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動物界最強の悪役? エンタメコンテンツにおける不吉の象徴・カラスの役割とその実態

 古くから、多くのエンタメコンテンツに用いられてきた“カラス”。最近でも、『鬼滅の刃』では鬼殺隊の伝達役に抜擢。前クールのドラマ『日本沈没』(TBS系)では、大災害が訪れる前兆として、カラスが飛び立つシーンが描かれていた。ほんの数秒の出演で、不吉な予感をわざとらしくなく表現できる動物界最強の悪役とも言えるだろう。一方で、Jリーグのシンボル“ヤタガラス”に代表されるポジティブな印象も。相反する2つのイメージを持ち合わせ、演者としても汎用性の高い“カラス”。エンタメ界における来歴、そして悪役イメージとは異なる実態を専門家に聞いた。

古代、カラスは“神”だった── 世界的にも“太陽”との関わりが

 一対のワタリガラスを付き添わせており、アーサー王伝説では、魔法でワタリガラスに姿を変えられたとの逸話も。我が国でも、記紀神話に天照大神の使いとしてヤタガラスが登場するほか、カラス天狗の伝承もある。

「これを解説しますと、一つは西洋の高緯度地域の狩猟採集民の文化があります。彼らの間ではワタリガラスという大型のカラスが神扱いされていることが多いのですが、それは彼らが狼を“狩りの神様”としていたことと関係が。ワタリガラスは元々、狼の食べ残しに依存している鳥です。狼が食べ終えるのを待って群がるんですね。その“狩りの神様”狼とワタリガラスはセットで、狼がいると空にカラスが舞っている…それが神秘性を帯びて、神格化されたのではといわれています」(東京大学総合研究博物館・松原始氏・著『カラスの教科書』など/以下同)
 そもそもワタリガラスは警戒心が強く、普段は寄ってこないが、狼がいると全部見通しているような顔をして、いきなりポッと現れる。この時代の名残から、犬を連れて森を歩くと、ワタリガラスが付いてくることもあるという。

 アポロンや天照大神などでは、“太陽”との関わりを持つ。「エジプトでもカラスは“太陽の鳥”とされていますが、古代中国ではすでに太陽の黒点の存在が知られており、中国の神話では『その黒点の正体がカラス』といった記述があります。カラスは集団で寝ぐら入りをする習性を持ち、夕方になると沈む太陽を追うように飛ぶ。日が昇ると太陽から飛んでくるように見える。恐らく、これが太陽信仰とくっついたのではないでしょうか」

ちなみに、記紀神話にヤタガラスが3本足との記述はない。中国の伝説で太陽に住むカラスは3本足とされていて「ほぼそのまま伝承をもらった可能性が高い」と、ヤタガラス・中国源流説を解説する。

神聖な鳥が“不吉の前兆”の記号的存在となった理由「ハト=神との共存ができなかった」

 そんな“神聖”なカラスが、なぜ“不吉の前兆”として用いられるようになったのか。

「アジアでは、やはり死体を食べる印象が良くない。北米では、狩猟採集民トリンギット族などの間で創世神として登場。カラスが人と世界を創ったとされており、他神話でも先述した通り、神とかかわる鳥。一方、キリスト教ではハトが神の使い。一神教では他の神の存在は認められないため、他の地域の神々も、神ではなく悪魔あつかいに。同じくカラスも神に逆らうもの、とされた流れがあるのでしょう」
 結果、西洋では、カラスは夜や悪魔、魔女とセットのようなイメージがついた。日本でも記紀神話とは異なる「カラスが来ると人が死ぬ」といった伝承があり、さらには農作物を荒らすために悪い印象が。そこに西洋のイメージが加わって、現在に至る。

「そこから記号的な意味で“不吉の前兆”に。時代劇では処刑場、山道で刺客に襲われるシーンでも大体カラスが飛ぶ。西洋でも、吊るし首にされた死刑囚をドイツ語で“ラーベンアース”という。カラスの肉…つまりカラスの餌だという意味です」
 そもそもカラスのみならず、鳥は“あの世とこの世をつなぐもの”として神聖視されていた。中でもカラスがこれほど多く“記号”として使われる所以は、レアな鳥だと伝わりにくく、身近な鳥だからであろう。また、スズメだと印象が弱く、ワシやタカだと強すぎる。神話や娯楽のストーリーにおいて、賢くて程よく強いカラスが「ちょうどいい」のだ。

