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“平成ライダー”支えたスーツアクターの矜持 アクション俳優の概念を打ち崩した『電王』の功績
『仮面ライダーアギト』の抜擢の第一声は“ガックリ”「続けていたレッドがクビになったと感じた」
平成仮面ライダーシリーズ第2作目の『仮面ライダーアギト』(2001-2002年)に始まり、平成最後となった『仮面ライダージオウ』(2018-2019年)まで、18作で主役ライダーを務めた。
「それ以前は『スーパー戦隊シリーズ』のレッドを続けて務めさせてもらっていたので、『アギト』に声がかかったときは、正直言うと『レッドはクビか』とガックリきました。『そうじゃない。仮面ライダーからのオファーが先に来ただけだ』と言われて、胸をなでおろしたことを覚えています」。
特撮は約1年間の撮影期間があるため、その間は他の作品への出演が制限される。当時はスーパー戦隊と仮面ライダーの撮影期間が完全に被っていたため、両作品に出演するのは不可能だった。しかも“スーツの中”での芝居となるため、俳優にとって優先順位の高い仕事ではない場合が多く、現場では有能な人材の取り合いになっていたようだ。
「僕は真田広之さんに憧れてこの世界に入ったので、最初はスーツの中に入って芝居をすることは考えていませんでした。しかし、新人時代に修行を兼ねて出させてもらっていたヒーローショーがとても楽しくて、魅力に気づきました。だから一生ヒーローショーに出ていたいなと思っていた時期もあったんです」。
『仮面ライダー』は、昭和の時代から続く人気作品。今でこそ“平成ライダー”というブランドもついてきているが、当時はプレッシャーもあったのではないだろうか。
「それはもちろんありました。最初の頃は『派手だし、バイクも乗らないし』などと比較されたこともあって。でも、僕自身が昭和ライダーに憧れていたし、最後の頃の作品では関わらせていただいたこともあったので、参考にしつつ、自分らしくやろうと良い意味で開き直ることができていたと思います」。
“スーツアクター”は若手の仕事…その概念を打ち崩した『仮面ライダー電王』の功績
「スーツアクターとしての仕事を敬遠する風潮があったのも事実です。ところが近年は、ジャパンアクションエンタープライズの養成所の門を叩く若者の大半が、初めからスーツアクターを志望していました。その傾向は『仮面ライダー電王』(2007-2008年)のあとから顕著になりましたね」。
『仮面ライダー電王』が平成ライダー随一のヒット作となった要因はたくさんある。個性豊かなキャラクターや、コメディタッチで大人も子どもも楽しめるストーリー、主演・佐藤健の初主演作品でもあり、人気声優の起用もひとつ、そして、高岩の演技力によるところも大きい。同作で高岩は、変身前の“イマジン”モモタロスも担当している。
「『仮面ライダー電王』は僕にとっても思い入れの強い作品です。スーツアクターとしての仮面ライダーの芝居は、あくまで“変身前”の姿があり、変身後の“中の人”を演じるという前提がありますが、『電王』では変身前の姿もスーツアクターが演じたんです」。
『電王』の変身前の姿・野上良太郎は佐藤健が演じているが、イマジンと呼ばれる怪人が主人公に憑依して、仮面ライダーに変身する。高岩にとってはその点でほかの作品とは違った体験をすることになった。
「普段は変身前を演じる俳優さんを観察し、リンクする部分とデフォルメのバランスを取りながら作り上げていきます。ところが『電王』のイマジンには変身前の俳優さん、ようは"外の人"がいない。僕らイマジン役のスーツアクターが、1からキャラクターを作っていく必要があったんです」。
コミカルでキャラの濃いイマジンたちは、声優人気も相まって、人気キャラクターに。高岩もそこで“スーツアクター”としての地位を確かなものにしたともいえる。中でもモモタロスはメインのスピンオフが何作も制作された。さらにモモタロスは『電王』以降の仮面ライダー作品にもたびたび登場している。
「『電王』以降の仮面ライダー作品にモモタロスが出演する際、その主演ライダーも僕が演じていたのですが、モモタロスと同じ場面に映るときは、監督から必ず『モモタロスのほうをやってくれ』と言われていました。立ち姿からしてモモタロスではなくなってしまうから、と。ただ、基本的には代役は立てたくないという監督さんが多かったので、あの頃は休みがまったくなかったですね。まだ小さかった子どもを任せっきりにしてしまって、協力してくれた妻には本当に感謝しています」。
特撮の現場で求められる“芝居の力”「アクションができるだけではスーツアクターは務まらない」
「最近の若い子は身体能力が本当に高くて、特にアクロバットの技術は僕らの世代とは比べ物にならないですね。ただ特撮の現場ではますます芝居の力が求められていて、アクションができるだけでは現代のスーツアクターは務まらなくなっています」。
全身を使って芝居をするのが俳優であり、たとえ顔が隠れていても代役では務まらない。平成ライダーを通してそのことを証明した高岩の功績は大きい。
「思えば“スーツアクター”という名称も、『電王』の頃に生まれた気がします。それより前は現場でも“中の人”なんて紹介をされていましたから。おそらくコアな特撮ファンが呼び始めたことが始まりなんじゃないかと思います」。
CGの技術は上がったが、一方で生身のアクションも見直されている昨今。スタントを立てずに俳優がアクションをすることも増えた。
「でもあくまで“俳優”がアクションをしている域を出ていないことは少し寂しいですね。スーツアクターの認知が増えたことや志望者が増えたことも嬉しいけれど、“アクション俳優”という職業のことも忘れないでほしいなと思います」。
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『時は今−− 歩み続けるその先へ ACTion』/高岩成二(外部サイト)
高岩成二:@seiji_takaiwa(外部サイト)