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竹中直人が語る役者論「まずは最初の“観客”であるスタッフを楽しませること」

 1980年代にコメディアンとしてブレイクし、現在は時代を代表する名俳優として、数々の映画、ドラマ、舞台で活躍する竹中直人。ORICON STYLEでは、倉持裕氏書き下ろし、生瀬勝久とのW主演となる舞台『ブロッケンの妖怪』を控える竹中に、インタビュー取材を実施した。コメディからシリアスまで幅広い演技をこなす俳優としての一面がある一方、バラエティ番組などではいつも明るい表情で楽しませてくれるイメージが強い竹中。しかし、その口から出てきたのは、「常に不安を感じている」といった、意外にもネガティブなワードの数々だった。

観客は残酷。舞台は直に反応が返ってくるので怖い

――舞台『ブロッケンの妖怪』は、笑いと怪奇が入り混じるホラーコメディですが、そのほかに魅力を感じた要素はありますか。
竹中直人 僕の大好きな倉持裕さんの新作書き下ろしの舞台なので、そこが魅力ですね。まだ全部は読めていないんですけど、全4場劇で、どういう話になるのか。よくこんな本書くよなって、毎回楽しみにしています。僕にとってはわかりやすい話よりも、そう簡単にはわからない話のほうが好きなんですよね。

――それは実際に役柄を演じてみないと最終的に作品世界はわからない、という一般論的な意味もありますか。
竹中 いや、僕は演じていても役柄をわかったことが一度もないので、いつもわからないままセリフを言っています。役柄のことをわかってセリフを言っている役者さんを見ると、ちょっと信じられない。「僕はセリフなんてわかんない」っていつも言っています(笑)。それに舞台は直に観客の反応が返ってくるので怖いですよ。観客は残酷なので、怖いです。すごい怖いから、嫌いですもん(笑)。いつもドキドキしています。

――竹中さんはコメディアン発俳優のさきがけ的存在でもありますよね。俳優としての成功にいたるまでに、葛藤のようなものはあったのでしょうか。
竹中 僕は劇団にいましたから、基本は芝居なんですけどね。日本だとお笑いでデビューしちゃうと、そうレッテルを貼られてしまうので仕方ないんですけど。自分の中では、お笑いにしても、役者にしても、区別はないですから。どうしても肩書き的に、そういうことになる。それはしょうがないんですけど。(俳優は)違う人格になれる、っていうことにすごく憧れがあって、まずは芝居がやりたかったので、多摩美を卒業した後、青年座に入ったんです。でも、これだけでは一生食っていけないなと思って、自分で売り込み活動を始めたんですけどね。そうしたら、27歳の時にテレビ朝日の『テレビ演芸』に出てみないかと、人力舎の玉川さん(故・善治さん)から声をかけていただいて、そこから風呂付のアパートにも住めるようになって、生活できるようになりましたね。

――当時から観客は怖かったのでしょうか?
竹中 (爆笑している客を見て)何でそんなにおかしいんだろうというのは思っていました。ある程度人気が出てきたときに、作家の宮沢章夫とラジカル・ガジベリビンバ・システムというユニットを作ったんですけど、だんだんお客さんが増えていくことがすごく嫌だったんですよ。みんなゲラゲラ笑う。でも絶対、この人たちはいつか笑わなくなるって思っていました。今笑わせていることよりも、ある時期を境に笑わなくなるんだろうなという想いが先に立ってしまって。この人たちはずっといてくれる人ではない、と感じちゃうんですよ。

――でも、ラジカルなどは笑わそうとしているわけで、笑ってくれてナンボなわけですよね?
竹中 僕は笑わせようっていうよりも、自分が面白いと思うことが一番なんです。だから、お客さんが笑うと嫌で、舞台に立っている人たちを笑わせていました。笑わせて次のセリフ言わせないぞと思って、客席に背を向けていたりしましたもん。なんかお客さんが怖かったんですよ。真剣に見ている人たちも、いつか「こんなこともあったよね」って忘れ去られていくんだろうなって、どうしても思っちゃう。だから僕はまず、仲間に意識を向けるんです。この人たちと何を作れるか。それをたまたま、観客が観に来ているという感覚。観客よりも、そこに集まっている人たちに向けて作品を作ろう、それが原動力でしたね。

自分みたいな役者いなくなったって誰も困らない

――ではお笑いの舞台、芝居の舞台って違いはあるんですか?
竹中 笑いの舞台、シリアスな舞台と自分の中でわけてやったことがないので、その感覚は、そもそもわからないですね。予算の少ない多いという現場の違いはありますけど、これはこう、こっちはこうみたいな、区別した感覚がないので、みんな一緒でしたよ。今だに自分でも「オレ、役者なのかな?」って思うこともありますしね。何なんだろうって。

――でも、世間では名優と言われていますよね。
竹中 やめてください(照)。俳優っていうのは憧れだったんですけど、本当に俳優なのかなって。字がかっこいいですよね、俳優って。自分の職業欄に『俳優』と書く時に恥ずかしいんですよ。自分に対して「お前、俳優かよ。たいしたこともしてないのに」って思っちゃって(笑)。

