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『富野由悠季×安彦良和』再タッグの可能性も? サンライズGMが語る「名作はクリエイターの“衝突”から生まれる」

二人の作品作りを支えることがサンライズからの“恩返し”

――プロデューサー業はもちろん、GMとしてのお仕事はクリエイターとの関わりが強いと思います。サンライズといえば“ガンダムの生みの親”である富野由悠季監督、そして日本を代表するアニメーターであり『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』の総監督を務められた安彦良和さんと仕事をする機会が多いです。

小形尚弘安彦さんが監督した『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』は、私がプロデューサーを担当した『機動戦士ガンダムUC(ユニコーン)』とやや並行で制作されていました。いわゆる社内における“ライバル同士”ということもあり、あまりお話しする機会はなかったのですが、最近は色々とお話させてもらっています。

――同じ会社内の作品とはいえ、クリエイティブな作業をする方たちにとって他作品はライバルなんですね。ちなみに『THE ORIGIN』は本編の前段部分にあたる「シャア・セイラ編」の映像化は終わりましたが、いわゆる一年戦争本編部分の制作はしないという報道がありました。それは決定事項なのでしょうか。

小形尚弘そうです。そこには色んな経緯がありますが、『THE ORIGIN』のプロジェクトとしては一年戦争に入る前の「シャア・セイラ編」で区切りとしました。

――日本を代表するアニメ界のレジェンドを相手に「NO」を言う難しさ、あるいは一緒に仕事をする難しさ、あるいは楽しさはどのように感じられていますか?

小形尚弘安彦さんとはまだ付き合いが短く、この1年くらいで話をさせてもらってるんでまだこれからだと思いますが、富野さんとは『ブレンパワード』(1998年)や『∀(ターンエー)ガンダム』(1999年)の頃からずっとやらせてもらっています。基本的に僕の制作面における考え方の基軸は富野さんの影響が非常に大きいです。

――富野監督はパワフルな方として有名です。

小形尚弘富野さんは今年78歳になりましたが、とにかく誰よりも仕事をしている方なので、そこに対してはリスペクト以外の何ものもないのと、「死ぬまで仕事を続けたい」というモチベーションがあるため、色んなものに対して凄く興味を持っている方です。アンテナの張り方が普通の人と違い、その姿勢に強く影響を受けました。よく怒られるんですけど、そういう風に怒って貰えるってこともなかなかないことなので、そのたびに初心に返る気持ちがあります。

――先日、小形さんがプロデュースをした富野監督の最新作・劇場版『Gのレコンギスタ』第1部が上映されました。

小形尚弘はい、興行的には皆さんに支えられていて非常に良い結果となりました。上映館を増やせずご迷惑をかけているんですけど、その上映館数では考えられないくらいの数字になっています。全5部作ありますので、この後の展開で上映館数も増やしていきたいです。

――先ほど安彦監督とはここ1年ほどやりとりが続いているとのことですが、一緒にお仕事をされているのは新しい作品のためですか?

小形尚弘まだこれも言えないんですけど、安彦さんも富野さんと同じく死ぬまで仕事をする方なので、それに対してサンライズがきっちり支えていくのが、お二人に対する恩返しだと思っています。何か表現したいことがあるのでしたらサンライズは全面的に支えていきたいと思います。もちろん、ダメなときはダメだと言いますが(苦笑)。

富野×安彦の関係性は高畑勲×宮崎駿の関係性に近い「お互いがお互いを求めている」

――両監督のスタンスの違いというものはGMとしてどう感じられていますか?

小形尚弘富野さんは演出家で、安彦さんは作家というか芸術家。全く違いますね。安彦さんは全部自分でできてしまう人だと思うんですよ。『THE ORIGIN』の漫画は本当に素晴らしい。もちろん富野さんのファーストガンダムの下敷きがあってのことなんですけど、全部安彦さんの手によってあの作品が生まれていて、富野さんは逆に言うとそれはできないんです。富野さんは演出家であって、アニメーションを作るにあたって全部フィニッシュまでできるわけではない。スタジオジブリの宮崎駿監督もやろうと思ったら全部自分で描けちゃう人なので、どちらかといったら私の中では安彦さんは宮崎監督タイプの方にカテゴライズされます。そこの違いは大きくて、富野さんは色々な人の手を借りながら、刺激を受けて作品作りをしていて、安彦さんは自分の中で考えている伝えたいことを直接自分の手で映像に再現していくタイプだと思います。

――なるほど。スタッフワークの部分でいうと、安彦監督は自分のイメージしているものをどう再現するか。一方の富野監督は若手を積極的に起用したりと、演出家として新しい刺激を常に受けようとしているように見えます。

小形尚弘そうですね。富野監督は自分の“クリエイティブ”な寿命を長持ちさせるために若手を起用したり勉強している面もあると思います。今、各地で『富野由悠季の世界』という展覧会が開催されていて、そこに行くとどのクリエイターとどんな刺激を受けながら作ってきたのかが全部見られます。これは身内びいきでは決してなく、あの展覧会は物作りに関わっている人達は絶対一回は見るべきだと思います。

――先ほど安彦監督は宮崎監督とタイプが近いというお話が出ましたが、それでいうと富野監督は故・高畑勲監督タイプだと感じました。以前富野監督にインタビューした際、「僕は高畑さんの“影響下”で仕事をしていた」と、“高畑イズム”の影響を語られていましたし、「僕にとってもパクさんは『師匠』だった」と明言されています。高畑監督と富野監督は絵を描かないアニメーション演出家、宮崎監督と安彦監督は最高のアニメーターという両者の関係も似ています。富野監督と安彦監督が再びタッグを組むことはあるのでしょうか。

小形尚弘それはぜひ見たいですけど、私は担当プロデューサーをやりたくないですね(笑)。実際、“お互いがお互いを求めている”という面は間違いなくあります。しかし、これは私の自論なんですけど、演出家と作画アニメーター、デザイナーというのは根本的に交わらない部分があるんです。

――宮崎監督と高畑監督も『ラピュタ』以後は一緒に仕事をしていませんし、ファーストガンダム以降、富野監督作品に対して安彦監督はキャラデザで関わったのみです。

小形尚弘クリエイティブな現場って、ぶつかり合いの中で作品が生まれていって、ぶつかればぶつかるほど面白くなることが多いんです。本当にこれは残念なことなんですけど、「みんなで仲良く平和に」って進めた作品はつまらないことが多い。もちろん、喧々諤々の喧嘩をしながらできあがって、それでも売れない作品はあります。でも私の経験では、売れたアニメ作品は必ず揉めます(苦笑)。これって変な話ですが、この宇宙の起源を遡って見ても分子レベルのぶつかりあいで誕生している。結局、そういうものがないとモノって作れないんだなと、毎回毎回心を擦り減らしながら経験してきました。

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