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大竹しのぶインタビュー『 “悪女”について思うこと…「愛情を表せないのは切ない」』

昔から何も考えていない感じに見られている(笑)

――エンディングで流れる主題歌「さよなら、またね。」でも、優しい歌声を披露されています。鶴橋監督が作詞を手がけられた歌の世界を、どのように感じましたか。
大竹しのぶ(小声で)最初はよくわからなくて。ふしぎな歌だなあって思っていたんですけど、歌っていくうちに、生きていくなかでどうしても忘れられない人を思って歌う歌なんだって気づいて。高齢者が小夜子のことを思って歌っているのか、小夜子が柏木のことを思って歌っているのか、いろいろな捉え方があるんでしょうけど。私は男の人が年を取って、あの子にもう1回会いたいなっていう、かわいくて切ない歌だなって思いました。

――主題歌が流れるなか、『タイタニック』(1997年)の名シーンを彷彿とさせるような、柏木と小夜子のラストシーンも印象的でした。
大竹しのぶ鶴橋さんが「ここで『タイタニック』をやってくれ!」って(笑)。「意味がわからないね」って言いながら、「じゃあ、やるか」ってふたりでやってみました。でも、やると気持ちよくて、楽しかった。
――鶴橋組はいつも、そういう和やかな雰囲気なんですか。
大竹しのぶ鶴橋組って、役者がみんな鶴橋さんを好きで集まってくる。今回も、豊川さんにしても、津川雅彦さんをはじめ被害者役の方たちにしても、鶴橋さんならと集まってきた人がたくさんいて。鶴橋さんの夢は、いつかそういう人たちを全員揃えて、作品を作ることだっておっしゃっていました。人が嫌いで好きっていう、気難しいところもあるんですけど、スタッフを含めて、とにかく人に気遣う方なので。

――大竹さんにとっても、スペシャルな?
大竹しのぶ今回は脚本に書かれている、鶴橋さんのイメージする小夜子を現場でやっていく感じでしたね。あまりああしよう、こうしようとか、細かくは考えずに演じていました。「考えなくていいよ」って、鶴橋さんにも言われていたし。でも昔から、そういう感じで見られているというのかな。「本当に何も考えてないなあ。それでいい! じゃあ、やってくれ!!」みたいな感じなんです(笑)。

ライトに笑いを入れたことで、より一層怖さを感じた

――あうんの境地なんですね。完成作は、どうご覧になりましたか。
大竹しのぶ鶴橋さん、76歳なんですけど、若いなって感じましたし、まだまだこれからだって思いました。すごくテンポがよくて、こういう映画が撮れる鶴橋さんがカッコいいなって。もちろん素敵なテレビドラマもたくさんお撮りになっていますけど、映画っていうのもひとつ意味があるのかなって。また「映像の鶴橋」って言われるように、これからもうひと花もふた花も、咲かせてほしいです。

――最初に「もっとドロドロしそうな話を、鶴橋さんのオシャレな感じで、シュールに」とおっしゃっていましたが、本作を拝見しながら、井上ひさしさんの「ひとはあらかじめその内側に、苦しみを備えて生まれ落ちる。苦しみはそのへんにゴロゴロと転がっている」「笑いは、ひとが自分の手でつくり出して、たがいに分け合い、持ち合うしかありません。もともとないものをつくるんですから、たいへんです」という言葉を思い出していました。大竹さんは、重たいテーマを描くとき、笑いは必要だと思われますか。
大竹しのぶチェーホフの生涯を描いた『ロマンス』という芝居のなかのセリフですね。でもそこは監督のセンスだと思います。この原作も、もっとドロドロとリアリティでやろうと思えば作れるわけだし。鶴橋さんみたいに、ライトな感じにして笑いを入れたことで、より一層怖い感じも出たとは思うんですけど。今回は、関西弁っていうのも大きな影響があったと思いますね。関西弁って笑いに変える力がある。リズムも含めて、関西弁の持つパワーって、すごいなって。私自身は、笑いも、リアリティのある怖さ、醜さだけっていうのも、両方好きですね。
――本作には、エンドロールが終わっても、最後まで席を立たずにぜひ聞いてほしい、小夜子のセリフがあります。笑いを誘いながらも、なんだか元気もくれるあの言葉は、どう受け止めましたか。
大竹しのぶあれも全部撮り終わって、何ヶ月も経ってから、アフレコのときに突然鶴橋さんに言われて(笑)。「こんなことでは屈しない。希望である」、そんな小夜子であってほしいと。だから「小夜子、あらわる!」って、怪獣みたいな感じで言いました(笑)。高齢の親御さんを持つ40、50代の方にぜひこの映画を観て、「小夜子が現れるかもしれない、気をつけなきゃ」って感じていただければ。
 親に面倒を見てもらって大きくなったんだけど、親の面倒を見るって精神的にも経済的にもけっこう大変なことだと思うんです。やっぱりみんなそれぞれに人生があるから。それを後妻業がやってくれるんだったら、それもありかな? なんて。殺しちゃいけないけど、いろいろ考えさせられるなと思いましたね。
 いまの高齢社会のなかで、幸せに年を取って死んでいける人って、一体どれくらいいるんだろうか? って。経済的な事情で特養に入れても、実はやりたくないかもしれないお遊戯とか折り紙とかして。“昔は楽しかったな”って思ってる人も、たくさんいるわけじゃないですか。本当に大きな問題だと思います。映画を観て笑った後、現実に戻ったときに、お金があったら後妻業もありかなって思ったりしちゃう。そこが、この映画の怖いところなんですよ(笑)。
(文:石村加奈/撮り下ろし写真:逢坂 聡)

後妻業の女

 「武内小夜子、63歳。好きなことは読書と夜空を見上げること。わたし、尽くすタイプやと思います」結婚相談所主催のパーティで可愛らしく自己紹介する小夜子(大竹しのぶ)の魅力に男たちはイチコロ。そのひとり、耕造(津川雅彦)と小夜子は惹かれあい、結婚する。幸せな夫婦生活を送っていたが、2年後、耕造は亡くなり、葬式の場で小夜子は耕造の娘・朋美(尾野真千子)と尚子(長谷川京子)に遺言公正証書を突き付け、小夜子が全財産を相続する事実を言い渡す。納得の行かない朋美が調査をすると、衝撃の事実が発覚。小夜子は、後妻に入り財産を奪う“後妻業の女”だったのだ。その背後には結婚相談所・所長の柏木(豊川悦司)がいた。

監督:鶴橋康夫
出演:大竹しのぶ 豊川悦司 尾野真千子 長谷川京子 水川あさみ
2016年8月27日(土)公開
(C)2016「後妻業の女」製作委員会
【公式サイト】(外部サイト)

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