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「京都=排他的」イメージが地方移住の弊害に 「ご近所あいさつは市の職員も立ち合い」“難しさ”もリアルに伝える自治体の意識改革

 近頃、移住を取り巻くトラブルが相次いでSNSで拡散され、物議を醸している。“移住失敗”の背景として語られがちなのが、「田舎暮らしを夢見る移住者」と、「排他的な地元住民」といった対立構造だろう。もちろん両者に言い分はあろうが、得てして地元が悪者扱いされることが多い印象だ。全国の自治体が移住の促進に苦慮する中、京都の舞鶴市がユニークな取り組みで移住者を増やすことに成功している。京都=排他的というイメージが強い舞鶴市が、いかにして移住者と地元住民の橋渡しを担ってきたのかを聞いた。

地方移住問題は「全国で昔からある」、“炎上”物議に自治体目線の見解

 昨年の終わり頃、愛媛県新居浜市に移住した男性が「村八分にされた」と訴えるYouTube動画が380万再生を超えた。さらに今年5月には、高知県土佐市に移住してカフェを運営していた女性が、地元の有力者から理不な退去通告を受けたとしてTwitterで発信し大炎上。市に脅迫メールが届くなど市民生活にも影響が出ており、解決の糸口はいまだ見えていないようだ。

 いずれも「地域おこし協力隊」の活動にまつわるトラブル事例だが、その根っこには“よそ者VS地元住民”という移住問題について回る対立構造が見え隠れする。京都・舞鶴市の移住・定住促進課、砂田敏昌課長も「この2事例はたまたまSNSで顕在化してしまっただけで、日本全国どこでも昔から起きてきた問題」と語る。

 移住問題が語られるとき、得てして悪者にされがちなのが、排他的な地域性だろう。今年1月には、福井県池田町が移住者に「都会暮らしを地域に押し付けないよう心掛けてください」などと提言した「池田暮らしの7か条」が大批判を浴びたこともあった。池田町の言葉選びや伝え方が移住希望者のモチベーションを下げてしまったことは否めない。しかし、舞鶴市の砂田課長はこの炎上事件に、「当事者ではないので詳しいことはわからないが」と前置きしつつも、同情を禁じ得ないところもあるようだ。

「地域には、昔からある一定のルールによってコミュニティが円滑に回ってきた歴史があります。もちろん、あまりに時代にそぐわない理不尽なルールは市としても改善を求めますが、自治会費を払わない、(移住の条件である)農地を管理しないなど、都会にはなかったルールを守れずに孤立する移住者さんがいることも事実。地域住民と移住者、どちらも不幸にならないためには両者を繋ぐ橋渡し役が必須だと思います」

「何より入口が重要」移住前に“リアル”を実感できる「3ステップ面談」

 2009年から国の事業として始まった「地域おこし協力隊」とは、自治体が地域外の人材を受け入れ、地域の魅力発信や活性化のサポートを担ってもらう取り組み。給料や活動費は国から支給され、現在は全国で6000人以上が活動している。このところトラブルばかり喧伝される地域おこし協力隊だが、もちろん失敗例ばかりではなく、成果を出している自治体も多い。
 舞鶴市でも昨年10月より1名の地域おこし協力隊が活動している。採用にあたっては、民間から地域おこし協力隊の受け入れ事業者を公募し、地元でまちづくり事業を展開する一般社団法人KOKINが選定された。

「KOKINの代表である大滝雄介さんは、Uターンで舞鶴に帰ってきた方です。地域おこし協力隊だって、いきなり知らない土地に放り込まれて『地域活性してください』と言われても戸惑うことも多いはず。その点、地縁もありつつ、外の目線も持ちながら地域活性に熱心に取り組んでおられる大滝さんは、地域住民と地域おこし協力隊を繋ぐハブとして非常に心強い存在でした」
 そのほか舞鶴市では、移住者同士の交流会も実施するなど、移住後のケアにも努めている。しかし移住トラブルを未然に防ぐためには「何より入り口が重要」と砂田課長は言う。

「地縁者がいない移住者にとって、いったん地元で孤立すると、たとえ市が介入しても解決は困難です。そのため舞鶴市では、移住を希望する方に、市の職員が『なぜこの土地を選んでくださったのか』などのヒアリングを行い、またこの土地で暮らす難しさも包み隠さず説明しています。その上でさらに移住に前向きになった方には、地域の区長会などの組織・(空き家バンクなどの)所有者・自治会という3ステップにわたる面談と意見交換を行なっていただきます。市という広域から実際に住むご近所へと、エリアを絞り込みながら移住のリアルを実感してもらうイメージです」

 移住が失敗する背景には、往々にして移住者と地域地元のミスマッチがある。双方がWin-Winの関係になるためには、自治体による丁寧な橋渡しとマッチングの取り組みが欠かせないはずだ。

村の存続危機から脱出、地元若者の意識も変化

 京都府の北部に位置する舞鶴市は、城下町や軍港として発展してきた歴史があり、中心市街地には味わい深い古民家も多く残されている。

 中心市街地は駅から近いなど利便性は高いものの、人口減少が続いており、全国の地方都市で課題となっているドーナツ化現象は同市でも起きている。そこで2018年から取り組んでいるのが、舞鶴工業高等専門学校との連携でまちなかに所在する古民家を住みやすくリノベーションし、子育て世帯の移住者を対象に貸し出す「お試し住宅」だ。今年3月には第6号目の改修が完了し、現在入居者を募集している。(7月14日締切)
「最初のご近所への挨拶は、市の職員も立ち会います。子どもたちの賑やかな声は町の希望だと、地域のみなさんも『お試し住宅』をとても喜んでくださっています」

 歴史に彩られた魅力的な町並みがある一方、自然が豊かで農業や漁業が盛んな側面もある。その舞鶴市で中心市街地に先立って移住促進に成功したのが、農村部の加佐地域の山の中腹にある西方寺平地区だという。同地区では、人口減少や高齢化による“村の存続”の危機感から、20年ほど前より農業体験イベントなどを実施。若い世代の就農サポートも積極的に行ってきた成果から、住民の平均年齢も約10年で44歳から34歳へと一気に若返ったという。
「先に移住した人が、友人や後輩に『加佐はいいところだよ』と声をかけて、また人が集まってくるという良い連鎖が起きています。空き家バンクも出たらすぐに埋まってしまう状況です」

 加えて漁村部の大浦地域は、近年、小学生が全校で50人ほどと、これから少子高齢化対策を実践していく予定だ。

「現状状に危機感を抱いた若い世代が、意識改革とPRに懸命に取り組んでいます。その成果は少しずつ出ており、まもなく神奈川県在住のアメリカ人、フランス人の2名が移住してくることも決まっています」
 加佐地域のように好事例は噂を呼び、良い連鎖を起こす。逆に悪い事例が1つでも生まれてしまえば、とたんにその町は移住者にとって「避けたいエリア」として喧伝されてしまう。舞鶴市の丁寧で慎重な取り組みは移住促進の1つのロールモデルになりそうだ。


(取材・文=児玉澄子)

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