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加瀬亮、激変するエンタメ業界でも貫く“映画役者”としてのリアル「お芝居は“ウソ”を付くことではない」

 映画を軸に、俳優としてキャリアを着実なステップを歩む加瀬亮。20代半ばでの俳優デビュー当時は、「デビューが結構遅いので最初の方は特に駆け足で何でも演るということで進んでいた」と語る。朴訥な青年から、残虐な戦国武将まで、ふり幅のある役柄をどのように自分の中で消化し、演技してきたのか。また、海外製作映画への出演をしていくなかで、日本と海外の演技の違いや映画界をどう見てきたのか。話を聞いた。

「この信長、怒られないかな」悩みながら臨んだ“残虐すぎる信長”「試写を観た時は、結構可愛らしかった(笑)」

 11月23日に公開される映画『首』は、北野武監督が構想30年かけた戦国スぺクタクル作品。「本能寺の変」をテーマに、織田信長、羽柴秀吉、徳川家康、明智光秀らの野望、裏切り、運命を壮大なスケールで描く。加瀬が演じる織田信長は、これまでの信長像を覆すほどの異色で強烈なキャラクター。静謐な加瀬のイメージとは程遠いながらもリアリティーを失わず、強い存在感を放っていた。

――北野武監督の最新作『首』、興奮しながら大変おもしろく拝見しました。なかでも加瀬亮さん扮する織田信長は傍若無人で残忍でありながら、どこかユーモラスさも感じられる、これまでにない織田信長像だったように感じます。

加瀬亮実は今まで戦国時代や幕末などにあまり興味を持ったことがなかったんです。なので、ただなんとなくのイメージから、とにかく強くて立派な武将だろうと思い込んでいました。なので、オファーを頂いた時は、もちろんうれしかったのですが、どういう意図で、ぼやぼやしていて身体の小さい自分に依頼が来たのか不思議でした。

――では役作りには相当苦労された?

加瀬亮「演じられるのかな?」という心配はありました。演じるにはどうすればいいだろうと。歴史学者の友人含め、何人かの方に信長のことを聞いたのですが、それぞれ解釈も違えば新説もあったりだったので、自由に考えるようにしました。最終的には脚本に書いてあることをどう起ち上げるかですし。ファンの多い織田信長ですから、「この信長、怒られないかな」とは感じましたが(笑)。
――かなり強烈な信長でしたもんね(笑)。まさに北野流といいますか。

加瀬亮意外と仕上がりは可愛かったんじゃないかと思うんですけどね、うつけの可愛さといいますか(笑)。一番可愛かったのは荒川村重を演じた遠藤憲一さんですけど、多分二番目ぐらいには可愛かったのでは、と(笑)。脚本は基本的にコント的なリズムというか、思わず笑ってしまうような形で書いてあったんです。それを大真面目に演じたという感じですかね。

――あそこまでテンションが高い信長だと、演じていて高揚感もあったのではないですか?

加瀬亮確かに悪役や憎まれ役を演じると「楽しかったでしょ?」とよく言われるんですが、そんなことは全然なく、逆に自分にとっては乗り越えなければいけない面倒な作業があることが多いですね。今回の『首』だったら、羽柴秀吉を演じられた北野監督を演技上「サル」呼ばわりしなければいけない。そしてたった今サル呼ばわりした監督からOKをもらうという複雑な気持ちの中でやらなきゃいけないというような(笑)。

――特に印象に残ったシーンはありましたか?

加瀬亮信長のシーンですと、村重演じる遠藤憲一さんとのシーンですかね。多分、遠藤さん血糊をたくさん飲まれたと思うんですけど、迫真の演技で、本当に死んでしまうんじゃないかと思いました(笑)。映画全体を通してですと、秀吉が川を渡っていく時の様子、そして獅童さん演じる茂助が木々の間で一瞬たたずんでいる時の光の美しさが、とても印象的でしたね。

“コンプラ”が存在しなかったデビュー当時の撮影現場「それでも『現場から帰りたくない』空気が流れていた」

――加瀬さんは2000年にデビューされて以降、映画を軸にご活動されておられます。これまでの俳優活動を振り返っていかがでしょう。

加瀬亮デビューしたのは20代半ばで、セリフもない役でした。俳優のスタートとして結構遅かったので、当時は「駆け足で何でも経験しなくては」と思って進んでいた気がします。そのなかで、前の事務所の先輩であり『首』でも共演した浅野忠信さんはじめ、素敵な監督やスタッフや共演者たちと多く出会うことができ、振り返ると、とても恵まれていたと感じています。オーディションから現場まで本当に様々なことをいろんな方から学ばせていたた?きました。それから今思うと、始めた頃の映画の現場は今の現場とはかなり雰囲気が違いましたね。

――どう違っていたのでしょうか。

加瀬亮コンプライアンスという言葉が言われなかった時代ですし、それこそ現場で殴り合いの喧嘩などもしょっちゅうありました。大変な時もありましたが、それだけ皆が良い作品を作ろうと本気でぶつかりあっていたように思います。皆いつまでも現場から帰りたくないようなそういった空気がいつも流れていたように記憶していますね。
――そういった中で、ご自身にとってターニングポイントとなった作品や出会いはありましたか。

加瀬亮周防正行監督の『それでもボクはやってない』(2007年)とクリント・イーストウッド監督の『硫黄島からの手紙』(2006年)ですかね。これらの映画はほぼ同時期だったのですけど、公開後、自分の名前を覚えてくださる方が多くなり、仕事も増え、バイトを辞めて、役者で食べていけるようになりました。ここからいろいろなことが変わっていったと感じています。

――そして北野武監督とも出会った。

加瀬亮そうですね。役者を始める以前から『3-4X10月』(1990年)とか『ソナチネ』(1993年)などを観ていて、あの寂寞感、どこか一人ぼっちの感じの静かな世界観が本当に好きでした。なので初めてご一緒できると聞いた時はとても嬉しかったですね。

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