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アメリカの世相を反映しながら現代ヒーロー対決の新形態を示した『シビル・ウォー』

 ヒーロー同士の対決映画は、これまでに日本にも多くあった。近年の誰もが知るヒーロー対決としては『ウルトラマンVS仮面ライダー』『平成ライダー対昭和ライダー 仮面ライダー大戦』などが挙げられるだろう。それらは、対決とは銘打ちながらも、より強大な共通の敵が現れ、一致団結して立ち向かうというストーリー展開がお約束。どちらのファンも納得する、いわばヒーロー祭りだ。そんななか、マーベルのアメコミ映画であるハリウッド大作『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』では、アベンジャーズのヒーロー同士が信念や思想の違いからふたつに別れて、真に戦わなければならない状況に陥る物語を描いた。善と悪の対決ではなく、どちらもそれぞれの善を掲げた戦いであるというストーリー設定、ガチの対決シーン、決別したままのラストという、これまでにない現代のヒーロー対決の新たな形を提示した。そこには、現在のアメリカ社会の世相も反映されているようだ。

今のアメリカ社会における信念や思想のぶつかり合い

 9.11同時多発テロ以降に製作されたハリウッドのアクション映画の多くには、テロの脅威や不安定な国際情勢、それに対する米国の立ち位置に関するメッセージが込められている。『シビル・ウォー』も例外ではなく、その物語は世界各地で起きるテロと、ヒーロー集団・アベンジャーズの“正義”によって傷つく人々のパラレル描写から始まる。

 悪を倒すべく行使した超能力によって無実の人々を巻き込み、自分たちへの反抗心から新たなテロが生み出されていることに気づくアベンジャーズたち。自分たちの活動に何らかの統制が必要だと考えるアイアンマンと、何にも支配されることなく正義を貫くことを主張するキャプテン・アメリカが袂を分かつと、それぞれ似た信念を持ったヒーローたちが歩み寄り、党を組み始めるのだ。

 こうした信念や思想のぶつかり合いによる党形成の動きは、今のアメリカの世相を反映しているとも言える。とくに今年11月の米大統領選挙に向け、国境強化、不法移民抑止、強気な貿易をアピールするドナルド・トランプ氏が、支持派とアンチ派を同時に増やしていることは、アメリカ国民が自国と世界の平和に対する意識において、主張を分けていることを示している。もちろん、アベンジャーズにおいても大統領選においても、主張はきれいに二分されているわけではなく、それぞれの党のなかに、急進派、温和派、中立派、沈黙派……といった人々(ヒーローたち)が存在するのだ。

映画に映し出された、解決策や妥協策が見出しにくい世界の対決構図

 数々の批評家が同作と大統領選を関連付けてコメントするなか、深夜トーク番組の司会者でありコメディアンのジミー・キメルは、大統領選をパロディ化した『シビル・ウォー』のトレーラーを紹介。アイアンマンに扮したトランプ氏と、キャプテン・アメリカに扮した民主党候補のバーニー・サンダース氏が主張をぶつけ合い、いざ対決するというところで、ブラック・ウィドウに扮したヒラリー・クリントン氏が飛び込んでくるという作りが視聴者のツボを突いた。

同作は、こうした社会情勢とのつながりによって、アクション好きな映画ファン以外の幅広い層の関心と共感を集めた。ちなみに米最大級のレビューサイト『ロッテン・トマト』では100点中90点、『シネマスコア』ではA評価を獲得。作品のヒットとともにその内容も高く評価されている。

 また、インディペンデント映画情報サイト『インディ・ワイヤー』のデイヴィッド・エールリヒ氏は、同作に登場する悪役が、超能力を持った重武装の強大な敵でなく、いたって普通の男であることに着目。その男の根回しによって、ヒーロー同士をガチ対決させるという仕組みにも新しさを見出している。敵だと思い込んでいる相手は、本当の問題なのか? 今のアメリカ、そして世界に、善悪の境界線というものはあるのか? 双方にそれぞれの正義があるとしたら? 『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』は、解決策や妥協策が見出しにくい今の世界における、新しいヒーロー映画の対決のあり方を示したと言えるかもしれない。
(文:編集部、町田雪)

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