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『恋つづ』が示した個人視聴率時代を勝ち抜く番組作り

 1月クールの地上波ドラマで大きな注目を集めた『恋はつづくよどこまでも』(TBS系)。ライフスタイルや価値観の多様化によって「ラブストーリーでは数字が取れない」と言われるなかで、新たな可能性を見出した作品でもある。その背景には「個人視聴率」の導入を見据えた動きも影響しているに違いない。「趣味嗜好」別にターゲットを絞った各局の番組づくりは今後、どのように変化していくのか?

恋愛ドラマ好きの女性の願望を満たすことに成功した『恋つづ』

  • 個人視聴率 解説図

    個人視聴率 解説図

 連続ドラマ『恋はつづくよどこまでも』(以下、『恋つづ』)の注目度は視聴率に頼ったものだけではなかった。初回は10%を切ったものの、その後、右肩上がりに上昇していき、最終話15.4%(※ビデオリサーチ調べ・関東地区)で着地するという成功セオリーに則ったものではあった。だが、それ以上に作品ファンからの反響が作品の注目度を高めた。1月クールの期間中、毎週火曜の放送後はツイッターで関連ワードがランキング上位を賑わせ、公式HPに設置された「ファンメッセージ」コーナーには10代・20代女性からのコメントの多さも目立った。若年層を含む女性視聴者を強く惹きつけたことは、地上波ドラマにおける恋愛ジャンルのプライオリティが下がっている風潮のなかに、一石を投じた作品となったのではないだろうか。

 ファンからの反響をみていると、大きくは2つの話題に投稿が集中していたことがわかる。1つは恋愛ドラマにおけるヒットの鉄則である主演カップルのキャスティングだ。『恋つづ』では上白石萌音と佐藤健の組み合わせに好意的な声が多く寄せられていたことが特徴にあった。上白石萌音が演じた佐倉七瀬(さくら・ななせ)は純粋でドジっ子、佐藤健が演じた天堂浬(てんどう・かいり)は超ドSというキャラクターがそれぞれ見事にハマり、さらに身長差があるビジュアルも功を奏していた。もう1つの話題は「好きな場面」の投稿だ。「後ろからハグ」を筆頭に、いわゆるキュンキュンが高まったシーンをファンの間で共有しようという動きが多くみられた。先のキャラクター設定にも共通することだが、王道の少女漫画の世界をそのまま再現したかのような演出や台詞選びは、恋愛ドラマ好きの女性の願望を満たすことに成功した。この振り切った番組作りこそ、来る個人視聴率時代に求められるものである。

テレビメディアの価値をより正しく示すデータ「個人視聴率」導入

 まずはこのまだ聞き慣れない「個人視聴率」について、「世帯視聴率」との違いと比較しながら説明していく。2020年2月6日に株式会社ビデオリサーチより視聴率調査のリニューアルが発表され、3月30日からテレビメディアの価値をより正しく示せる視聴率データが測定される事になった。その新しい視聴率データのひとつが「個人視聴率」と言われるものである。リニューアルすることになった背景には生活者(視聴者)のライフスタイルの多様化や、テレビの視聴形態の変化などが挙げられる。それに伴ってタイムシフトに象徴する「テレビ視聴の分散化」が進み、「放送局由来のコンテンツについてあらゆる接触を測定する」 「多様化する視聴者の実像をあらわす」ことを目指し、導入が始まった。

 調査対象世帯数は地区によって異なるが、視聴率調査の設計が統一される。これにより「全国」という単位で視聴状況を表現するデータが具現化され、「全国」単位での視聴率集計や、番組単位で全国の視聴人数の把握も可能になる。表示される数値は「世帯視聴率」では10世帯中の5世帯が視聴すると「50%」と表示されていたが、「個人視聴率」では30人中の9人が視聴すると「30%」といった具合だ(図参考)。「どのような視聴者がどのような環境で視聴しているのか?」といった視聴傾向がわかることで、以前よりもデータとしての価値が高まることが期待される。考えられるデメリットは世帯視聴率よりも表示される数値が低くなることから、これまで人気を示す物差しであった「視聴率」が使われにくくなることが考えられる。

番組づくりの方針にテレビ各局で違いあり

 そんななか、個人視聴率の導入による番組づくりの方針は放送局によって違いがみられる。すでに社内での番組指標を個人視聴率にシフトさせ、個人視聴率を重視した番組づくりを進めている日本テレビは、3月31日からプレスリリースにおいても「個人視聴率(関東)」を中心とした表記に変えることを発表した。フジテレビも個人視聴率の導入に積極的な姿勢を示す。「コンテンツによる収益を最大化するための施策」を打ち出し、変化するメディア環境に合わせた番組戦略を進めているところだ。
一方、テレビ朝日は3月31日に開催された定例会見で個人視聴率導入に賛成しながらも「今後も変わらずオールターゲットの番組づくりを行う」と発言したことが報じられている。

 『恋つづ』のようなヒット事例があっても、個人の趣味嗜好に合わせた番組づくりはまだ実験段階にはある。だが、個人視聴率の本格導入によって今後どのように変化をみせていくか、注視すべきであることは間違いない。なぜなら、視聴スタイルの多様化は避けられない動きであるからだ。電通が3月11日に発表した「2019年日本の広告費」によると、インターネット広告費が6年連続2桁成長となり、テレビメディア広告費を抜いて、初の2兆円超えとなった今、首座を奪われたテレビが宣伝メディアとしての価値を見直す最後のチャンスの時でもある。近い将来、これまで見えてこなかった視聴データから新たなマネタイズの視点を取り入れるという考え方は、必ずや番組づくりの本流となっていくだろう。恋愛ドラマに光明を見出した『恋つづ』などの事例は大いに活用できるはずだ。
(文・長谷川朋子)

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