――“竹中直人”とは何者かって考えたことはありますか?
竹中 わからないですね。興味がない人にとっては、何でもないことじゃないですか。「あぁ、あの人、わたしあまり好きじゃない」で終わりの人もいるでしょうし(笑)、「あの人、映画撮ったんだ? でも日本映画観ないから」と言われれば、それまでじゃないですか。「今回、『ブロッケンの妖怪』という舞台やるんだよ」って言っても、もちろん観ない人もいる。そんなもんでしかないだろうってのは、ありますよね。そういう仕事でしかないって、いつも思っていますよ。だから何者かなんて、そんな偉そうなこと言えないです。それは、他人が決めるような気がしますね。自分がこうであるなんて、思って生きられないですからね。

――不安のようなものは今でも常に感じられているのでしょうか?
竹中 それは常にあるんじゃないですか。自分みたいな役者いなくなったって、誰も困らないだろうって思いは常にありますし、フッと消えたってほかに俳優はたくさんいるじゃないですか。だから、必要ないって言えば必要ないなと思います。今は仕事があるからいいけど、そういう不安は、いつもありますよね。27歳の時は確実に1年で消えると思っていましたから。ここまでなんでやってこられたんだろうって、不思議な感じですよ。びっくりします。自分で分析もできないです。何やってきたんだろう? どんな仕事してきたんだろう? って思って。特に代表作もないし、不思議ですよね。

――出会いを大事にされているということもあるのでしょうか。
竹中 そうですね。その人とやると決めたら、一途にやることが大事です。倉持さんって決めたら、あの役者もこの演出家も……という感じでやりたくない。一筋でやりたいという想いが自分の中にあるんです。自分の立ち位置とかも考えたことがないですよ。かろうじて生きているんで、このまま仕事がなくならなければいいなぁくらいのことを思ってますね。

人を馬鹿にして笑うような構造はダメだと思う

――最近は今の世の中で若い人たちがテレビを見ない、と言われていますが…。
竹中 若い人たちのことはわからないですね。世の中を見渡すことなんてできない。狭い枠で生きるっていうか。

――社会との接点を感じる瞬間ってありますか?
竹中 テレビとかワイドショーを見ていると、すごい下世話だなって思うことがあります。こんなことがおかしいんだな、ダメだなこれって。俺、こういうの面白いと思わないなって。やっぱり人を馬鹿にして笑うような構造っていうのはダメだと思うんです。そういうのが、電車に乗って人と接した時に象徴して出てくるのが自分にとっての社会。「お前、誰だっけ? この前テレビ出てたよな」とか平気で言われるんですよ。これが世の中かって…優しい人にだけ会っていたいです(笑)。

――でもやはり今の竹中さんは世の中の人から素晴らしい役者というイメージを持たれていると思います。竹中さんにとって演じることとは?
竹中 さっきも言いましたが、僕はお客さんを楽しませようとか、そういうおこがましいことを思ったことはないんです。まずは最初の観客はスタッフで、その中には笑っている人もいれば、すました人もいる。そんなものだと思ってやってますよ。それで視聴率が取れればよかった、取れなかったらガッカリする。観客が入った、入らなかった。その繰り返しです。でも、その最初の“観客”であるスタッフって、一番生で感じているものなんです。「あいつ、すごい一生懸命やっている」とか「適当な奴だな」とか、わかりますからね。だから、そういう人たちの反応が、自分のエネルギーになってくんでしょうね。それを感じて動いていく。その時代を見ているとかではないんですね。僕にとっての役者って、そういうことだと思いますけどね。

(文/鴇田 崇 写真/西田周平)

竹中直人×生瀬勝久 舞台『ブロッケンの妖怪』

『ブロッケンの妖怪』
作・演出:倉持裕
出演:竹中直人,生瀬勝久
佐々木希,大貫勇輔,安藤聖,田口浩正,高橋惠子

屈指の超個性派俳優であり、クリエイターでもある竹中直人と生瀬勝久が舞台で激突する「竹生企画」第2弾作品。作・演出:倉持裕による“ホラーコメディ”となっている。舞台は絵本作家の打越(竹中直人)と担当編集者の黒瀬(生瀬勝久)、そして打越の恋人・桃(安藤聖)が取材で訪れた小さな孤島の洋館。“ブロッケン現象”で霧に映った洋館の影が日に日に大きくなっていることに気付いた彼らは……

<東京公演>
2015年10月30日(金)〜11月1日(日) シアター1010
2015年11月12日(水)〜29日(日) シアタークリエ

<広島公演>2015年11月3日(火・祝) 上野学園ホール
<大阪公演>2015年11月5日(木)〜8日(日) サンケイホールブリーゼ
<静岡公演>2015年11月9日(月) 富士ロゼシアター
<名古屋公演>2015年12月1日(火) 中日劇場
<福岡公演>2015年12月3日(火) 福岡市民会館
<鹿児島公演>2015年12月5日(土) 宝山ホール(鹿児島県文化センター)
<鳥取公演>2015年12月6日(日) 鳥取県立倉吉未来中心 大ホール
<新潟公演>2015年12月8日(火) りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館 劇場
<岩手公演>2015年12月10日(木) 岩手県民会館
<栃木公演>2015年12月12日(土) 足利市民会館 大ホール

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