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【たかぎさんコラム】武幸四郎調教師「競馬を長く楽しんでほしい」馬主と築く“信頼関係”


【たかぎさんのおはなし-競馬と人がつないでくれる日常-】

前回は、武幸四郎調教師が北海道を一人で回りながら馬を探している話を書いた。今回は、その先の話。馬を見つけて、馬主さんに薦めて、預かることになったら、そこからどんな付き合いが始まるのか。

話を聞いていると、幸四郎さんは馬を選ぶ時だけではなく、その後の関係もかなり大切にしているようだった。

「ちゃんと喋って、コミュニケーション取って、『あの人、信頼できる』って思ってもらって」

馬を買う時だけ会って、あとは結果だけを報告する。そういう関係ではないらしい。

幸四郎さんに、馬主さんと食事へ行くことは多いのか聞いてみた。「1回も行ったことない人の馬、まず預かることはあまりないですね」

もちろん、すべてがそうというわけではない。ただ、馬を預かる前から話をして、お互いがどういう人なのかを知ることを大切にしている。

「だって、お互いどんな人か分かんなくて。買った時だけでね」

競馬は、結果が分からない世界だ。どれだけ考えて選んでも走らないことがあるし、逆に、思いもよらない馬が走ることもある。

「結果が分からない状況で喋ってるから」

だからこそ、その前に人として信用してもらうことが必要なのだという。

これは、競馬に限った話ではない気がした。どんな仕事でも、うまくいっている時は大きな問題にならない。でも、何かがうまくいかなかった時に、それまでどんな関係を作ってきたかが出る。

まして競走馬は、何千万円、時には億単位のお金が動く。レースに出れば、ほとんどの場合は負ける。以前、幸四郎さんは「なんか常に謝ってる気がする」と笑っていたけれど、馬主さんとの付き合いは、馬を買った瞬間から何年も続いていく。

「1億円なら、僕は1億円の馬は絶対買わない」

牧場写真
牧場写真

そんな話をしていた時、これから初めて馬主になる人の話になった。もし「予算1億円で馬を買いたい」と相談されたら、どうするのか。幸四郎さんの答えは意外だった。

「1億って言われたら、僕、1億の馬は絶対買わないですよ。初めての人なら」

僕はてっきり、1億円の予算があるなら、その中で一番いい1頭を探すものだと思っていた。でも、幸四郎さんは違う。

「5000、6000と4000にしましょうか。7000と3000にしましょうか」

つまり、1頭にすべてを使うのではなく、2頭に分ける。

「僕やったら絶対、『2頭にしません?』って言う」

もちろん、2頭にすれば安心という話ではない。競馬だから、2頭とも走らない可能性だってある。それでも、初めて馬主になる人に1億円の馬を1頭だけ薦めることはしないという。

なぜ、1頭ではなく2頭なのか。話を聞いているうちに、幸四郎さんが考えているのは、単純なリスク分散だけではないようだ。

「長く楽しんでほしいですよね」

この言葉が、一番分かりやすかった。馬を買ったら終わりではない。レースに出て、勝つこともあれば負けることもある。翌年になれば、また「今年、何買いますか」という話をする。

そうやって何年も競馬を楽しんでもらいたい。そして、幸四郎さんが大切にしているのは、その間にある馬主さんとの信頼関係だった。

「この人を信用して、っていうのもあるし。こっちも、あの人のために、っていう。そういう信頼関係」

馬主さんが調教師を信用して馬を任せる。調教師も、その馬主さんのために考える。どちらか一方だけではない。馬の最終的な判断についても、幸四郎さんの考え方ははっきりしている。

「僕、前もって全部見るから、『この辺がいいと思いますけど』って言って。最後、自分の好みがあるならオーナーが」

調教師として候補を薦める。でも、最後に決めるのは馬主さんだ。自分が選んだ馬を押しつけるわけではない。

「僕の考えは昭和なのかもしれないけど」

武幸四郎調教師 (C)競馬のおはなし
武幸四郎調教師 (C)競馬のおはなし

幸四郎さんは、自分のやり方について、こんなことも言った。

「僕の考えは昭和なのかもしれないけど」

今は血統やデータを見て馬を選ぶ方法もある。AIのような新しいものも出てきている。もちろん、そういうやり方を否定しているわけではない。ただ、どれだけデータを見ても、何億円という値段がついた馬が未勝利で終わることはある。

競馬に絶対はない。

だから幸四郎さんは、人と話をする。その人がどういう人なのかを知り、何をしたいのかを聞く。馬を薦める時も、自分で見た上で候補を出し、最後は本人に決めてもらう。

そして、できれば翌年もまた一緒に馬を選ぶ。派手な話ではない。でも、僕にはその方が競馬を長く楽しめそうに思えた。

でも、その馬を誰と選んだのか。うまくいかなかった時に誰と話すのか。そして、次の年もまた一緒に馬を選びたいと思えるのか。幸四郎さんの話を聞いていると、馬主として長く競馬を楽しむには、そういうことも大切なのだと思った。

強い馬を持ちたい。大きなレースを勝ちたい。もちろん、僕だってそう思う。でも、その前に、

「この人と一緒にやりたい」

と思えること。幸四郎さんが大切にしているのは、たぶんそういう関係なんだと思う。

◇たかぎさん(高木翔太)
都内在住、35歳。マーケティング・コンサルティング事業を手がける傍ら、一口馬主クラブなど競馬関連の仕事にも携わる。競馬歴約7年。ディープインパクトとの出会いをきっかけに競馬の魅力に惹かれ、現在は馬主資格も取得。競馬を通じた人とのご縁を大切にしている。

提供元:競馬のおはなし

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