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“街紹介”にドラマ化の流れ 街の“細部”に宿る物語はドラマ向き?

  • ドラマ化されたマキヒロチ氏の漫画『吉祥寺だけが住みたい街ですか?』(講談社)

    ドラマ化されたマキヒロチ氏の漫画『吉祥寺だけが住みたい街ですか?』(講談社)

 先ごろ、「住んでみたい街ランキング【関西】」で王者・芦屋がトップから陥落したことがトピックスになったが、テレビ番組に目を向けると情報バラエティ『出没!アド街ック天国』(テレビ東京系)のほか、『ブラタモリ』(NHK総合)『モヤモヤさまぁ〜ず2』(テレ東系)『有吉くんの正直さんぽ』『もしもツアーズ』(共にフジテレビ系)といったブラ歩き散歩番組も好調で、ちまたの“街”への関心は高い。そんななか、今期の深夜枠では、毎話のドラマのなかであちこちの街を紹介していく『吉祥寺だけが住みたい街ですか?』(テレビ東京系)が登場。人々の生活の舞台となる街の細部を掘り下げていくと、そこにはさまざまな人間ドラマが見えてくる。前期の人気ドラマ『家売る女』(日本テレビ系)は家とそこに住む人の人生にフォーカスしていたが、街紹介にも“住む”を切り口にしたドラマ化という新たな波が来ているようだ。

“住むのに良い街”という切り口を持ったブラ歩き風シーンが特徴的

 『吉祥寺だけが住みたい街ですか?』はマキヒロチ氏の人気漫画が原作。現在も『ヤングマガジンサード』(講談社)にて連載中で、作品のメインとなる舞台は、都内・吉祥寺に店を構える重田不動産。「憧れの街・吉祥寺に住みたい」という夢を持って重田不動産を訪れる客に、店を切り盛りする双子の姉妹が「都内には吉祥寺以外にもあなたにふさわしい街がある」と半ば強引にその街へ連れ出し、ブラブラ歩きながらその魅力を語っていく。

 ドラマでは双子の妹・富子をお笑いトリオ・森三中の大島美幸、姉の都子をお笑いコンビ・メイプル超合金の安藤なつ。1話完結で引っ越しを考えている客役は、各話ゲスト出演者が演じており、同居していた彼と別れたばかり(第1話/出演・山田真歩)、会社内の問題(第2話/出演・趣里)、夢に挫折しかけた男(第3話/出演・忍成修吾)、離婚する女(第4話/出演・西田尚美)など、それぞれ人生における苦悩や転機を迎えている。そんな登場人物それぞれが生き方にあわせて紹介される街が、いわゆる“住みやすい街”として知られるような住宅街ではなく、雑司が谷、五反田、神楽坂、秋葉原など実は“住む場所”としても最適という意外性を打ち出しているところがポイントになっている。

「同ドラマでは、不動産屋の双子の姉妹がその客に合った街のさまざまなスポットを紹介して回るのですが、そこではいわゆる街紹介バラエティのノウハウや見せ方が活かされたロケが行われています。その街に実在する歴史ある寺院や古本屋、人気のたいやき屋やカレー屋だったりするのですが、出演者がお店の人にインタビューしたり、実際に食べてみたりと、そのシーンはブラ歩き散歩番組とそっくり。ですが奇をてらった感はまったくなく、“住むのに良い街”という切り口を持った、バラエティともドラマともつかぬユルい珍道中風で、ドラマを観た人に『こんな場所あったんだ』『このお店へ行ってみよう』と思わせてしまう同ジャンルの利点も健在です。同時に、世の中の一般的なイメージだけで“良い街”がランク付けされることへのアンチテーゼにもなっているように思います」(テレビ誌記者)

“住む街”を通して身近な物語として胸に迫るヒューマンドラマ

 話はやや逸れるが、前期には北川景子主演の『家売る女』(日本テレビ系)も放送された。これは不動産屋の型破りな腕利き営業ウーマンが主人公で、引っ越しを考えている家族の問題に土足で立ち入り、容赦なく関わりながらも顧客が“幸せに暮らす”ことを最優先にその人生観をも変えていく異色のドラマだった。しかし、夏クールの連続ドラマ初回視聴率第1位(12.4% ビデオリサーチ社調べ・関東地区)となり、平均視聴率は11.6%と好調で、第5回コンフィデンスアワード・ドラマ賞を受賞。多くの話題を集めるドラマとなっていた。

「『家売る女』がヒットしたのも俳優陣の魅力はもちろん、“住む”“引っ越し”を切り口に“人生”にフィーチャーした独特のヒューマンドラマに視聴者が共感したからではないでしょうか。お仕事ドラマでありながら、“住む家”を中心に市井の人々のさまざまな人間ドラマをメインに押し出したところが新しく、住む場所としての街や環境にもスポットライトをあてました。『吉祥寺〜』では、各話ゲストの切り取られた人生が語られますが、こちらもそれぞれが明日への希望を見つけていくカタルシスとともに、彼らのヒューマンドラマが“住む街”を通して身近なものとして胸に迫ってきます」

「そもそも街紹介系の番組は、ひとつの街を細部まで掘り下げますが、街の人気スポット、人気店、そこに住む人々にフォーカスを当てると、おのずとそこに息づく“人生の欠片たち”が浮かび上がってきます。そこには必ずなにかしらのドラマがあり、それは誰にとっても身近なものであり、観る人にとっての人生や街の再発見にも繋がっていきます。この作品を原作に選んだことや、“街”“住むこと”“人生”をテーマにこういった演出で魅せているのは、『アド街ック天国』を放送するテレビ東京の面目躍如といったところでしょうか。この街紹介ドラマをそのまま他局がマネすることはないと思いますが(笑)、より進化させた“街もの”ドラマが生まれてきたらおもしろいですよね」(同記者)

 人気のブラ歩きなど“街もの”番組がこれほどの需要を見せている昨今、“街”と“住むこと”、そこから“人生”にフィーチャーしてドラマとして見せる手法は今後、アレンジが加えられながらトレンドとなっていく可能性もあるのではないだろうか。同ドラマの第3話ラスト近くで、忍成修吾演じる客が「人生が停滞しているのは生活が停滞していたからなのかも」と自身の気づきをつぶやいているが、今現在、胸になんらかの傷や痛みを抱えている人たちがこのドラマを観ると、ステレオタイプの良いイメージの街とは無縁の“いち街”で、新たな1日を踏み出す勇気とその大切さを改めて考えるきっかけにもなりそうだ。
(文:衣輪晋一)

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