帯で販売する。そんなスーツがどんどん開発されて行きました」(山本さん)

価値観を変えたクール・ビズ、「多様化」と「オーダースーツ」ビジネスウェアの需要が二極化

 このような変遷を経てきたスーツだが、価値観を変える契機となったのが2005年に掲げられた「クール・ビズ」だ。それまでの「スーツはビジネスパーソンの制服」という考え方から「スーツを着なくてもいい」という選択肢が生まれてきた。

「2018年頃に『スーツが絶対』という大手銀行さんですら服装が自由化されるなど、ビジネス環境の変化や働き方の多様性が進みスーツが必須でない職場が増えてきました。また我々の接客スタイルも『ノーネクタイでOK』になりました。その辺が一つのターニングポイントだったと思います。そうした流れから、2020年からコロナ禍となってビジネスウェアの多様化が一気に加速したと思われます」(山本さん)

 スーツの場合は、シャツ、ネクタイ、革靴で割とコーディネートしやすいが、それが自由化され、“トータルコーディネート”に悩むユーザーは多い。「その典型例が就職活動です」と同社営業部の小野一樹さん。

「昔は黒紺無地のスーツ中心でしたが、今は『カジュアルな服装で』と言われ、実際に何を着たらいいか迷われる学生さんが増えたのがここ最近の印象です。むしろ『スーツを指定してくれた方が迷わなくていい』といった声もありました。こういった服装の自由化に伴って、『何を着たらいいの?』と服装に悩む声が企業側からも学生からも多く上がるようになりました。弊社の見解を述べるにあたり、まずは、社内での服装基準の目線合わせを行おうという結論にいたりました」(小野さん)

「スーツ」「ジャケット×パンツ・ボトムス」「ノンジャケット」とフォーマルの度合いを分け、ビジネスウェアのガイドラインを設定。同社HP上で「ビジネスウェアガイドマップ」として、メンズ・レディースともに活用できるスタイルを紹介している。「シーズンを通して、クール・ビズにおいてはどのようなスタイルがあるのか。よりフォーマルなコーディネートはどのようなものか。ビジネスウェア選びをする際に役立ててほしい、という思いからでした」(小野さん)

ビジネスウェアの自由度が増していく一方で、特別な会議やプレゼン時に自分の印象を効果的に変える手段として「勝負スーツ」を求めるユーザー意識も感じていると小野さん。昔のような高級、高額路線だけではなく、リーズナブルな価格でのオーダースーツ人気が加速度を増している。

「2010年頃から都市部で20代30代の若年層中心にオーダースーツがブームとなりました。たくさんの生地から選んだり、自分だけの裏地やボタンつけたり、カスタマイズしながら選ぶ。スーツでトータルコーディネートして、その人の印象も含めて作り込む考え方が定着しつつあるのかもしれません」(小野さん)

 同社ではオーダーメイドブランド「Quality Order SHITATE」を立ち上げ、オーダースーツの販売を19年から強化していった。当時「洋服の青山」は約800店舗あったが、全店一括で導入するのでなく、まずは段階的に20店舗での導入が始まった。

「洋服の青山」店内にスペースが確保されている「Quality Order SHITATE」

「洋服の青山」店内にスペースが確保されている「Quality Order SHITATE」

「オーダーこそお客様の期待値が高いので、接客、アプローチ、しっかり選んでいただける商品のバリエーションなど、満足いただけるサービスをしっかり整えた上で徐々に拡大していく方針でした。一気に規模を大きくすることも可能でしたが、オーダースーツへの考え方を浸透させなければなりませんし、接客方法も通常とは異なります。社内での教育が必要になってきますので、サービスの質を最大限落とさないようなスピード感で広げていきました」(小野さん)

 オーダースーツ初心者から気軽に体験できることをねらいとして、1着31,900円〜(税込)と既製スーツとほぼ変わらない価格帯に調整。最短14日間の短納期で、いつも利用する店舗に行けば気軽に注文できる。「敷居が高いオーダースーツのイメージを変える」ねらいもあったという。

「いつものお店で買える”敷居の低さ”は大きいです。オーダー専門店だと、ちょっと高級感があって敷居が高いですし、お店で3〜4時間過ごすことになります。低価格のオーダースーツをうたっていても、選択肢がなかったり、提示された価格内でおさまらないサービスも市場には多々あります。スーツの購入を考えている方にとってオーダースーツが選択肢の一つとなることで、体にフィットするスーツやファッション性など、かなりのニーズに応えられます。この取り組みも、弊社のトータルコーディネートの考え方が根幹にあると思っています」(山本さん)

“エイジレス化”が進み、「この年代しか売れないという服は少なくなくなっている」

 「どんなにウェアリングが自由になろうとも、やはり正しく着こなしていただくことを軸に置いて取り組んでいます」と山本さん。

「巷には『●歳だから、これを着たらNG』という指南もありますが、売り場は今までよりも“エイジレス化”している傾向があります。10〜20年前は若者層、ミドル層、アダルトシニア層と、ファッションの趣味嗜好が大きく異なっていましたが、最近は20代向けに企画した商品が40〜50代の方にもすんなり受け入れられるケースも多く、『この年代しか売れない』という服は少なくなくなっていると感じられます。いま販売している『ゼロプレッシャースーツ』も、若い方からアダルトシニアの方まで支持をいただいています」(山本さん)

 2024年に創業60周年を迎える青山商事。新スローガン「スーツに、もっと進化を。」を掲げているが、これからのビジネスウェアの変容をどうとらえているのか。

「スーツ以外のウェアリングも時代とともに大きく変わってきていますが、今後もおそらくいろんな形でさらに枝分かれしていくだろうと思います。やはり我々としては、その時その時のニーズをしっかり捉えることが重要です。スーツとはこういうものだという昔からの伝統を継承し、スーツを啓蒙していくのも我々の役割だと考えていますし、機能性やデザイン性のニーズをとらえ、多様な価値観に対応するビジネスウェアを開発するのも大切な務めです。これからもニーズはどんどん変わっていきますので、『スーツに、もっと進化を。』のスローガンは、一定のところで留まらず、もっと進化して行きますという宣言と捉えていただければと思います。いろんな意味で、ビジネスウェアについては我々が常にリードして行くという所信表明の気持ちでもあります」(山本さん)

取材・文/水野幸則

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