大切なのは、リラックス状態を保てる関係性を築くこと “ライブカメラマン”が切り取るバンドの日常
写真がいいだけではない 物語のある写真集を作りたい
撮影された写真、そして熱い思いを持ってジュレン氏は、出版社、音楽関係の会社を巡った。この本の担当編集であるスペースシャワーネットワークの岩崎梓氏はこう振り返る。
岩崎梓氏すごい熱量だなと思いました(笑)。ただ写真の視点や撮り方がすごく刺激的で。何より『ストーリー』が面白いと思いました。
ジュレン氏写真がいいということは当たり前。どんなに写真が良くても、それをどう見せるか、ストーリーラインが非常に重要だと思っていました。今回の場合、どういうふうに夢がかなっていったのか、夢の実現を段階的に見せていきたいと思いました。職業柄、どうやって章立てて、どう組み立てるか、論文形式な考え方は得意だったので(笑)。あわせて、見る人によって印象が変わる写真集にもしたいと思っていました。例えば、収録されたバンドのメンバーが見れば『思い出』として位置づけられる物になるだろうし、ファンから観れば、ステージの裏側のメンバーの姿が見られ、より近くに距離を感じられる。駆け出しのカメラマンは、アングルとか参考にしてもらえれば。そんないろんな角度から楽しめる作品になりました。
いい写真を撮るには 被写体と信頼関係を築く
ジュレン氏こういう写真を撮るためには、メンバーとの信頼関係を築くことが重要です。もちろん最初は、少し離れたところから撮ります。撮影した写真をメンバーに見せる。それが良ければ自然と距離が近づいていきます。その際、『こういうことはしないよ』と、メンバーに安心感を与えることが大切です。そして、何より彼らの音楽が好きという気持ちが一番にあること。バンドや曲が好きじゃないとあまりいい写真が撮れないんですよ(笑)。
実際にcoldrainのライブでは、Masatoがダイブしたシーンも収録されている。
ジュレン氏だいたいリハの時にこういう風に動くよって教えてもらうんですけど、ライブが始まったら、『(ジュレンを)困らせてやれ!この瞬間を撮ってみろ!』って予定なく、反対側にダイブしてきた。僕が客席にいて、身動きが取れない状態だって知っていたはずだから、絶対わざと(笑)。でも仲が良くて、信頼関係がないとこういうことはできないので。
ジュレン氏バックステージでは、バンドメンバーがいかにリラックスしている状態を保てるかが重要。そういうところから普段見ることのできない日常を撮れることもあるので、私にとって、日本の文化は理解しにくい部分もあって、(メンバーの心持ちを)読み取れない部分もあるので、気を付けています。幸い、『楽屋から出ていけ』と言われたことはないです(笑)。
日本のミュージシャンの方が プロ意識の高さを感じる
ジュレン氏ステージ上では違いはないです。どちらもすごいパフォーマンスをするバンドが多い。ただオフステージになると、日本人のバンドの方々はとても丁寧で礼儀正しい。時間にとても正確だし、リハの段階からきちんとやっている。すごいプロフェッショナルです。この本に出てくるCrossfaithは、飲むときはガッツリ飲むけど、ライブの前日は全然飲まない。プロ意識の高さを感じます。この本には載っていないけれど、知っている海外のバンドはそんなにきっちりしていないし、ゆるいですね。
国内に比べると小さめの会場で行われていたONE OK ROCKのコンサートも、いまや単独ツアーで大盛況するほど海外で成功を収めています。他のバンド、特にメタル系のバンドは市場が狭いので大変だと思いますけど、一生懸命やっているので、今まで以上に成功してほしいですね。
最後にこれからもライブカメラマンを続けていくという彼に、彼の専門分野である経済学的に音楽市場を分析する予定はないか聞いてみた。
ジュレン氏経済学的に音楽市場の分析に興味はあるけど、私の専門は労働市場とか失業率などに特化した経済学。分析方法が違うから、今は難しい。でも、将来的にはどうなるかわからないけどね(笑)。