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(更新: ORICON NEWS

アイディアの源泉は作品愛、agnam代表取締役社長・中村太一氏

コンテンツの周囲でおこなわれるコミュニケーション

――中村さんがお仕事をされているなかでも業界の流れは毎年のように変わってきたと思いますが、博報堂時代も含めてエンタメ業界のど真ん中にいて感じることはありますか?
 個人の好みにアジャストしたものだけが来ているか、と言ったらそうでもなくて、コミュニケーションが楽しめるコンテンツやサービスもどんどん増えてきていて、例えば動画配信プラットフォーム、SHOWROOMとか17 Liveとかもすごく面白いですね。コミュニケーションがダイレクト且つ双方的で、ユーザー同士のやり取りも楽しめる。僕の好きな漫画やアニメの版権をクリアにして、「ライバーと一緒に読もう・観よう」といった企画をやったらもっと面白いだろうなとか考えていますね。

 それと、オンラインのコミュニケーションが凄く滑らかで重層的になってますよね。facebook、Twitter、LINE、インスタ等のSNSが普及して、仕事ではslack、chatwork、discord、trello、Telegramなんか全部使いますし。ユーザーが当たり前のようにそれらを使いこなすようになってきました。実は、エンタメに関してアメリカの調査結果があるんですが、テレビや映画、アニメなどコンテンツの消費時間よりも、コンテンツを消費した人同士のコミュニケーションの時間の方がどんどん多くなっているんです。それは、こうしたツールの普及と凄く関係していると思っています。

 リアル空間でもそうだと思うんです。この前、奥さんと子供と一緒に映画『名探偵コナン』の応援上映会イベントに行ってきたんです。物語も当然面白いのですが、客席にいるお姉さんたちがスクリーンに向かって声援を送っている。そのお姉さんが子供たちに向かって「ごめんね、うるさくて」と気を遣って言葉をかけてくれたんです。それってコンテンツの周りにいる人同士がおこなうコミュニケーションなんですよね。知らない人同士が一つのコンテンツを通して同時に盛り上がれるのは、リアルイベントの大きな魅力ですね。

 そしてもう一つ、僕はファンの声をとても大事にしていて、定期的にアニメや漫画、ゲームや舞台それぞれの年代のファンにインタビューをしていて、その話が凄く面白いんです。例えば舞台が好きで年間200公演行く20代の女の子に「VRが発達していけば舞台に行かなくなるのかな?」と質問すると「全然違うんです」と言うんです。舞台好きな人は役者を見に行っているわけでもなく、美術のセットを見に行っているわけでもなく、観客を含めたそれ全部が発する「熱」を体感しに行っているんですと言われて、その話を聞くとまだリアルでも出来ることは沢山あるなと思って。

agnam代表取締役社長・中村太一氏(C)MusicVoice

agnam代表取締役社長・中村太一氏(C)MusicVoice

――ネットが発達して相互が繋がれるようになっていますが、リアルで物事を体験することも大事なんですね。
 大事ですね。第一感が試されると言いますか、ウェブはそんなに印象に残らないですけど、リアルだと、人もそうですが、最初の印象と言いますか一次情報がすごく豊富なので、それは必ず取るようにしています。

――普段からそういった分析や面白い事を考えているんですか?
 そうですね。午前中はそういうことを考える時間に当てています。例えば、どんなカテゴリーのファンでも根底にある思いは一緒なんです。それは、自分の好きなキャラクターには「死んでほしくない」ってことなんですよ。アーティストなら辞めないでほしい。凄く活躍しなくてもいいから「ずっと生きていてもらいたい」ということを本質的に感じています。自分のことを「癒してくれた」「包んでくれた」という記憶をファンはちゃんと覚えています。

 なので、お互いを大事にしている感覚、そういう愛が大事ですね。それが作り手と受け手の間で何らかの形で担保されているエンタメはずっと生き残るし、進化できるんじゃないかなと思いますね。

――確かにそういった側面はありますね。中村さんのそういった分析や経験を生かして、企業やクライアントに新しい楽しみ方を提案するような感じですか?
 プロデューサーとして入るときもあれば、プランナーとして入るプロジェクトもありますし、それぞれのプロジェクトに応じて変わってきますが、基本的な考えや想いは一緒ですね。

――大企業など組織の優位性はあると思いますが、個人のプロデューサーとして大変に思うことは?
 個人だから大変というのは特にないですね。今は、企業か個人かによって判断することは昔より少なくなってきていると思います。さすがに、ワールドカップやオリンピックとかのように何千、何万人も関わらないといけないビッグプロジェクトの場合は組織に属していないとだめだと思いますが、「こういう事が面白いよね」「こういう事が新しいよね」と思うものは個人でもできると思います。

 落合陽一さんの言葉で「百姓になれ」というのがあって、百姓というのは、「100の生業がある人たち」のことを指しているようで、決められた役割や組織の論理に捉われずに、実力が発揮できたり、求められている仕事に自分を適応させていく、そういう事がやれるようになってきていると思います。

――個人が力を発揮できる時代になってきているということなんですね。好きを仕事にするというのは昔では難しかったことだと思いますが、今は出口が広がったということがその可能性を広げたということになりますか?
 そうだと思います。エンタメが好きな人たちはそのキャラクターやアーティストに色んな形で接したいんですね。いろんな形でコミュニケーションを取り続けたいと思っているんです。そうなった時にいろんな出口があるということと凄くマッチしていて、ただ同じ味だと飽きてしまうので、次はこういう企画、こういう話、SNSでこういう出方、そういうものを重ねていくと、コンテンツはずっと生き続けることができると思っています。

――ファンの求めていることに合致させる、もしくはそれ以上のものを作るというものは大変ではないですか。
 そうですね。ですので、さきほど言ったユーザーヒアリングのようなものは凄く大事にしています。自分がやらせて頂くコンテンツの仕事の時は、そういうのが好きな子達を5人から10人ぐらいにヒアリングして、一体どこが刺さっているのか、それもタイミングによっても違いますから、コンテンツの初期なのか、盛り上がっている中期か、後期なのか、それを客観的に捉える作業は欠かさないようにしています。

――ファンに向けて行うものと、それ以外に向けて行うものとでは、やり方も変わってきますよね。
 そうですね。ダイレクトにファンに当てていくと、コアなファンには刺さるけど、広がりは少なくなってしまうので、広がりを取りたいのであれば、広げられる要素のものと組み合わせることが大事ですね。『進撃の巨人』でしたら実物(ビルへのプロジェクトマッピングや自動車メーカーのCF)と組み合わせで出すと1000万再生されたり、それは掛け合わせですね。

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