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五輪開会式の「動くピクトグラム」は日本人だからできた? 現代に光るパントマイムの“想像の価値”

 東京五輪開会式の演出の中でも、ひときわ目を引いた「動くピクトグラム」。わずか5分の持ち時間で、見事に全33競技50種目を表現したパントマイム・パフォーマーたちに賞賛が寄せられた。言語を超えたエンターテインメントとして注目が集まったパントマイム。その可能性と業界の現状を、自らもパフォーマーでありつつ、舞台演出や後進の育成にも尽力する一般社団法人日本パントマイム協会の代表理事である江ノ上陽一氏に聞いた。

その道のプロから見た『ピクトグラム』パフォーマンス 「本当に感謝している」

──五輪開会式の「動くピクトグラム」をご覧になったご感想をいただけますか?

まずは、が〜まるちょばのHIRO-PONさんやGABEZのMASAさん、hitoshiさんたちに「パントマイムの魅力を伝えてくれてありがとう!」と言いたいですね。多くの人の心をつかんだのは、何より彼らのパフォーマンスが完成度、独創性、ユーモアとすべての点において素晴らしかったから。中には、初めてパントマイムを見た子どもたちもいたでしょうし、最初に出会ったパントマイムがどれだけ面白くて質の高いものだったかによって興味の持ち方も変わってくると思うので、本当に感謝しています。

──パントマイムというと「壁」や「階段」などがおなじみですが、ああいう表現もあるとは知りませんでした。パントマイムの定義を教えていただけますか?

パントマイムの語源は古代ギリシャ語の「panto=すべて」と「mimos=模倣」。体の隅々の筋肉を自在に操る訓練を積み、「あらゆるものを体の動きで模倣」できるのがパントマイミストです。あたかも「壁」や「階段」がそこにあるように見せる表現もそうですし、大道芸などの銅像パフォーマンスもパントマイムの一種。あれは筋肉を極限まで硬直させるというパントマイミストの技術を応用したパフォーマンスです。

──一口にパントマイムといっても、実に多様な表現があるんですね。

ソロはもちろん、グループでも表現できますし、基本は人間の身一つですので場所も問いません。さらに言語にも左右されないので、世界中すべての人に伝えることができる。その点ではピクトグラム(絵記号)にも通じますよね。パントマイムって、実はとても使い勝手のいい表現なんです。

パントマイムは日本人向き? 几帳面な国民性が好影響に

──世界の人はあの「動くピクトグラム」をどう評価したと思いますか?

パントマイムに慣れ親しんでいる方だったら、おそらく「アメリカ風だな」と感じたんじゃないかと思います。あくまで傾向ですが、アメリカでは「エンタテイメントを追求した具体表現」、ヨーロッパでは「アートを追求した抽象表現」をするパントマイミストが多いので。

──日本独自のパントマイミストの傾向はありますか?

日本人パフォーマーの表現や、見せ方のアイデアは実に多様で、一言で括るのは難しいですね。ダンスにパントマイムの要素を取り入れる人もいれば、アクロバティックな表現をする人もいるし、僕のようにアンサンブルによる舞台作品で主に活動する人もいる──。ただ、各国のパントマイムのフェスティバルに参加していて思うのは、総じて日本人パントマイミストの技術はとても高いということです。たとえば同じ「壁」の表現でも、欧米のパフォーマーはわりと大雑把にやるんです。かたや日本人パフォーマーは、きっちりとリアルに表現する。そこは几帳面な国民性もあるのかもしれないですね。

──パントマイムは日本人向きなのでしょうか?

欧米の方って、言葉が通じなくてもオーバーアクションと熱量で押し通したりするじゃないですか。一方で、日本人は身振り手振りが慎ましやかですけど、パントマイムの表現を1つでも2つでも会得したら、海外旅行でも意外と便利かもしれないですよ。

──2019年には、江ノ上さんの呼びかけで一般社団法人日本パントマイム協会が発足しました。協会を立ち上げる背景には、業界の課題があったのでしょうか?

僕自身はパントマイム劇団「スーパー パントマイム シアター SOUKI」の主宰者でもあり、ここには劇団員も所属していますが、日本のパントマイミストの多くはフリーランスです。だけど、個人では仕事の広がりにも限界がある。先ほども言ったように日本のパントマイミストは総じてレベルが高いですし、また使い勝手のいい表現でもあるのに、なかなか活用してもらえていない現状があります。そこでもっと世の中にパントマイムを知ってもらい、パントマイミストの地位向上に繋げたいという思いから協会を設立しました。

科学技術が発展した現代だからこそ、その価値を高めたパントマイム

──たとえば、パントマイムにはどんな活用法があると考えられますか?

僕の過去の仕事では、日本製鉄のCMで俳優の井之脇海さんに「磁石人間」の振付をしたことがあります。街を歩く井之脇さんに鉄製のモノがどんどん吸い寄せられてくる──という内容だったんですが、パントマイムというのは抽象的なものから具体的なものまで、「あらゆるものを体の動きに置き換えて模倣」する表現です。ですから、企業のメッセージや製品の特徴、機能などを印象的に伝えるにはぴったりだと思うんですよ。

──五輪開会式でもCGやVRといったテクノロジーを駆使した表現が多くありました。それでもなお、極めてアナログな「動くピクトグラム」が人々の心をつかんだのはなぜだったと思いますか?

大道芸の銅像パフォーマンスなどでも、よく子どもがジーッと見入ってたりするじゃないですか。やっぱり、人間というのは本能的に人間の体に惹きつけられるものだと思うんです。オリンピックでも「人間の体ってカッコいい!」「スゴイ!」と感動した場面がたくさんありました。テクノロジーによって表現できることが増えれば増えるほど、「人間の体」による表現の価値はますます高まっていくと思います。

また、パントマイムには“表現しきれない”という魅力もあると思うんです。「動くピクトグラム」のように、ぱっと見ただけで何かわかるという分かりやすさを重視した演出もできるのですが、逆に見ている人に想像させるような演出もパントマイムの醍醐味です。CGやVRという技術を使って、想像したものが完全再現できるようになった世の中で、自分の頭で“想像”するということが忘れられているんじゃないかとも思っていて。そんな中で、“表現しきれない”パントマイムは、観ている人に想像する楽しさを再認識してもらえるという意味でも、大きな価値があるのではないでしょうか。

(取材・文/児玉澄子)

SUPER PANOTMIME THEATER SOUKI について

1990年、江ノ上陽一によって設立されたパフォーマンスグループ「SOUKI(想起)」。彼らの根底に宿る表現はパントマイム (PANTOMIME)である。しかしその表現は、BUTOH、バレエ、演劇、舞踊、京劇など、多種多様な芸術表現を通すことで、SOUKI独自の普遍的 な解釈を創り出す。具象と抽象、テクニックとムーブメント、そしてそれらを支える彼らの身体が1つとなるとき、SOUKIの作品群 「PERFORMING-ARTS」が生まれる。
また、パントマイムの面白さを多くの人たちに広めるため、徹底的にエンターテイメント性を重視した作品集「PHANTOM」シリーズや、オリジナル以外にもシェークスピアや宮沢賢治、落語の原作に基づくマイム劇も創作している。また、前代未聞の歌舞伎とのコラボレーション作品を発表し好評を得ている。

主宰の江ノ上陽一は、パントマイム作品(沈黙劇)の演出・振付を手がける日本では数少ないクリエーターであり、近年ではミュージカルやダンスパフォーマンスの演出、振付と活動の幅を広げ注目されている。
また、後進の指導にも力を入れており優秀なパフォーマー、ダンサーを育成している。

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