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King Gnu井口理の積極的SNS芸、 フロントマンとして新たな立ち位置に

  • 自身のTwitterのフォロワーは57万人を超える、King Gnu井口理(C)ORICON NewS inc.

    自身のTwitterのフォロワーは57万人を超える、King Gnu井口理(C)ORICON NewS inc.

 『第70回紅白歌合戦』(NHK総合)をはじめ、昨年末はヒット曲「白日」をTVの歌番組などで披露し続けていたKing Gnu(キングヌー)。すっかりお茶の間にも知られるようになった彼らだが、今年も新曲「Teenager Forever」を収録した最新アルバム『CEREMONY』が、「オリコン週間アルバムランキング」(1/27付)で初週売上23.8万枚、1位に初登場したことが話題になった。なぜKing Gnuはここまで受けいれられるのか。そこには、高い音楽性をも凌駕する強烈な個性でバンド人気の間口を広げてきた、ボーカル・井口理の存在が大きく関係しているように見える。

「白日」MVの“神聖さ”を良い意味でぶち壊した、“クソリプ”お家芸

 King Gnuは、東京芸術大学出身の井口と盟友・常田大希のツインボーカルを中心とした4人組バンド。ジャンル的にはミクスチャーとされ、ジャズやファンク、ロック、プログレっぽさを混ぜて、J‐POP風に味付けをしたような楽曲が多く、音楽性は非常に高い。そのフロントマンでもあり、バンドの顔=ボーカルである井口は、美しいファルセット(裏声)を駆使した歌唱で聴く者を惹きつけている。静謐なバラード調からリズミカルでアップテンポな曲まで自在にこなすボーカリング、持ち前のヒゲとメガネは一見、井口をカリスマ性のあるクールで寡黙な人物として認識させる。しかし実際は、自身のSNSやラジオ番組で“奇行”としか言いようのない言動を見せ、物議を醸しているのである。

 たとえば、今や57.9万フォロワーを誇るTwitterでは、いわゆる“クソリプ” (中身がなく無関係でつまらない=クソなリプ(ライ)を一方的に不特定多数の人間に送りつける)は井口のお家芸で、一度も会ったことのない人に対して、「楽曲を聴いてくれ」とリプライを送り続けている。その相手は著名人にも及び、「ジャスティン、いつものやで」とジャスティン・ビーバーに送ったり、「今回もいいもん出来ましたぜ法王」となんとローマ法王にまでクソリプを送っているのだ。

 この迷惑行為?はブレイク前の2016年ぐらいから自称「プロモーション」として行なわれ、数え上げればキリのないほどの相手にばらまかれている。ちなみに同業者のASIAN KUNG‐FU GENERATIONのボーカル・後藤正文からはブロックされ(2018年に井口ファンの懇願により解除)、井口がファンだというグラビアアイドル・篠崎愛からは無視されている。

“階段降り”、“便所サンダル”…井口の一挙手一投足がSNSでトレンド入り

 さらに、井口の“奇行”がとうとう地上波にまで乗ってしまったのが、2019年2月22日の『MUSIC STATION』(テレビ朝日系)出演時だ。同番組の冒頭は、各アーティストが階段を降りてくるシーンからはじまるのが恒例だが、井口はその初登場の晴れ舞台で、頭と手足を振り回しながら、マンガ『進撃の巨人』の“奇行種”のようなステップで登場するという、まさに“狂気の沙汰”を敢行。King Gnuを知らない視聴者をドン引き&鳥肌させた。本人は後日、「爪痕を毎回残そうとするバンドなんですよね」とうそぶいていたが、放送終了時は「Mステ登場シーン友達からスローで送られてきた」として、自身の奇行動画をTwitterにアップすると再生数が107万回を超え、「本当に『白日』を歌っていた人と同一人物?」と話題になった。

