米倉涼子『リーガルV』での新たな挑戦と『ドクターX』との相違点
キャラクター像から出発して元弁護士の群像劇になった
「米倉さんとは、『黒革の手帖』『ドクターX』以外にも、『交渉人〜THE NEGOTIATOR〜』や『ナサケの女 〜国税局査察官〜』などでもご一緒してきました。もちろんこれまでの信頼関係もあるのですが、それよりも視聴者に求められているから、またご一緒するという感覚のほうが大きいですね。今回はまず、今までにない新しいドラマを、これまでとは違う新しいスタッフと作りたいという米倉さんの意思がありました。『黒革』では悪女、その後は、『交渉人』で追いかける側の刑事、『ナサケの女』で国税捜査官、そしてドクターがあって、今回は元弁護士。ただ、職業で設定を決めたのではなく、まずこういうキャラクターを演じてもらおうと考えて、その絵に何が合うかを考えた結果、職業が決まっていきました。群像劇をやりたいと思ったのと、広い空間で撮影した絵を思い浮かべた結果、弁護士事務所が舞台になりました。キャストは、できるだけ今まで一緒にやったことのない人に声をかけさせていただいています」
米倉の代表作ともなった『ドクターX』。すでに米倉にはそのキャラクターイメージが定着しつつあるが、そんななかでの今回の『リーガルV』には、共通点と違いがある。
「共通点は、強そうに見えるところでしょうか(笑)。『ドクターX』のときは、群れや権威を嫌い、徹底的に個を意識したモチーフにしていました。人に理解されなくてもいいから、職人として人の命を救うことで徹底していたんです。『リーガルV』はその逆で、チームを作ることを意識したので、1人のシーンはほとんどありません」
また、医療や刑事、法廷もののドラマが目立っている昨今のドラマシーン。人気作も多いが、一方で埋もれがちなジャンルでもある。そんななか弁護士ものを選んだのはなぜだろうか。
「『ドクターX』のときは、大学病院を舞台に、人間喜劇を描こうとしたことがほかと違うトーンになりました。今回は、主人公が弁護士ではないことが大きい。なんと言っても、米倉さんは法廷に立たないですからね。資格をはく奪されても、肩書が外れても、人を救おうと思えば救えるということを映し出したいと思ったんです」
そのときの社会に感じていることが企画に反映されている
「私はプロデューサーになって長いので、何をやっても裏の『金八先生』や『渡る世間は鬼ばかり』に勝てない時代がありました。だから今も毎回チャレンジをしている感覚があります。視聴者に求められているから、ということでは作っていませんが、結果的にそのときの社会に感じていることが企画に反映されていたと感じることはあります。『ドクターX』のときは、歯に衣着せぬ痛快な女性が主人公だったことが結果的に人気を得ました。あのころは、リーマンショック後で組織も企業も混乱していて、まだ忖度や御意なんて言葉は広まっていなかったけれど、言いたいことが言えないムードがあったので、そんな気持ちの悪さを大門未知子に打破させてみたら、それが刺さりました。今回の『リーガルV』では、最近はよかれと思ってしたことが裏目に出たりして、人と人が接することが難しくなっていると感じているんです。表向きは優しそうな人が実は薄っぺらくて情がなかったりすることもあります。今回、米倉さんが演じる小鳥遊翔子は、人をこき使う酷い人間で、彼女の下で働く人たちは、彼女の悪口を言いながら一致団結していくんですけど(笑)、実はそんな小鳥遊翔子がみんなを一番成長させている。怒ることと意地悪することは違うし、表面的なことで閉じてしまわないような関係性が描ければと思います」
「とにかく街に出るようにしています。業界の人以外と飲みに行ったり、お昼に1人でランチに行って、店員さんとお客さんの会話を聞いたり。ドラマのセリフはほとんどそうやって街から集めたものだったりするし、『リーガルV』も『ドクターX』も登場人物たちは、社内にモデルがたくさんいます。みんな気づいていないと思うけど(笑)。制作者に必要なのは、想像力よりも観察力だと思っています」
※視聴率はビデオリサーチ調べ、関東地区
(文:西森路代)