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東京五輪・パラ開閉式総合演出チームに参画 栗栖良依氏、ダイバーシティ実現へのカギは「エンタメ活用」

 高校生の時に見たリレハンメル五輪開会式に感銘を受け、イベントや地域プロデュース等の道に進んだ栗栖良依氏。10年、悪性線維性組織球腫を発病し障害者となって以降は、各アーティストや地域と障害者を繋ぐ活動を展開。16年のリオ・パラリンピックの旗引継式ではステージアドバイザーを務め、現在は「東京2020 開会式・閉会式 4式典総合プランニングチーム」のメンバーとしても活動している。2020年に向けダイバーシティの実現が求められる今、「エンタテインメント業界の役割は非常に大きいはず」と栗栖氏は語る。

リオ・パラ閉会式の成功要因は“遠慮”を一切排除した演出

――16年のリオ・パラリンピック閉会式の旗引き継ぎセレモニーが「超絶カッコいい!」と話題を呼び、“障害者による舞台表現”への価値観を根底から覆したのは今なお記憶に新しいところです。栗栖さんはステージアドバイザーとして、どのような関わりをされたのですか?
栗栖 あのセレモニーが成功したのは、振付のMIKIKOさんをはじめとする演出の方々が遠慮を一切せず、「カッコよさ」を追求されたことが大きかったと思います。たしかに当初は、「障害者にこういう表現を求めて良いのか?」と多少躊躇されることも感じました。でも、そういう遠慮をしていると、表現のクオリティを向上させることはできない。普段のやり方が通用しない部分はすべて私たちが埋めますから、手加減せずにいつも通りの演出をしてくださいと背中を押したのも、私の役割だったと思っています。
  • 栗栖良依氏 (撮影:鈴木かずなり)

    栗栖良依氏 (撮影:鈴木かずなり)

――“私たち”というのは、栗栖さん以外のどなたを指すのでしょう?
栗栖 リオ・パラリンピック閉会式のステージには障害者パフォーマーのほかに、私がディレクターを務めるSLOW LABELが育成している「アカンパニスト」が4名、「アクセスコーディネーター」が4名参加しています。「アカンパニスト」とは伴走者、つまり障害のある人と共に舞台に立ち、パフォーマンスをするスペシャリストです。重要なのは、アカンパニストはいわゆる支援者ではなく、あくまで表現者であるということ。互いの力を引き出し合い、表現を高めるのがアカンパニストの役割です。リオでは車椅子ダンサー8人中4人がアカンパニストだったのですが、共にパフォーマンスをするにしても、(アカンパニストが)いかにも車椅子を押しているようでは舞台表現としてカッコ悪いですよね。普通に押すのではなく、例えば、ダウン症のヒップホップダンサーと一緒に踊りながら定位置に誘導するなど、観客にわからないようにサポートを表現に落とし込むのがアカンパニストの腕の見せどころです。

――多様な体の特徴を生かした動きは、健常者には表現できない斬新さがありました。また皆さん非常にスキルフルだったのも印象的です。
栗栖 車椅子ダンサーの1人の神原健太さんは、もともとSLOW LABELが主催する身体表現のワークショップへの参加をきっかけにダンスを始められたんです。リオ閉会式で注目を集めて、今やいろんなステージに引っ張りだこなんですよ。

――リオ閉会式では出演者のキャスティングも務められたのですか?
栗栖 義足モデルのGIMICOさんは広告の世界で活躍していますし、義足ダンサーの大前光市さんも舞台の世界で著名な方なので、すでにキャスティングされていました。しかし、演技力だけでない、体力や自己管理能力など、総合的な判断の面でお手伝いしました。ただ、リオ・パラリンピックの閉会式は8分間のステージでしたからあの人数でもなんとかなりましたが、2020年の東京・パラリンピックのセレモニーはもっと長時間かつパフォーマーの人数も必要です。また、IPC(国際パラリンピック委員会)には、セレモニーに出演する障害の種別の規定があり、健常者パフォーマーだけでは成立しない。私は現在、「東京2020 開会式・閉会式4式典総合プランニングチーム」のメンバーとして携わっていますが、なるべく多くの障害当事者の方の出番を作りたいですね。
――SLOW LABELが育成しているもう一方のスペシャリスト「アクセスコーディネーター」についても教えていただけますか?
栗栖 こちらは障害者が表現活動に参加する際の、さまざまなバリアを取り除くサポートをするスペシャリストです。このアクセスコーディネーターとアカンパニストを育成するきっかけとなったのが、14年に初開催した「ヨコハマ・パラトリエンナーレ」です。障害者とさまざまな分野のプロが協働して新しい芸術表現を生み出すアートプロジェクトで、私は総合ディレクターを務めています。第2回開催の17年は100名以上が参加するダンス劇や、空中パフォーマンスを盛り込んだ現代サーカスなども含む大規模かつハイクオリティなフェスとなりました。しかし、初年度の14年開催は課題が山積でしたね。市民参加は多かったんですが、障害を持った方たちがほとんど参加
してくれなかったんですよ。

