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「豆腐プロレス」の成功に見る、古くから続くアイドルとプロレスの“親和性”
昭和の時代から親しまれてきた“アイドルレスラー”
そして70年代の半ば、プロレス界は大きく舵を切る。そのなかで彗星のごとく現れたのが女子プロレスの「ビューティ・ペア」や「クラッシュギャルズ」だ。彼女らは従来の女子プロレスラーとは一線を画するルックスの良さで“アイドルレスラー”と呼ばれた。リング上の活躍だけでなく、シングル曲の発売、テレビや映画への出演といった風に、プロレスの枠を超えてメディアを席巻。“国民的アイドルレスラー”として支持された。当時、“アイドルレスラー”と呼ばれるムーブメントが受け入れられた理由は何なのか。メディア研究家の衣輪晋一氏は「あの頃のプロレスは時代の写し鏡だった」と話す。
レスラーの背中に想いを託してきたファンの姿は、今のアイドルファンと酷似
例えば力道山、日本の敗戦ショックが抜けない時代、日本組VS外国人組という座組で、力道山が外国人をなぎ倒す姿に、日本人は復興への想いを重ねた。馬場・猪木時代は高度経済成長期。強力な外国人レスラー相手に傷つき流血しながらも勝っていく姿が、世界で再び頭角を現していった時代とリンク。そんななか、学生運動が下火になり始めた70年代半ば、「『オトナは分かっちゃくれない』などと世代交代が叫ばれる時代へと入ったのだが、アイドルレスラーたちはこの流れにいた」と同氏。各時代の世情を反映していた頃と違い、視点は個人…つまり歴史を離れ、等身大へと向かっていった
「アイドルレスラーと呼ばれる人たちは、下積みからのし上がってスターの座を掴みましたが、プロレスファンは、その一連の成長ストーリーを一緒になって見守り、応援していました。こうした浪花節のストーリー性は、今のアイドルが持つ“成功物語”や“魅力”と似ていると思いませんか? つまり、女子プロレスとアイドルはストーリー性の部分で“親和性”が高い。それに、アイドル顔の女性が鬼の形相や苦悶の表情を見せ、時に流血するそのギャップは、いつの時代もファンも惹きつける大きな魅力のひとつとなっています」(衣輪氏)
プロレスの持つエンタメ性は、ライト層にも受け入れられやすい
その流れで、90年代後半から00年代には『めちゃめちゃイケてるッ!』(フジテレビ系)で「格闘女神MECHA/めちゃ日本女子プロレス」の企画も人気に。めちゃイケメンバーと、嘉門洋子や矢沢心、堀越のり、小池栄子、吉岡美穂、佐藤江梨子、安めぐみら、グラビアアイドルやタレントまでも出演するまでに枠が広がり、彼女らがプロレスという手荒い洗礼を通ってブレイクしていく“めちゃ女神話”なるものも生まれていった。これは、プロレスの持つ“楽しさ“や”分かりやすさ”が、ライトな視聴者に伝わりやすいことをよく示している。
低迷する女子プロレスの起爆剤に? 様々な議論を交わすのもプロレスの醍醐味
「これまでの、ももクロやAKBといったトップアイドルと女子レスラーの共演は、女子プロレスの認知拡大の起爆剤になり得ます。もちろん硬派なファンからは『プロレスをなめるな』の声はあるでしょうが、そもそも女子プロレスとアイドルは親和性が高く、これをきっかけに、新たなプロレスファンを獲得する大チャンスです」と同氏。また、『豆腐プロレス』のコーチ陣にはミラノコレクションAT、下田美馬の名があり、これにはプロレスファンも唸るしかない。異分子の流入を拒否するのではなく、異分子による“混乱”を含めて楽しみ、議論するのがプロレスの醍醐味と言える。
衣輪氏は最後に「大前提として、プロレスには危険性があるため、まずは安全面をしっかり担保する必要がある」と強調する。そして、安全面をクリアできれば、アイドル×プロレスの邂逅は、プロレスの魅力を新規ファンに伝える絶好のチャンスだとも。もちろん、アイドルファンたちにとっても、リング上で見せる推しの姿は普段決して見ることのできない貴重な姿のはず。複合的にも見ても、アイドル×プロレスは、他の競技ではなし得ない“幸福な関係”であると言えるだろう。