ドラマ&映画 カテゴリ
(更新: ORICON NEWS

『シン・ゴジラ』で開催した「発声型上映」 固定観念を覆す“映画の楽しみ方”

 映画監督の庵野秀明氏が総監督を務めた大ヒット映画『シン・ゴジラ』が先ごろ、声出しOK、コスプレOK、サイリウムOKの「全国一斉!発声可能上映」を全国25の劇場で開催。集った観客たちは遠慮なく興奮を表現&共有し、劇場は熱狂の渦に巻き込まれた。実は昨今、『シン・ゴジラ』に限らず、“映画は静かに鑑賞するもの”という固定観念を覆す動きが加速している。果たして、「発声型上映」は映画業界にどのような変化をもたらしていくのだろうか。

掛け声の所作も事前に紹介 “オフィシャル”をも巻き込んだ大きなうねりに

 「発声型上映」とはその言葉の通り、映画上映中に声を出してもよいとする特別な上映スタイル。今月15日以前の8月15日に開催された『シン・ゴジラ』発声型上映でも、ネタバレ的なツッコミ「行っちゃダメだ!」の声や、長谷川博己が演じた若き政務の官房副長官・矢口蘭堂らを応援する声、進化を続ける巨大生物・ゴジラの第二形態について「かわいい!」や「キモい!」などの声が会場を覆った。

 会場が一体となって興奮を分かち合える楽しさがネットや口コミで話題となり、同システムの「女性限定上映会」や前述の「全国一斉!発声可能上映」へと発展。「全国〜」開催前には「巨大不明生物映画のより楽しい鑑賞を目的とする発声可能を主軸とした作戦要項」と銘打った遊び心たっぷりの動画を、東宝の公式がネットにアップするなど、“オフィシャル”をも巻き込んだ大きなうねりとなった。ちなみにその動画では、上映開始時の「見せてもらおうか! 庵野秀明の実力とやらを!!」から、スクリーンに映し出されたロゴを叫ぶ「東宝!!」「映倫!!」までの流れのほか、セリフへの反応や掛け声の正式な“所作”も紹介されている。

SNSでの庵野監督が盟友に“粋な計らい” 感動と激情はネットを介して全国へと伝染

 そもそもこの流れは、大阪芸術大学時代に庵野監督と同級生だった漫画家・島本和彦氏が映画を観た感想として、SNS上で「庵野やめろ!オレより面白いものつくるんじゃねえ!!」などとアップしたのがはじまり。2万RTを超える反響を呼び、島本氏は8月に行われたコミックマーケットで『アンノ対ホノオ。』も発売。『シン・ゴジラ』を観てどう打ちのめされればよいのかの手ほどきが紹介されたこの同人誌は発売決定時から話題を呼び、これに庵野監督が呼応。監督自らが東宝にお願いをして「発声型上映」実現の流れとなった。庵野監督の粋な計らいに島本はSNSで「コレは…!! みんなで『アンノ対ホノオ。』の同人誌をテキストに『やめろ庵野〜〜!!!!』とひたすら叫んでひたすら崩れ落ちろと!?」と大興奮のレスポンス。島本氏の感動と激情はネットを介して全国へと伝染していった。

 「島本氏の自伝的漫画でアニメ化もされた『アオイホノオ』には庵野秀明がほぼ主人公扱いで登場するなど、島本氏がネタ的要素を踏まえながらも庵野監督をライバル視しているのは有名な話。こうした背景もあって2人のやり取りがネットで大きな話題となりました。東京だけでは終わらず全国にまで発展していったのもネットの“バズ”効果が無関係とは言えません。寧ろ、“ネット社会”の現代ならではの動きなのでしょう」(某映画ライター)

“個“から“集団“へ――。映画館の新たな楽しみ方が増加

  “映画館で声を出す”特別上映は『シン・ゴジラ』だけのものではない。例えば『アナと雪の女王』はみんなで歌を大合唱できる「Sing Along版上映」を開催。『貞子VS伽椰子』では、心置きなく叫べ、さらに貞子と伽椰子のどちらを応援してもよい「絶叫上映」が話題に。また『King of prism』でも、ヒロイン気分で掛け声や字幕の読み上げができる「応援上映」が行われ、そのどれもが好評を得ている。中には『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(15年)の絶叫可能以外に打楽器も持ち込める特別上映、インド映画を観ながら踊ることができる「マサラ上映」など、『シン・ゴジラ』のゴジラばりの進化を見せているものまである。

 「日本の映画ファンには、映画を“個”の楽しみとする考えはいまだ根強く、『発声型上映会』は“ネタバレ上等”な上、映画に集中したい人には不向きであることも事実。ですが、昨今、日本のエンタテインメントは“個”で楽しむCDなどの“ソフト”より、好きな人が“集団”で楽しむ、ライブのような“参加型”“体験型”にお金を払う流れに移行しているように見受けられます。この流れに乗れば、これまで映画館に足を運ばなかった新たな客層も呼び込めるはず。さらには『発声型上映会』は、そもそもがリピーターのための祭典ですから経済効果も見込めます。やがて1つのスタイルとして定着していくのではないでしょうか」(同ライター)

 一般社団法人の日本映画製作者連盟が公開したデータによれば、日本の映画館入場者数は58年の11.27億人をピークに急速に減少し、カラーテレビが普及した70年代以降横ばいに。だが97年の1.41億人を底として、わずかながらも持ち直しの動きを見せている。なかなかに苦しい状況だが、回復の兆しはあるということだ。映画『シン・ゴジラ』の主人公・矢口蘭堂のセリフに「この国はまだまだやれる」とあるが、同じように日本の映画館市場も「まだまだやれる」はず。中でもネットとも相性のよい「発声型上映」は、今後の映画界をさらに盛り上げるべく、大きな道しるべとなるかもしれない。

(文/衣輪晋一)

あなたにおすすめの記事

メニューを閉じる

 を検索