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阿川佐和子、『陸王』での好演で女優としても評価上昇 持ち前の“聞く力”が相乗効果に

  • 池井戸潤原作の秋ドラマ『陸王』で、実力派俳優に負けず劣らずの好演を見せているエッセイストの阿川佐和子 (C)ORICON NewS inc.

    池井戸潤原作の秋ドラマ『陸王』で、実力派俳優に負けず劣らずの好演を見せているエッセイストの阿川佐和子 (C)ORICON NewS inc.

 第1話の平均視聴率が14.7%の好スタートを切った池井戸潤原作の秋ドラマ『陸王』(TBS系)。そんな中で、主演の役所広司ら並みいる実力派俳優に負けず劣らずの好演を見せているのがエッセイストの阿川佐和子だ。連ドラ初レギュラーながら、堂々たる演技を見せた阿川。好演の要因となった彼女のバックボーンを分析する。

阿川の好演に視聴者が涙 「女優じゃないの?」との声も

 阿川佐和子は1953年生まれ。エッセイスト、タレントで、父親は文学界を代表する小説家、評論家の阿川弘之氏。現在は『ビートたけしのTVタックル』(テレビ朝日系)で進行レギュラー役を務めるほか、『サワコの朝』(TBS系)では聞き手役。2012年に発表されたエッセイ『聞く力』は、約100万部の売り上げを記録し、同年の年間ベストセラー第1位となっている。

 そんな阿川が演じるのは、老舗足袋業者「こはぜ屋」縫製課の女性工員リーダー・正岡あけみ。阿川の芝居に、視聴者から最も好評価が集まったのは、第1話終盤のクライマックスシーン。役所演じる「こはぜ屋」社長・宮沢紘一が、融資を渋る銀行員・大橋(馬場徹)を怒鳴りつけるシーンで、あけみは、社長のマラソン足袋製作と仲間への熱い想いを聞き、涙をこらえる…。この迫真の演技にSNSでは、「阿川さんがこの物語のヒロイン」「泣けた」「演技が自然すぎて、普通に“えっ女優さんじゃないの?”ってなった」などの絶賛コメントが多く上がった。

 当シーンの現場に密着していたメディア研究家の衣輪晋一氏は、当時を振り返りこう語る。「リハーサルから、宮沢社長の“バカにするのは止めて頂きたい!”の激高の台詞を役所さんが全力で演じるなど、現場は緊迫感に包まれていました。そんな中でも、阿川さんは合間には談笑するなどリラックス。さすが『TVタックル』などで、たけしさんなど大物や、大竹まことさんのようなクセ者を相手に平然と進行、ツッコミを繰り広げられる方ですよね」と感嘆の声。役所という大物のすぐ側で丁々発止のやり取りをすることが多いあけみ(阿川)を見て、衣輪は「『TVタックル』の光景のようだと感じられる方も多いのではないでか」と語る。

お芝居に連続性を産み出す“聞く力”の効果

 阿川の堂々としたお芝居や、大物との掛け合いにも物怖じしない(ように見える?)度胸は、彼女のバックボーンのほか、名インタビュアーとしての“聞く力”がいかんなく発揮されている。阿川が父・阿川弘之氏について書いた『強父論』によれば、文学者の弘之氏は阿川が幼稚園の頃から「何が言いたい」「結論から言え」と怒鳴りつける関白な人物で、その一方、阿川からプレゼントされた耳かきを大事に使い続ける義理堅さもあった。また遠藤周作のような大物とも数多く知り合いだったため、その娘の阿川も、コワモテや大物との立ち回りを自然と身につけていったのではないかと推測される。さらには兄の阿川尚之氏もエッセイストで法学者。そもそもクリエイティブな家族だったこともあるだろう。

 さらに言えば、著書『聞く力』には、「インタビュー時、次にどんな質問をするかばかり考えていると、肝心の相手の話はほとんど入ってこない。全然聞いてないに等しい。それを続けていると、相手の話を聞いてないから話に連続性が生まれません」と記述がある。これについて衣輪氏は「某キー局プロデューサーに芸人の俳優起用伺った際、芸人さんは、相手を受けてリアクションする芸に長けているから下手な役者よりお芝居や話に連続性が生まれやすいと話していました。これは『聞く力』の記述につながりますよね」と解説する。

「福澤組」が阿川のさらなる魅力を引き出す

 連ドラ実績がなく、満を持しての登場となった阿川が好評価を得たのは、良質な群像劇に定評がある「福澤組」であることも大きい。「福澤組」とは伊與田英徳プロデューサーと福澤克雄監督のタッグによる制作チーム。『半沢直樹』(TBS系)では壇蜜を起用したほか、『下町ロケット』(同)では、立川談春、今田耕司、今野浩喜ら芸人たちに重要な役柄を当てている。

 テレビドラマは俳優以外を“飛び道具“的に活用することが多いが、「福澤組」はその傾向がとくに強く、さらに極めて上手い印象がある。阿川自身も今回の役柄のキャスティングについて「阿川佐和子の本質を見抜かれていたのではないかと思った」と話したほどだ。

 俳優以外の起用については、福澤監督は過去に「テレビではよく見ても、芝居は見たことないような人が出ると、視聴者としてはそこだけでも楽しみがある」と語っている。付け加えて衣輪氏も、「『逃げるは恥だが役に立つ』(同)に携わり、現在『監獄のお姫様』(同)をプロデュースする宮崎真佐子さんも、俳優以外を起用すると、どんな芝居の転がり方をするか読めないところがあり、それは作る側にとっても新鮮で良い物が生まれやすいと分析されていました」と語る。阿川を「ヒロイン」とする声が視聴者から上がる通り、阿川には初レギュラーながら、ドラマ界に新風を巻き起こす存在になる可能性が、すでにあるのだ。

 「福澤組」から、その“聞く力”を最大限に引き出され、大物に負けない好演を見せる阿川。『陸王』でのあけみの活躍は、今後の同作を占う重要なファクターであることは間違いない。

(文:中野ナガ)

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