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YouTubeの音楽コンテンツに革命、『THE FIRST TAKE』が提示した「圧倒的な歌」へのニーズ

LiSA

 アーティストの“一発撮り”による歌唱動画で話題を集めているYouTubeチャンネル『THE FIRST TAKE』。2019年11月に開設された同チャンネルは、この11月で1周年を迎えた。“一発撮り”だからこそ生じる緊張感とドキュメンタリー性が共感を集め、チャンネル登録者数は現在256万人を突破。総再生回数は、5億2,000万回を超える活況を呈している。コロナ禍の影響もあって苦境に立つ音楽業界で、なぜ『THE FIRST TAKE』は成功することができたのか?

ごまかし効かない一発録り、「紅蓮華」や「猫」のヒットの起因に

 『THE FIRST TAKE』にアップされた動画の中でも、LiSAの「紅蓮華」は現在8,300万再生を突破。10月16日に公開されたばかりの「炎」も、同チャンネル史上最速で1,000万を超える再生数を記録している。また、DISH//(北村匠海)の「猫」(約6,800万再生)は、3年前にリリースされた楽曲であったにも関わらず、『THE FIRST TAKE』での北村の歌唱で人気に火が付き、ストリーミングでもヒット。『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)出演にもつながり、俳優の印象が強い北村の“アーティスト”としての一面を強く印象付ける結果となった。

 この勢いはYouTubeのみにとどまらず、“一発撮り”というニュース性も手伝い、ワイドショーや新聞などの既存メディアで取り上げられる機会も続々。さらに、フィッシャーズやはじめしゃちょー、香取慎吾らといったYouTuber、かまいたち、ほしのディスコのような芸人も『THE FIRST TAKE』のパロディ動画をアップ。このように“派生”していくこともまた、ヒットの証といえるだろう。

 今や、エンタテインメントに欠かせないプラットフォームなったYouTube。同社の副社長ロバート・キンセルCBO(チーフ・ビジネス・オフィサー)によると、「全体の50%がクリエイター(YouTuber)によるコンテンツ、25%は各種メディアによるコンテンツ。残りの25%がミュージックアーティストによるコンテンツとなっている」とのこと。このように、音楽はYouTubeにおける主要なコンテンツであることは間違いないが、これまではその大部分がミュージックビデオ、ライブ映像などで占められていた。そんな状況下での『THE FIRST TAKE』の盛況ぶりは、日本のYouTubeの在り方、また音楽シーンにとっても、エポックメイキングな出来事と言える。

音楽番組の不振、コロナ禍…苦境の中でなぜ成功できたのか?

北村匠海

DISH//(北村匠海)の「猫」は約6,800万再生

 現在の音楽シーンでは、瑛人の「香水」、YOASOBIの「夜に駆ける」、優里の「かくれんぼ」など、SNSやストリーミング発のヒット曲が次々と生まれているが、旧来から存在する音楽番組は苦戦を強いられ、コロナ禍でライブの開催もままならない。苦境ともいえる中で、なぜ『THE FIRST TAKE』というコンテンツは成功することができたのだろうか。その最大の理由は、同チャンネルが“プロの凄み”をわかりやすくユーザーに伝えたからだろう。

 YouTubeをはじめとする動画投稿サイトでは、2007年頃からアマチュアの投稿者による“歌ってみた”動画が増加。ここ数年は、プロのアーティストによる“歌ってみた”動画も多いが、それをもっとも研ぎ澄まされた表現で提示しているのが、『THE FIRST TAKE』だ。

 映し出されるのは、基本的にアーティスト自身と1本のマイクのみ。余計な演出や装飾はなく、“一発撮り、一発勝負”の状況、つまり、まったくごまかしが効かない場所で“プロの技”を聴かせる、というわけだ。視聴者からは、「歌唱力がエグい」「歌い手の人がどれだけ上手くても、LiSAの曲はLiSAじゃないとダメだと思わされる」(「紅蓮華」)、「思っていたのの5倍良かった」「“俳優”の北村匠海が歌ってると思ったら、すげぇ上手くて“アーティスト”なんだなって思った」(「猫」)、「曲調、歌い方、立ち姿、表情、振る舞い、ほんと芸術」(女王蜂「火炎」)といったコメントが寄せられている。

 もちろん、アマチュアの中にも力のある人は多いが、YouTubeにアップされる動画は数多く、玉石混交。その中で、アマチュアとプロの力量の差をまざまざと感じさせ、その凄みを見せつけることになったのが『THE FIRST TAKE』だ。アーティストにとっては、格好のアピールの機会であるとともに、真の実力が試される場所でもある。それだけに誰もが爪あとを残せるとは限らず、淘汰されるアーティストもいるだろう。だが、その嘘のない緊張感もまた『THE FIRST TAKE』が支持されている要因といえる。

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