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動物界最強の悪役? エンタメコンテンツにおける不吉の象徴・カラスの役割とその実態
古代、カラスは“神”だった── 世界的にも“太陽”との関わりが
「これを解説しますと、一つは西洋の高緯度地域の狩猟採集民の文化があります。彼らの間ではワタリガラスという大型のカラスが神扱いされていることが多いのですが、それは彼らが狼を“狩りの神様”としていたことと関係が。ワタリガラスは元々、狼の食べ残しに依存している鳥です。狼が食べ終えるのを待って群がるんですね。その“狩りの神様”狼とワタリガラスはセットで、狼がいると空にカラスが舞っている…それが神秘性を帯びて、神格化されたのではといわれています」(東京大学総合研究博物館・松原始氏・著『カラスの教科書』など/以下同)
アポロンや天照大神などでは、“太陽”との関わりを持つ。「エジプトでもカラスは“太陽の鳥”とされていますが、古代中国ではすでに太陽の黒点の存在が知られており、中国の神話では『その黒点の正体がカラス』といった記述があります。カラスは集団で寝ぐら入りをする習性を持ち、夕方になると沈む太陽を追うように飛ぶ。日が昇ると太陽から飛んでくるように見える。恐らく、これが太陽信仰とくっついたのではないでしょうか」
ちなみに、記紀神話にヤタガラスが3本足との記述はない。中国の伝説で太陽に住むカラスは3本足とされていて「ほぼそのまま伝承をもらった可能性が高い」と、ヤタガラス・中国源流説を解説する。
神聖な鳥が“不吉の前兆”の記号的存在となった理由「ハト=神との共存ができなかった」
「アジアでは、やはり死体を食べる印象が良くない。北米では、狩猟採集民トリンギット族などの間で創世神として登場。カラスが人と世界を創ったとされており、他神話でも先述した通り、神とかかわる鳥。一方、キリスト教ではハトが神の使い。一神教では他の神の存在は認められないため、他の地域の神々も、神ではなく悪魔あつかいに。同じくカラスも神に逆らうもの、とされた流れがあるのでしょう」
「そこから記号的な意味で“不吉の前兆”に。時代劇では処刑場、山道で刺客に襲われるシーンでも大体カラスが飛ぶ。西洋でも、吊るし首にされた死刑囚をドイツ語で“ラーベンアース”という。カラスの肉…つまりカラスの餌だという意味です」
一方、サブカル界隈ではカラスを“ダークヒーロー”的に「格好いい」とする文化もある。ブランドン・リー主演の『クロウ』(1994年)は、殺された男が地獄から蘇って復讐する話。“主役”を演じたワタリガラスは動物プロダクションの用意した個体で、世界一出演料の高い“名優”だったとか。日本でも不良少年をカラスに例えた漫画『クローズ』(1990年〜)ほか、『孔雀王』の作者・荻野真のダークヒーローもの『夜叉鴉』(1994年〜)、ライトノベルでは阿部智里による『八咫烏(ヤタガラス)シリーズ』(2012年〜)。
ハトも身近な鳥ではあるが、ホワイトで公式、予定調和的なイメージがある。『鬼滅の刃』(2016年〜)のカスガイガラスは、非公式組織の鬼殺隊の伝達役ゆえ、また実はカラスは人間の口真似などができるため、不吉なことを知らせる役割を担いやすいことから用いられているのではないかと松原氏は予想する。
誤解の多いカラスの悪印象に専門家は悲嘆「人になつくし、“あ〜ん”のおねだりもする」
だがかつては、そこまで疎まれる存在ではなかったという。「日本では2000年頃、マスコミが『カラスが人を襲う』という報道をした頃から、人々のカラスへの恐怖が加熱しました。世界的にはヒッチコックの映画『鳥』(1963年)で、カラスが人を襲うシーンが強烈なインパクトとなった」と眉をひそめる。
「寧ろ、カラスは人になつく動物です。顔なじみになると、足元まで来ることもあります。飼っていると“あ〜ん”のおねだりすることもあれば、反抗期もある。さらに動物の中では予測能力が高く、3〜4手先まで読む計画性を持ち合わせています」
「誤解の多いカラスですが、過剰に怖がらなくてもいい。人間のように悪巧みもしませんから安心してほしい」と松原氏。これからも動物界最高の“演者”であるカラスを、過度に恐れず、同じ街に住む仲間として見守りたい。
(取材・文=衣輪晋一)