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月9、新たな“ブランド価値”の創造へ? ターゲットをティーン層へと本格移行
月9誕生。“軽チャー”路線で黄金期を築き上げる
はたしてこの方向性が大ヒットする。1991年の『東京ラブストーリー』をはじめとして、『101回目のプロポーズ』(1991年)『ロングバケーション』(1996年)『ビーチボーイズ』(1997年)など、今も“名作”と呼ばれる作品が次々と登場。『ひとつ屋根の下』(1993年)が最高視聴率37・8%を記録したほか、小田和正の「ラブ・ストーリーは突然に」(『東京ラブストーリー』)や、CHAGE and ASKAの「SAY YES」(『ひとつ屋根の下』)など主題歌もヒットし、『101回目〜』の武田鉄矢のセリフ「僕は死にましぇん!」や、『二十歳の約束』(1992年)の牧瀬里穂のセリフ「ヒューヒューだよ」といった流行語も数多く誕生。“社会現象を生み出す枠”といっても過言ではない存在にまで上り詰めた。
『HERO』の登場により、新たなステージへ
『HERO』は木村演じる破天荒な検事・久利生公平と、松たか子ふんするカタブツの担当事務官・雨宮舞子の恋と活躍を描いた群像ドラマ。視聴率が全話を通して30%超えをしたのはドラマ史上初で、2014年には第2シリーズも制作され、翌年の劇場版も成功を収めた。物語の中心には久利生と雨宮の恋愛が据えられていたものの、脇を固める阿部寛や小日向文世、角野卓造らが織りなす人間ドラマや群像劇が魅力の核で、前出のライターは「当時の月9で、若手よりベテラン俳優が多くを占め、さらにベテランが活躍する作品は珍しかった。本作のヒットにより、月9は単なる“王道の恋愛ドラマ”からの脱却、もしくは、本来あったおもしろいドラマへの回帰をはじめたのではないか」と分析する。
その後、福山雅治演じる偏屈な物理学者・湯川学が難事件を解決するミステリー『ガリレオ』(2007年〜)や、世にクラシックブームを巻き起こした上野樹里、玉木宏主演の青春ドラマ『のだめカンタービレ』(2006〜2008年)など、恋愛以外の要素に重きを置いたドラマが続々と放送される。また2009年には『君の瞳をタイホする!』以来、約22年ぶりの刑事ドラマとなる小栗旬、水嶋ヒロ出演『東京DOGS』が登場。2014年には同枠初の時代劇で小栗旬主演の『信長協奏曲』が放送されるなど、ジャンルに捕らわれないさまざまな試みがされるようになっていった。
フジプロデューサー「若者を標的にしないとドラマの未来はない」
「今年の月9はキャスティングも作品内容も本格的にティーン向けのドラマばかり。『好きな人がいること』プロデューサーの藤野良太氏も昨年、『若者を標的にしないとドラマの未来はない』と語っていますし、SNSとの連動などネット社会に対応する戦略にも積極的。迷いなく若者へ送り届けようとしています。同社社長の亀山千広氏が会見で、今年の7月期のドラマは『若者の心をつかむためすべて30代のプロデューサーにした』と話していましたが、これが狙いだったのでしょう。明らかに局をあげて、これまで“時代遅れ”と揶揄されることもあった同社の番組感覚を若返らせようとしているのが見て取れます」(同ライター)
シニア層を取り込まなければ視聴率が取れないと言われている昨今、ドラマの多くが主演を30代、40代に据え、物語も大人向けにシフトする流れではあるが、近年のヒットした邦画にはティーン向けのラブストーリーが多いことにも注目だ。また、そもそも若者たちの“ブランド”だったのが月9。数字を求める年配層向けのドラマが増えるなかで、テレビを観ないと言われる若者層を取り込む枠としての確立へ勝負をかけているとすれば意義のあることだ。現在の月9がそこをブレずに吹っ切って、新たな“ブランド化”を目指しているならば、今は数字だけでは測れない新たな“価値”を実らせていく過程にあるのかもしれない。その価値がこの先、なんらかの形で視聴者やスポンサーに認められるようになれば、今のドラマ企画、制作のあり方に一石を投じることになるかもしれない。
10月からは、Hey!Say!JUMPの山田涼介が主演を務める『カインとアベル』が放送される。ティーンから圧倒的な人気を誇る山田の投入が、月9の新たなブランド化の流れにどう影響を与えるのか見守っていきたい。
(文:衣輪晋一)