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妻夫木聡、“求められる役”に苦悩した20代「自分には個性がない…」 呪縛から放たれ40代は楽に

 18歳で俳優デビューして以来、映画『ウォーターボーイズ』やドラマ『オレンジデイズ』など、数多くのヒット作主演を飾ってきた妻夫木聡。まもなく42歳を迎えるが、いまだに爽やかなイメージは変わらず、その好感度の高さから、20年以上に渡りCM出演が途切れたことはない。若くしてトップを極め、“爽やか好青年”として愛され続けてきた彼だが、20代は自分らしさに迷い、30代で自分を捨て、40代で自分を認めることで、ようやく自由に生きられるようになったという。来年25周年を迎える妻夫木に、自身の俳優としての“アイデンティティ”を聞いた。

“好青年”イメージ打破した『悪人』が転機に、捨て身の役作りで「一瞬死がよぎる感覚もあった」

 デビュー前の高校時代から、“スーパー高校生”としてファッション誌の表紙を飾っていた妻夫木。’97年、ナムコのオーディション体験型ゲームのイベントで300万人の参加者からグランプリに選ばれると、これが芸能界入りのきっかけとなる。

 その後、“俳優・妻夫木聡”は早々に頭角を現した。映画『ウォーターボーイズ』(’01)や『ジョゼと虎と魚たち』(’03)で数多くの賞を総なめ、テレビドラマ界でも『池袋ウエストゲートパーク』(’00)、『ランチの女王』(’02)、『オレンジデイズ』(’04)などでお茶の間人気を獲得し、トップ俳優としての地位を固めた。
「失敗を恐れず何にでも突き進むことができた10代〜20代は最強の時期だったんだなって思うんです。怖さも欲も知らない“無知”っていうのは、若さゆえの最大の武器でした。30代はもっとしっかりしなければというピリッとした緊張感があったように感じます」

 圧倒的な爽やかさ、好青年イメージから、CM・ドラマ・映画と、オファーが止まなかった。その裏で、彼は知られざる苦悩に直面していた。

「20代は自分の仕事の姿勢が受け身だったし、どうしても同じような役回りが多かったんですよね。だからそこは、いつかは違うものに挑戦したいとどこか思っていたのかな。特に僕らの世代って個性を大事にする風潮が強かったので、自分も個性がないといけないのかなと迷っていた時期もありました」
 転機となったのは、原作から惚れ込み、出演を決めたという映画『悪人』(’10)だ。心に闇を抱えた殺人犯・祐一を鬼気迫る演技で体現し、これまでの“ブッキー”イメージを完全に打ち破った。日本アカデミー賞最優秀主演男優賞の授賞式では、「自分らしさってなんだろうと自問しながら、自分を信じてやってきた集大成の作品で受賞できた」と声を震わせ、感涙していた姿が印象的だった。

「『悪人』は30歳になるタイミングで、初めて自分からこの役がやりたいと思って、一歩踏み出すことができた印象深い作品です。それまでは役を自分に引き寄せていたところから、自ら役に歩み寄るようになったというのも大きな変化でした。当時は自分自身を捨てて否定し続けることで祐一に近づいていったので、一瞬死がよぎる感覚もあったほどしんどかったですね。さすがに身が持たないので、毎回そういう役作りはしていないですけど(笑)」

怪人・柄本明の演技に“食われ”、快感「こんなに気持ちいいことはないというか…」

 妻夫木はこの作品を皮切りに、『怒り』(’16)や『愚行録』(’17)などで多様な役どころを演じ、俳優としての幅を着実に広げていった。現在公開中の映画『ある男』では、初の弁護士役・城戸章良を演じている。

 同作は、かつての依頼者である里枝(安藤サクラ)から、亡き夫(窪田正孝)の身辺調査の依頼を受け、他人として生きた“ある男”の正体を追っていくヒューマンミステリー。城戸が真相を追いながら自身のアイデンティティを自問していく姿が描かれている。順調に人生を歩んでいるようでも次第に足元が揺らいでいく城戸の様子に、妻夫木は自身の姿を投影していたという。
「原作を読んだときに、なぜ僕を知っているんだろうって自分を見せられているような気になりました。原作者の平野啓一郎さんが唱えている、一つだけの“本当の自分”を認めるのではなく、複数の人格すべてを本当の自分だと捉える『分人主義』というものが頭に引っかかったんです。

 どうしても人間って『本当の自分はこうじゃない』ってダメな自分をどんどん排除して、理想の自分を追い求めていくところがあると思うんですけど、ダメな自分さえも認めることが実はすごく大事なことなのかなって。

 それを感じた時にハッとして、足元をすくわれた感じがあったんです。世間的には40代って脂が乗っている時期だと思うんですけど、余裕がある年代でもあると思うんですよ。だからこそ油断していたなと思って、改めて自分を見つめ直すきっかけにもなりました」
 作中では、“ある男”の真相の手がかりを知る詐欺師・小見浦憲男演じる柄本明も強烈な印象を残している。これまで幾度も共演している2人だが、妻夫木は今回も柄本に“食われる”感覚で対峙したという。

「柄本さんは怪人なので、僕はいつも良い意味で食われたいなって思っていて、今回も見事に食っていただきました。芝居で“がぶっ”てやられると、こんなに気持ちいいことはないというか。

 あの役回りってどこかフィクションになりがちなところがあるんですけど、柄本さんが持っている存在自体が、フィクションを一周して『こんな人いるかもしれない』って思わせてくれる説得力がある。芝居くさくないけど、芝居っぽいというか。あの役自体は詐欺師だけど、もっと客観的に見ると、一番まともなことを言っている可能性もあるなとも思えてくるんですよね。柄本さんじゃないとできない演技だなって思いましたね」

“無色”という個性で40代は自由に「何色にでも染まれる方が人生楽しいと思えるように」

 初共演は、妻夫木の初主演映画『ウォーターボーイズ』だった。弱冠20歳にして、怪人・柄本明に出くわしたのだ。若くしてトップを極め、数多くの名優の“個性”を間近で目の当たりにしたからこそ、彼は“自分らしさ”という壁にぶち当たったのかもしれない。

「20代は大人になりたい自分がどこか存在していたし、30代はもっとしっかりしないといけないっていうイメージがどこかあったんですね。でも実際40代になってみたら、逆にもっともっと自由でいいんだって気づいて。良い意味で力が抜けたのかな。今は個性がないのも良いんじゃないかなって思えるようになりました。無色でいるのは何色にでも染まれることじゃないの?って。その方が人生楽しいんじゃないかなって思えたんですよね」

 無知の10代、迷いの20代、攻めの30代を経て、40代で“自由”を手にした妻夫木。来年デビュー25周年を迎える彼は、“アイデンティティ”の呪縛から完全に解き放たれ、皮肉にも、それが彼の強固な個性になっているようだった。
妻夫木聡主演映画『ある男』全国公開中(外部サイト)
原作:平野啓一郎「ある男」
出演:妻夫木聡 安藤サクラ 窪田正孝
清野菜名 眞島秀和 小籔千豊 坂元愛登 山口美也子
きたろう カトウシンスケ 河合優実 でんでん
仲野太賀 真木よう子 柄本 明
監督・編集:石川慶 脚本:向井康介 音楽:Cicada
企画・配給:松竹  (C)2022「ある男」製作委員会

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