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(更新: ORICON NEWS

“憑依”を超え役ごとに“転生”、山田孝之が重宝されるワケ

 ドキュメンタリードラマ『山田孝之の東京都北区赤羽』(テレビ東京系)や『PlayStation4』のCMでも本人役で出演し、話題を呼んでいる俳優の山田孝之。正統派のイケメン俳優枠でデビュー後、数多くの作品に出演、勇者から殺人鬼まで、どんな役も演じきり確固たる地位を築いてきた。多くのクリエイターからの熱烈なオファーが届く彼は、なぜこんなにも重宝され、視聴者の心を掴むのか? 若手俳優の中でも異彩を放つ山田孝之という稀有な役者について改めて考えてみた。

脱“爽やかイケメン”で、クリエイターらの支持を獲得

  • 写真:逢阪 聡

    写真:逢阪 聡

 山田は15歳のときに、姉の買い物に付き合わされた原宿ラフォーレ前でスカウト。女の子と間違われるようなきれいな顔立ちの美少年で、『六番目の小夜子』(NHK)で鈴木杏、栗山千明と並ぶメインの男子生徒役で連ドラ初レギュラーなど、アイドル俳優として売り出された。20代半ばまでは初主演作の『WATER BOYS』(フジテレビ系)から『世界の中心で、愛をさけぶ』『白夜行』(いずれもTBS系)などプライムタイムの連ドラに相次ぎ主演して、華やかに活躍、さわやかな少年の役がハマっていた。映画では、『ドラゴンヘッド』で狂気を帯びる役に挑んだりもしていたが、『電車男』で彼女いない歴=年齢のオタクを演じた際には「外見がカッコ良すぎてイメージと違う」との声も多く、ドラマ版の伊藤淳史ほどには印象を残していない。

 しかし、24歳のときに公開された映画『クローズZERO』では、うっすらヒゲを伸ばして軍団の頭を張るヤンキーを演じ、ワイルドさを見せる。以降は出演作を自分で台本を読んで決めるようになったそうで、ドラマから映画中心にシフトチェンジ。同時に役幅も広げ、深夜枠で4年ぶりに主演したドラマ『闇金ウシジマくん』(TBS系)では、アゴヒゲに丸メガネで冷酷な主人公を演じ、久しぶりにテレビで彼を観た視聴者を驚かせた。

 アイドル的イメージを覆した彼に、多くのクリエイターからオファーが相次いだ。『33分探偵』(フジテレビ系)や後の『コドモ警察』などで注目された福田雄一氏の初監督映画『大洗にも星はふるなり』に主演。その後、低予算を逆手に取った手作り感で笑いを誘った深夜ドラマ『勇者ヨシヒコ』シリーズ(テレビ東京系)でもタッグを組んでいる。マネキンを使ったドラマ『オー!マイキー』(テレビ東京系)が人気を博した石橋義正監督のファンタジックな映画『ミロクローゼ』では、金髪おかっぱ頭の外国人など1人3役で主演。自ら望んで出たシュールなコメディ『荒川アンダーザブリッジ』の飯塚健監督とは、携帯配信ドラマ『REPLAY&DESTROY』で主演を務める関係に。この作品は一部で話題を呼びつつDVD化されなかったが、山田が飯塚監督と共に発起人になってスタッフとキャストを巻き込み、テレビ局にドラマ化を提案。この4月からTBS系での放送にこぎつけた。

規模や放送枠に拘らず内容重視の姿勢に共感

 一方、『凶悪』『MONSTERZ』などメジャー映画にも主演。お茶の間では『ジョージア』CMで海の家従業員、銀行員、営業マン、大工などをコミカルに演じたのが評判に。現在は『PlayStation4』のCMにも本人役で出演し、大作ゲームやりたさで仕事を断ったりして笑わせる。また、どこまで素で演技なのか混沌とした、連続ドラマでは斬新な手法で話題となった『山田孝之の東京都北区赤羽』での虚実の境い目が判然としない生々しさは、演技自体がリアルな山田だからこそ生まれた空気感に思える。『勇者ヨシヒコ』シリーズの浅野太プロデューサーは「山田くんは『こういう役者になりたいという目標を持ちたくない』と言っています。作品のなかでいろいろな人間になりたいから色を付けたくないと。それを実践していますよね。作品によって見え方、持っているものが全部違って見える」と話していた。近年の主演作でも、『勇者ヨシヒコ』のバカ正直で単純な勇者、『凶悪』での強い正義感が行き過ぎる雑誌記者、『闇金ウシジマくん』の非情で不気味なヤミ金社長など、まったくベクトルの違う存在感を放っていた。CMでの印象もまた全然違う。

 そんな山田はどんな役にもなり切る“カメレオン俳優”と呼ばれるひとりだが、他の俳優と違うのは、自身の出自さえ消してしまっているところ。アイドルや舞台、芸人出身など俳優にはそれぞれルーツがあり、年齢を重ねて演技者のオーラをまとっても、どこか“お里”の匂いが出るものだが、今の山田孝之からはアイドル俳優の痕跡を不思議なほど感じない。これはヒゲのある・なしの違いだけではないだろう。知識として彼の過去を知らなければ、何者なのか想像しにくい。

 カメレオン俳優というと役に“憑依”するイメージだが、彼は1つひとつの役ごとに“転生”までしている印象がある。インタビューで「撮影に入ったら自分をすべて否定します。役の人生を全うしなければ気が済まない」と語っていたこともあった。その積み重ねから演技上では自らの過去がゼロに清算されたのだろうか。

 それだけにシリアスからコメディまでどんな役にも対応できるし、作品ごとに違う扉が開く。先鋭的なクリエイターは往々にして「有名でも手垢のついた俳優より、まっさらな新人を使いたい」という意向を持つが、山田孝之は有名で演技力もあるうえ、作品ごとに過去の自分をリセットして臨む点では、ある意味新人のようにまっさら。キャスティングしたくなるのも当然か。しかも、自身が作品の規模や放送枠にこだわらず出演を決めていて、『北区赤羽』のような深夜の実験作も面白がってくれる。結果、視聴者も山田孝之に飽きることがない。彼のファンでなくても、出演した作品が心に残っていることは多いのではないだろうか。

(文:斉藤貴志)

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