【ディズニー連載】データベース構築を現地取材 「受け継がれるDNA」と「支えるシステム」
ウォルト・ディズニーが唱えた過去から学ぶARLの重要性
長きに渡って積み重ねられてきた、まさにディズニーアニメーションの歴史そのものになる膨大な資料を保存、管理しながら、クリエイターなどディズニースタッフの誰もが閲覧できる状態に置くARLの重要性は、創業者であるウォルト・ディズニー自身が唱えていたという。新作に取りかかるクリエイターは、そのときの流行に左右されるのではなく、過去の資料に当って学ぶことで、それまでディズニーが積み上げてきた経験値を下地として活かしながら、時代ごとの世界観を有する新たな作品を作り出していく。
その資料は、日本を含む世界中のどこのアニメーションスタジオにもないであろう歴史、数、価値を誇る、唯一無二のディズニーの財産であり、そのレガシーを活用することを根源とするディズニーの強さを、他のスタジオがそのまま見本として習うことはまず難しいだろう。だからこそ、アニメーターたちがそろって「ディズニーの心臓部であり、命綱」と呼ぶARL。
本社(ディズニー・スタジオ)、ディズニー・アニメーション・スタジオとは別の場所に独立して設立され、所在地は非公表、外観撮影NGという徹底したセキュリティのもと運営されているそのARLを訪れ、他に類を見ない資料ライブラリー運営の内情に迫った。さらに、ディズニークリエイターたちに日常の利用状況やその存在意義について聞くと、ディズニーならではのARLの存在が立体的に浮かび上がってきた。
最重要プロジェクトとして進行中のデータベース構築
これまでに7年間をかけて約150万点の資料をデータ化。そのデータベースは「GEMS」と名づけられたディズニー独自のイメージブラウジング・システムで、ARLのほかディズニー・スタジオ、ディズニー・アニメーション・スタジオ、ディズニー・トゥーン・スタジオ、ピクサー・アニメーション・スタジオの4つのメインスタジオで閲覧可能になっている。
加えて、作品人気に関わらず優先されるキーワードが“アイコニック”。「ディズニーらしさのある象徴的なシーン。さらにそれにまつわるシーンや作品など、関連してクリエイターたちが参照したいと思うような資料を予想して、真っ先にデジタル化しています」(フォックス氏)。作品の人気、資料的な価値のほか、ディズニーのレガシーを熟知したARLスタッフの経験値に基づいた、クリエイターたちが過去から学ぶために必要な資料が、データ化優先順位の法則になっている。
アートワークのデータ化におけるディズニーメソッドとは?
6つのパラメーターからはそういった感覚的な要素の検索は不可能なようだが、フォックス氏は「GEMSの利用者がどれくらい作品のことを深く理解しているかによって、より詳細な検索をすることができます。『塔の上のラプンツェル』の企画開発をしていたプロデューサーは、50年代の『シンデレラ』『眠れる森の美女』から近年の作品まで、さまざまなプリンセスを調べて、そこからあらゆることを学ぼうとしました。すべてのスタッフにとって、それぞれの使い方とメソッドがあるんです」と語る。感覚的な要素から資料を探すためには、利用者それぞれが想像力を膨らませることでツールの機能を補完していくという。
ARLのもっとも大きな役割はディズニーDNAの継承
これほどのアーカイブを持つ制作スタジオは、世界中を見渡してもまず見当たらない。そんな唯一無二の資料ライブラリーを活用することが文化になっているディズニーの事例を、他スタジオがそのまま当てはめるのは難しいかもしれないが、その強さの源を知ることで学ぶことはあるだろう。フォックス氏はARLを「世界に類を見ないアーカイブ。その力を信じて管理しています」と誇らしげに語っている。
(文:編集部・武井保之)