 一方、サブカル界隈ではカラスを“ダークヒーロー”的に「格好いい」とする文化もある。ブランドン・リー主演の『クロウ』(1994年)は、殺された男が地獄から蘇って復讐する話。“主役”を演じたワタリガラスは動物プロダクションの用意した個体で、世界一出演料の高い“名優”だったとか。日本でも不良少年をカラスに例えた漫画『クローズ』(1990年〜)ほか、『孔雀王』の作者・荻野真のダークヒーローもの『夜叉鴉』(1994年〜)、ライトノベルでは阿部智里による『八咫烏(ヤタガラス)シリーズ』(2012年〜)。

 ハトも身近な鳥ではあるが、ホワイトで公式、予定調和的なイメージがある。『鬼滅の刃』(2016年〜)のカスガイガラスは、非公式組織の鬼殺隊の伝達役ゆえ、また実はカラスは人間の口真似などができるため、不吉なことを知らせる役割を担いやすいことから用いられているのではないかと松原氏は予想する。

誤解の多いカラスの悪印象に専門家は悲嘆「人になつくし、“あ〜ん”のおねだりもする」

 このようにイメージが二分されるカラスだが、忌まれる理由は「身近な鳥の中では大きく、黒く、研究者ですら手が届く距離で見ると怖いと思ったことがあるほど。くちばしも刃物のように鉛色にギラリと輝き恐怖感を煽るからではないか」と分析。

 だがかつては、そこまで疎まれる存在ではなかったという。「日本では2000年頃、マスコミが『カラスが人を襲う』という報道をした頃から、人々のカラスへの恐怖が加熱しました。世界的にはヒッチコックの映画『鳥』(1963年)で、カラスが人を襲うシーンが強烈なインパクトとなった」と眉をひそめる。
 研究者にとって、このイメージは腹立たしいものだった。まず、カラスは目を合わせたら襲ってくると思われているが、実際は、目を合わせて近づくとカラスの方から逃げる。襲われるとすれば、ヒナが近くにいる場合に限る。もしくは、カラスが人から逃げようとした過程で、頭をかすめてしまうこともある。また、「カラスは仕返しする」との都市伝説も嘘。人の顔を覚えはするが、復讐はしないという。そもそも所有の概念がなく、車などにフンをされて仕返しされたというのは完全なる思い違いだ。

「寧ろ、カラスは人になつく動物です。顔なじみになると、足元まで来ることもあります。飼っていると“あ〜ん”のおねだりすることもあれば、反抗期もある。さらに動物の中では予測能力が高く、3〜4手先まで読む計画性を持ち合わせています」
 専門家から見ても、忠実にカラスが描かれている作品は、アニメ『劇場版 機動警察パトレイバー』(1989年)。冒頭で頭を撫でられ首をすくめるシーンは、カラスの動きそのものだったと言う。また、事件の黒幕が飛び降りるシーンでカラスを解き放つ行動は、魂が“天国”ではなく“闇落ち”した象徴。また、ジブリ『猫の恩返し』(2002年)でも、「どこから見てもハシブトガラスであり、事務所の手すりの上で向きを変えるシーンは学者が見ても唸るほどのリアルさでした」とのこと。ディズニー実写映画『101』(1996年)では、逃げ出す犬を追いかけるクルエラを、帽子を奪って足止めするという、カラスの頭の良さを表した場面がある。本シーンは、本物のカラスが演じている。

 「誤解の多いカラスですが、過剰に怖がらなくてもいい。人間のように悪巧みもしませんから安心してほしい」と松原氏。これからも動物界最高の“演者”であるカラスを、過度に恐れず、同じ街に住む仲間として見守りたい。


(取材・文=衣輪晋一)

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