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ミニシアター苦境で問われる芸術文化支援の在り方
有志の関係者、映画メディアが一丸となって広げるミニシアター支援の輪
このほかにも、京都・大阪・神戸にある関西のミニシアターがキャンペーンサイト「Save our local cinemas」を立ち上げ、支援を呼びかけているほか、全国の多くのミニシアターが寄付や賛助会員への入会募集のほか、特別鑑賞券やグッズの通販などを行うことで、苦境を乗り切るための独自の活動を展開している。
4月8日より休館中のアップリンクは、外出を控える映画ファンに向けて、自社で運営するオンライン映画館「アップリンク・クラウド」にて、配給作品60本が見放題になる寄付込みのプランをスタートした。こうしたミニシアターそれぞれが取り組む、事業の継続と映画文化を守るための活動を、入江悠監督は自身のブログで一覧にして発信するなど、映画系メディアを含めて映画界が一丸となって支援している。
芸術文化に理解の深い欧米との公的文化支援の大きな格差
やはり個人経営の劇場では、個々に寄付などを募っている映画館もあるが、劇場オーナーの業界団体NATO(National Association of Theatre Owners、全米劇場所有者協会)などが中心となった映画館従業員への援助基金の準備も進められているほか、米Netflixは映画界救済のために業界団体への寄付や基金の設立による支援を行っていることも伝えられている。芸術分野においても、全米最大の芸術支援組織、NEA(National Endowment for the Arts、全米芸術基金)は、非営利芸術団体向けに7500万ドル(約83億円)の緊急支援の方針を発表している。
また、芸術文化振興への理解と支援の厚いヨーロッパでは、ドイツのモニカ・グリュッタース文化大臣による文化的および創造的分野を守るとする力強いサポート宣言も注目を集めたが、ドイツ、イタリア、フランス、イギリスなどはこれまでに下表のような文化支援策を発表している。財政支援も含めて、国が芸術文化分野の個人、企業を守るべくそれぞれ積極的に動き出しているのが、未だ具体的な支援策のない日本とは対称的だ。
国に問われる芸術文化支援の在り方
このような関係者の声や実際のそれぞれの国における実際の文化支援予算額、文化存続の危機に面した現況における各国の対応からは、日本の芸術文化分野への理解の薄さや、文化先進国の標準から遅れている状況が浮き彫りになる。
「文化支援の薄弱さが如実に影響しており、まず映画作品は商品なのか、アートなのかという定義があやふやな状況が問題になっています。4月7日に文化庁が発表した『新型コロナウイルスの影響を受ける文化芸術関係者への支援』では、劇場、音楽堂、博物館が対象に含まれていますが、映画館はなぜか除外されています。映画館は『商業施設』とみなされ、経産省が出す一般中小企業への『持続化給付金』(前年比の減収分を補填、上限200万円)への応募とされています(4月12日時点)。しかし、200万円ではまったく足りません。渋谷、吉祥寺にあるミニシアターのアップリンクは、家賃すら全額払えないと悲鳴を上げました。ここは、経産省に加え、文化庁にも、芸術文化支援として映画館を助けていただきたい。経産省の給付金の拡大を訴えつつ、文化庁にもそもそもの芸術文化支援の在り方を問い質したいです」(舩橋監督)
映画は緊急時も、緊急事態の収束後の未来にも必要な社会インフラ
夏前には閉館に追い込まれてしまうかもしれない映画館もある状況で、「#SaveTheCinema」は、できることをすべてやろうと「ミニシアターを救え!」と声を上げている。舩橋監督は、「映画は単なる娯楽ではなく、日本のさまざまな地域に多様な文化芸術体験を提供し、憲法の謳う『最低限度の文化的な生活』を支える重要な存在です。ドイツの文化相は『アーティストは必要不可欠であるだけでなく、生命維持に必要なのだ』と言いました。 映画は、いまの緊急時も、緊急事態の収束後の未来にも必要な社会インフラです。ですから、今回休業や自粛に追い込まれた芸術文化施設と同様に、映画館への支援を国に求めたいです」と語る。
先のまったくみえない未曾有の危機のなか、映画界ではミニシアターを支援しようと個別に動く関係者に対して賛同する声は高まっているものの、そこでできることには限界もある。現況からは、国としての産業支援の大きな動きが必要な緊急事態であることがひしひしと伝わってくる。
(文・武井保之)