 その後、本番で歌に入り込みすぎて“ヘン顔”になったり(白目を剥くなど)、トーク中にタイミングがずれたところで突然笑い出したり、便所サンダルをはいてきたりなど、MステにKing Gnuが出演する回は、井口をはじめメンバーの名前や関連ワードがTwitterでトレンド入りするようになり、「白日」なんだか「白目」なんだかわからない状況になった。最新シングル「Teenager Forever」のPVでも、井口は札びらを切ったり美女たちを侍らせたりして「ゲスすぎる」と話題になるなど、井口の狂気じみたキャラクターはすっかり定着しはじめたようなのだ。

“爪痕残すため意見を募る” リスナーとの共犯関係結ぶ、ラジオが飛躍のカギに

 そんな井口だが、本領が発揮されているのは実はラジオ。現在、井口は『オールナイトニッポン0(ZERO)』(ニッポン放送)の木曜日パーソナリティーを務めるが、たとえばMステ出演が決まれば、「Mステ対策会議」と題し、リスナーから初回登場時のインパクトを超える爪痕を残すアイデアを募集する。そして、集まった意見から最終的に「好感度を上げるためにエアで猫を可愛がる」という案を選ぶと、本番ではぱっと見、マイクの先端を撫でているようにしか見えず、ただの変質者のようになってしまった。それに対しリスナーは、「本当にやりやがった!」とSNSで盛り上がり、井口とファンの間には、ラジオ→テレビ→SNSと話題を循環させていく“共犯関係”が形成されていることがうかがえる。

 実際、今ではラジオが聞けるアプリ「ラジコ」の普及などもあり、かつてのテレビよりもラジオの市場のほうが活気があるともいわれる。リスナーのラジオ番組に対する注目度は高く、出演者にしても重要な報告をテレビではなくラジオで行なうケースが増えている。たとえば、アルコ&ピースや山里亮太、おぎやはぎ、バナナマンなどの芸人たちがラジオを大事にしていることは知られており、視聴者にしても彼らに対して「ラジオのほうが面白い」、「ラジオだとテレビでは聞けない話が聞ける」として重宝しているし、むしろ尖った層に対しては、テレビよりラジオというメディアのほうが影響力が強いともいえる。

 そうした意味でも、井口の“狂気”はリスナーとの距離が近いラジオで全開しやすく、「ひたすらポルノグラフィティのカラオケを歌い続ける」、「ひたすら下ネタ話を続ける」などのミュージシャンにあるまじき?行為を続けるのだが、同時に奇行の背後にある井口本来のユニークな才能や、温かい人間性が伝わる場にもなっており、ラジオはKing Gnuの世界へのよき玄関口ともいえるのだ。

SNS芸やスベリ芸をバンドのために繰り出す、フロントマンとしての新たな役割

 よく考えれば、芸大の声学科を卒業している井口が美声であることは当然だし、ジャズやブラック系音楽を内包したミクスチャーでオシャレな楽曲、日本人の耳に馴染みやすいキャッチーなメロディや急な転調など、聞く者を飽きさせない豊かな音楽性がKing Gnuの最大の魅力であることは間違いない。その一方で、バンドの顔ともいえるボーカル・井口は、クソリプをばらまいたり、テレビで奇行に走ったり、ラジオで過激なバカ話をしているわけで、その“ギャップ”はかなり斬新なものといえるだろう。

 先述の「爪痕を残す」ということについても井口は、「本当言うと、するほうは気が気じゃないんです。(本番が)はじまるまで(緊張で)お腹が痛くなるし。正直なところ、あの(Mステの)降り方をするのはめちゃめちゃ勇気がいることだった。あれ、やりたくなかったからね。爪痕のためにやったことですから」と自らラジオ番組で語り、実際の奇行と、その内面にあった知られざる葛藤という意味でも、“ギャップ”があることを明かしたのだ。

 高い音楽的センスで視聴者を魅せるKing Gnuと、時にはドン引きされるほどの自己表現を見せるボーカルの井口理。その強烈なギャップ感は、これまでの優れた楽曲制作やパフォーマンスでカリスマ性を得ていたバンドにはあまり見られなかったものだ。しかしそのギャップは結果的に、King Gnuの音楽性の“尖った”部分を“親しみやすさ”でカバーしながら、視聴者の感性をより惹きつけることになったようである。ボーカル・井口理は、バンドのフロントマンとして新しい形を提示しているのかもしれない。

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