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木彫り熊、SNS時代に再注目 “鮭をくわえた”イメージ覆す多様な熊に若者たちも反応

 昨年、開拓150周年を迎え、NHK連続テレビ小説「なつぞら」の舞台になったり、SPドラマが放送されたりと、今年何かと注目を浴びた北海道。その雄大な自然やグルメなどにもスポットが当たる一方で、かつて北海道土産として一世を風靡した「木彫り熊」も密かに話題となった。昭和30年代に訪れた“北海道ブーム”により、北海道土産の定番品として人気を集めたが、そこをピークに生産・購買量は徐々に減少。ここしばらくは、ある意味“絶滅危惧種”のような存在だった。しかし、SNS時代を迎え、その魅力が再発見されている。

大正末期にスイスから伝来、鮭は“くわえる”より“背負う”ほうが一般的だった!?

 そもそも、北海道の土産品としての木彫り熊発祥の地は、北海道八雲町。明治期、尾張徳川家の旧臣たちが入植した八雲町の冬場は寒さが厳しく、農閑期、農民たちは仕事的にも文化的にも過酷な時間を過ごしていたという。そんな時、尾張徳川家の19代当主・徳川義親が、農民たちの冬場の副業として、また生活文化を豊かにしたいという願いから大正末期、スイスでペザントアートとして浸透していた木彫り熊をこの地に伝えた。以降、八雲町の“名産品”として産業化され、ほぼ同時期に北海道の旭川でも、土産品として木彫り熊を彫る動きが広まっていった。
 北海道の木彫り熊と聞いてイメージされるのは、きっと「鮭をくわえた」勇ましい熊の姿だろう。しかし、多くの人が連想するそれは、主に北海道ブーム以降に機械などで大量生産されたもの(もちろん、作家が手作りしたものもある)。戦後しばらくまでは、それぞれの地域で作家性あふれる木彫り熊が作られていたという。

「鮭は“くわえる”よりも、“背負う”ほうが一般的だったんですよ」と話すのは、フリーの編集者で、木彫り熊の魅力を発信する活動を行う「東京903(くまさん)会」の代表・安藤夏樹氏だ。「スイスの木彫り熊の特徴の1つに、“擬人化”が挙げられます。八雲の熊は当初、スイスの熊を模倣して作られていたので、擬人化熊も多く彫られました。その流れから、鮭を背負っているスタイルは早い段階でありました。ちなみに、誰が熊に鮭をくわえさせたのかをはっきり示す資料は、現時点では見つかっていません」(安藤氏)
 それぞれの地域ごと、また作家ごとに特徴やスタイルがあるため一概に言い切ることはできないが、スイスを模倣し主に飼われている熊がモデルになっている八雲の木彫り熊は、どちらかというと優しい表情のもの。旭川の木彫り熊は、アイヌの人々が中心となって制作していたため、どちらかというと野性味のあるものが戦前は多く見られていたようだ。また、木彫り熊というと置物のイメージが強いが、ネクタイ掛けやペン立て、時計、ペーパーナイフなど、生活に役立つアイテムも戦前から作られていたという。

木彫り熊の展示イベントには、30〜40代が多く来場

 安藤氏が木彫り熊に興味を持ったのは約5年前。とある作品をきっかけに、その歴史を“掘れば掘るほど”その奥深い木彫り熊の魅力に惹きつけられ、東京903会を設立。Instagramでその魅力を発信しているほか、今年8月には数年にわたり取材を重ね完成させた『熊彫図鑑』を出版し、発売を記念して展示イベント『東京で、熊さんかい? by 東京903会』を東京・目黒区のCLASKA Gallery & Shop "DO" 本店で開催した。安藤氏が木彫り熊の“沼”にハマったように、今、木彫り熊に興味を持つ人がじわりと増えており、前出の展示イベントには8月10日〜9月8日の会期中、8000人以上もの人が来場した。
「少しずつですが、木彫り熊の魅力が再発見されている状況は嬉しいですね。そのきっかけとしては、やはりSNSの影響は非常に大きいと思います。形や表情など本当にさまざまな作品があるので、SNSでシェアされる画像を通して『こんなタイプの木彫り熊もあるんだ!』と関心を持つ方が多いのだと思います。ちなみに、感覚的なものではありますが、展示イベントの来場者は30〜40代の方が多かった印象です。もちろん、もっと若い方や高齢層の方もいらっしゃいましたよ」(安藤氏)

クリエーターが語る、北海道の木彫り熊の魅力「自分の好きな熊を探すこと」

 産業の衰退から、現在木彫り熊を制作するクリエーターの数は残念ながら少ない。しかし、その魅力に魅せられ木彫り熊を手がける気鋭のクリエーターもいる。その1人が、北海道の十勝・鹿追町で夫婦揃ってアトリエ『page』を営む高野夕輝氏だ。元々、家具作りを行っていた高野氏だが、3年程前に趣味で集めていた木彫り熊を自身で彫ってみたのがことの始まり。その熊をホームページに載せたところ、某ホテルから宿泊棟のキーホルダーとして作って欲しいとの依頼を受け、そこから本格的に木彫り熊にのめり込んでいったという。
「木彫り熊の中でも、特に発祥の地と呼ばれる北海道八雲町で彫られたものに惹かれているのですが、彫り手の優しさや誠実さが伝わってくるような造形はもちろん、100年近く前、寒さ厳しい北海道の農村生活の中で、農閑期の副業にと熊彫りを推奨した農場領主の思いやりや、そのような生活においても『芸術とは?』と問い続けた農民たちの心意気には胸を打たれます」(高野氏)

 自身も木彫り熊を制作するようになって、クリエーターとしてどこに魅力を感じているのかを尋ねてみると「自分の好きな熊を探すこと」と高野氏。「木彫り熊には、繊細な毛並みで一瞬の動きをとらえたものから、ゴロンとしたカタマリのように見えるものまで、大勢の作家があらゆる表現で制作しています。そのなかで独自の造形を見つけるのは非常に難しいのですが、さまざまな表現で作られているということが、『北海道の木彫り熊』は決まった『型』よりも大事にしていることがあるよ、と示してくれているような気がしますし、それを探し出すことに面白さを感じています。北海道の木彫り熊には、とても魅力的な熊がたくさんありますので、まずはそんな熊たちをどこかで目にしていただけたらと思います。びっくりしますよー」(高野氏)
 安藤氏や高野氏が話すように、北海道の木彫り熊は実に創造性豊か。それらはインテリアとして飾るととてもオシャレで、部屋が“映える”。八雲の木彫り熊の第1号が生まれて、2024年に100周年を迎える。安藤氏は、「そもそも、北海道のカルチャー自体、地元の人以外にはあまり知られてはいないような面白いものが多いんですよ。2024年に向けては、八雲を“木彫り熊の情報発信地”として盛り上げるお手伝いができればいいなと。そうすることで、木彫り熊の文化を守り、魅力を伝えていくことができるのではないかと思います」と語る。SNS時代、木彫り熊の新たなムーブメントが生まれるかもしれない。

提供元: コンフィデンス

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