障害の有無を超えた“参加”が、エンタメ表現を豊かにする

――初開催したうえで、どのような気付きがあったのでしょうか。
栗栖 先ほどアクセスコーディネーターの役割として「バリアを取り除く」と言いましたが、バリアというのはフィジカル面だけでなく、実はメンタル面にもあるということに気付かされました。要は障害者自身やその保護者が、「参加することで迷惑をかけてしまうのではないか」と遠慮してしまうんですね。『ヨコハマ・パラトリエンナーレ』でやっているワークショップを施設などに持ち込むと、みんな心から楽しそうに参加するんです。だけどいざ施設の外、つまり不特定多数が集まる場に参加するとなると、そこには高いバリアが存在するんだなと。
――17年のパラトリには、すでにアクセスコーディネーター、アカンパニストを設置していたんですか?
栗栖 はい。15年、16年と、この2つのスペシャリストの開発・育成に取り組んできました。当事者や保護者が、演出家や(健常者の)アーティストには遠慮して言えないことが相談できる。一方で演出家やアーティストがうまく伝えられなかったり、誤解を生んでしまいそうだったりすることを間に入って通訳するのもアクセスコーディネーターの役割です。このスペシャリストを設置したことで、メンタル面のバリアもかなり取り除かれたのではと思います。

――リオ・パラリンピックの閉会式では具体的にどのような役割を担ったのでしょうか?
栗栖 細かいことはたくさんありますが、1つ例を挙げると全盲の檜山晃さんは1人暮らしの方なので、出発の荷造りからフォローしました。また、リハーサルでも檜山さん以外は目で情報を得ることができる人たちだったので、見えることが前提で演出のレクチャーがされます。そこでアクセスコーディネーターがマンツーマンで付いて何が起こっているか、どこへ動けばいいかといった説明をしました。ちなみにSLOW LABELのアクセスコーディネーターは看護や福祉関係の資格を保持しているだけでなく、多少なりとも演劇やダンスなどの経験のある人たちがほとんど。本人はステージに立つわけではないですが、アート・芸能関係の知識や理解もあるというのがスペシャリストたる所以です。
――ところで、冒頭で「演出側の遠慮が表現のクオリティを妨げる」というお話をされましたが、そもそも障害者側にも遠慮があるわけですね。
栗栖 遠慮というのは心の有り様なので、そこはお互いに成熟していくべきですし、それがアートやエンタテインメントをより豊かにするとも思います。そのような真のダイバーシティ社会に向かっていくためにも、2020年はとても重要な年になると思います。そのためにも総合プランニングチームのメンバーとして、本質のコンセプトの部分からしっかりと携わっていきたいですね。

――エンタメ界が障害者を起用するうえで、アカンパニストやアクセスコーディネーターの存在は非常に重要になってくると思います。一方でエンタメ界としては、どのようなことに留意しておくべきでしょうか。
栗栖 私自身が障害者になって初めて見た五輪がロンドン大会だったのですが、パラリンピックの開会式を観てショックだったんです。ロンドンではこんなに多くの障害者がプロの俳優やパフォーマーとして活躍しているんだと。人数が多いということはそれだけ起用の場も多く、また彼らの間にも競争があるわけですよね。日本ではまだその状況にはなっていませんが、多様な体の特徴を持った方を日常的に目にする社会を作るうえで、エンタメ界の役割は非常に大きいはずです。そして、その人のスキルを認めて起用するなら、ぜひ一時のブームで終わらせないでほしいと思います。

文:児玉澄子/写真:鈴木かずなり

(『コンフィデンス』 18年5月21日号掲載)
◆栗栖良依(くりす よしえ)
 1977年、東京生まれ。東京造形大学を卒業後、全国で地域のプロデュース業等に携わる。10年、右脚に悪性線維性組織球腫を発病し休業。11年4月に社会復帰し、アーティストと障害者施設が出会い、次世代型のモノ作りを試みる実験事業「横浜ランデヴープロジェクト」のディレクターに就任。そこから派生し、すべて一点モノの手づくり雑貨ブランド「SLOW LABEL」を設立。14年にはNPO法人スローレーベルが立ち上がる。現在は「東京2020 開会式・閉会式 4式典総合プランニングチーム」のメンバーとしても活動中。

提供元: コンフィデンス

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