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伊藤智彦監督×武井克弘P対談 映像と音楽を一体にする『HELLO WORLD』2027Soundプロジェクト

視覚と聴覚情報が異なるほうがシーンに奥行きが生まれる

──OKAMOTO'Sはどのような発想で7アーティストをチョイスされたのでしょうか?
武井克弘ジャンルを超えて幅広い交流がある方たちで、まさにOKAMOTO'Sがこの作品のために合うアーティストに声をかけてくれたわけです。我々からしても、その人選は非常に的確でした。僕らは音楽の専門ではないので、その後は彼らのセンスに委ねた部分は大きかったです。

──本作では映画のエンドロールで流れる「新世界」のほか、劇中で流れるOfficial髭男dismの「イエスタデイ」、Nulbarichの「Lost Game」も主題歌としてクレジットされています。
武井克弘OKAMOTO'Sさんを含めたディスカッションのなかで決まりました。すでに音楽がかかるシーンは決まっていて、Official髭男dismさんは「時代を代表するポップスのメロディメーカー」、Nulbarichさんは「洋画的なテイストにハマるアーティスト」をイメージしています、というお話をして挙がった2組でした。

──2組にはどのように楽曲をオーダーをされたのでしょうか?
武井克弘まず大前提として、「映画抜きに聴ける曲にしてください」というリクエストをしました。つまりシーンをトレースするような歌詞にはしないでくださいと。もちろんシーンに寄り添ってはもらいたいんですが、多少距離を置いてもらいたいというか……。
伊藤智彦ようは画面のなかのキャラクターの行動と、歌詞の内容が同じになるのは避けたかったんです。これはあくまで感覚的な話なんですが、視覚情報と聴覚情報がかぶると妙にベタッとしてしまう。それよりも、なんとなくリンクしているんだけど違うことを歌っていたほうがシーンにも奥行きが出て、表現として豊かになる気がするんです。
武井克弘 微妙なさじ加減の難しいオーダーでしたが、両アーティストとも見事に応えてくれました。おそらく普段のご自身の楽曲制作と近い感覚で作っていただけたのかなと。

──アーティストさんにとって劇伴の制作は「普段の楽曲制作」とはまったく違うものだったと思います。どのようなオーダーをされたのでしょうか?
伊藤智彦まずは通常、劇伴作家さんにお願いする際と同様に、シーンと尺を提示してここにハマる音楽を作ってください、というオーダーをしました。ただ、かなり早めにオーダーしているんです。アーティストさんにとっては慣れないクリエイティブをお願いしているわけですし、また我々としても正直どんな仕上がりになるか未知数だったので、余剰期間は必要だろうと。実際、一度上がってきた音をシーンにハメてみて、「ここはもうちょっと盛り上がりがほしい」といったお戻しをさせてもらったこともありました。たゆまぬトライ&エラーをしてくれた彼らには感謝しかありません。

──武井さんがねらっていたように、音が画作りに影響したことも?
伊藤智彦それは大いにありました。実際、上がってきた音があまりにもよかったので、音に合わせて尺を伸ばしたシーンはいくつもあります。俺としては初めての経験でした。劇伴作家さんであれば、こちらの意図通りの音を作ってくれるんです。だけどそれが正解とは言い切れない。ようは、音の側面からシーンを検証することができたのが今回はとても新鮮でした。
武井克弘まさに当初、想定していた「映像と音楽が一体となった盛り上がり」が作れたのではないかと自負してます。最近の映画館って音響設備が充実していますし、実は音楽を聴くのにもすごくリッチな環境なんです。Yaffleさんが作ってくれたダブステップっぽい劇伴なんてとくにそうで、映画館がクラブになるような感覚を味わってもらえるのではないかと思います。それこそ音楽ファンが音楽を楽しみに映画を観に来るような状況を作れたら、映画会社の人間としてはうれしい。そういうねらいも2027Soundにはありました。

──本作で得た知見を今後どのように活かしていきたいとお考えですか?
武井克弘まったく同じ手法はそう簡単にはできないと思います。結果的にかなりのドリームチームになりましたから。ただ作品と企画性にしっかり向き合って、劇伴の作り方そのものを新しく考え直すという経験は、今後確実に活きてくると思います。音楽が映画にもたらす影響の大きさを、今回改めて実感できました。やはり映画制作において、音楽は早めにあったほうがいい。たとえラフでも、映画の企画段階で音楽があったら、また新しいことができるという気もしているんです。そういう意味では、音楽業界とももっと交わりたい。仲間探しをしたいですね。
(文/児玉澄子)
伊藤智彦監督
PROFILE/いとう ともひこ
アニメーション演出家、映画監督
細田守監督『時をかける少女』(06年)『サマーウォーズ』(09年)で助監督を務めたのち、『世紀末オカルト学院』(10年)で監督デビュー。『魔法少女まどか☆マギカ』(11年)『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(11年)で絵コンテ・演出を手がけ、監督第2作目となる『ソードアート・オンライン』(12年)は大ヒット後、シリーズ化。劇場初監督作品『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール』(17年)が興収25億円(全世界43億円)の大ヒットを記録している。
武井克弘プロデューサー
PROFILE/たけい かつひろ
東宝 映像事業部
1984年7月9日生まれ。東京都出身。2009年、東宝入社。2013年より映像事業部アニメ事業室(現・映像事業部映像企画室)に所属。『アオハライド』(14年放送)プロデューサー、『干物妹!うまるちゃん』(15年放送)プロデューサー、『君の名は。』(16年公開)プロデューサー、『リトルウィッチアカデミア』(17年放送)プロデューサー、『宝石の国』(17年放送)プロデューサー、『ペンギン・ハイウェイ』プロデューサー(18年公開)、『HELLO WORLD』企画・プロデュース(19年公開)などを担当。

『HELLO WORLD』

 京都に暮らす内気な男子高校生・直実(北村匠海)の前に、10年後の未来から来た自分を名乗る青年・ナオミ(松坂桃李)が突然現れる。ナオミによれば、同級生の瑠璃(浜辺美波)は直実と結ばれるが、その後事故によって命を落としてしまうという。彼女を救うため、大人になった自分自身を「先生」と呼ぶ、奇妙なバディが誕生する。しかし、そのなかで直実は、瑠璃に迫る運命、ナオミの真の目的、そしてこの現実世界に隠された大いなる秘密を知ることになる。
 世界がひっくり返る、新機軸のハイスピードSF青春ラブストーリー。
監督:伊藤智彦
声の出演:北村匠海 松坂桃李 浜辺美波 福原遥 寿美菜子 釘宮理恵 子安武人
2019年9月20日公開
公式サイト:https://hello-world-movie.com/(外部サイト)
(C)2019 「HELLO WORLD」製作委員会

提供元: コンフィデンス

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